第十六話 簡略的力の説明?
私がスピリアって力を使える? おかーさんは確かにそういった。
ここんとこよく耳にするスピリアって力、どんな力なんだろ?
奏音はそんなことを考えながらケイトの話の続きを待っている。
「カノン。マリシアの力の源っていうのはね、スピリアから来ているの。 だからマリシアを使えるってことはスピリアの力も当然あるってわけ」
奏音に説明を始めるケイト。奏音はその話しを真剣な眼差しで聞き入る。
「人の体自体が出す力は限りあるものだわ。そりゃそうよね、人の体の大きさなんてたかが知れてるんだもの。竜なんかとなんて、比べるのもバカらしくなっちゃうわよね? でもスピリアの力を利用することで、その体の大きさを補って余りある力を出すことも可能なの」
そして奏音を見ながら続ける。
「あなたがそのいい例よね? カノンが力を振るうとき……ごく自然に体に、足や手に、力を入れるわよね? それで物を動かしたり走ったり、飛んだり跳ねたり……ね。普通はそれでおしまい」
ここまでの話しをまず確認するように奏音を見るケイト。
うなずく奏音。
「でもそこにさらに自分の想い……、願いって言ってもいいわ、それを上乗せすることでその力を2倍にも3倍にも出来るようになる……、そりゃ個人差はあるけどね。もちろん普段ものを持ったり運んだりするときも考えてるんだから、ある意味想いをもって動いてるっていえるのかもしれないけど……、ちょっと違うのよ」
ケイトは説明しながらも、どう説明するか迷っているようだ。
「普通、体を動かすときに手をどうやって動かして、次に足をこうやって……なんて考えながら動いてなんかいないわよね? そう、考えるまでもなく自然に体は動いてる。条件反射的に、無意識にっていうのかしら?」
言葉を探しながら一生懸命説明してくれているケイト。
そんなケイトの言葉を、かわいらしい顔でうんうんうなずきながら聞く奏音。
「無意識に行なってる動きに、想い、願いをうまく重ね合わせるっていうのは簡単そうに思えて実際はすごく難しいの。そもそも最初は相当に集中しないと、例えば……矢をつがえることすら満足に出来ないわ? 私も昔苦労したもの。体に力を乗せて強弓に矢をつがえることが出来るようになるまでどれだけかかったことか……。それこそずっと、弓に矢をつがえることを一心に念じながら……なんだから」
そういうと肩をすくめるケイト。
そしてそんなものなの? というふうに、口を小さく開けた愛くるしい顔をケイトに向ける奏音。
「ふふっ、カノンったらかわいいんだから」
思わずまた頭をなでてしまうケイト。そしてまた話しを続ける。
「まぁ、そんな苦労をなるべくしなくていいように、教会が効率いい指導をしてくれるわけだけど。ただね……」
そこまでいって言いよどむケイト。
「あっと、話がそれちゃったわ」
いかにも不自然な話のそらせ方をするが、とりあえずつっこまないことにする奏音。
「で、結局。自分の体の動きに想いを重ね合わせること、それによっておきる身体機能の強化のことをマリシアって呼んでるわけね。そして、それを進めて……その想いや願いを身体強化ではなく、直接外部に及ぼすこと。体を介さずにその力を行使することが出来るようになることをスピリアが使えるようになったって呼んでるわけなの。だからマリシアっていうのもスピリアの一種といえるわけね。
そしてそうやって力を行使できるようになった人のことをマリシア使い、スピリア使いって呼んでるわけ。でもスピリア使いの数は年々減ってきてるみたいだし、私が実際に見たことあるのも数人程度でしかないんだけどね」
ケイトはごく簡単にスピリアの説明を行なった。
なるほど、マリシアが身体機能の強化だってのは納得だ。でもスピリアってのは……なんか聞いてると、まんま超能力みたいな感じに思えるよ? 体を介さずに力を行使する……だなんて、まんまじゃん。
それにしてもマリシアってのも結局筋力を上げるってよりも、そのスピリア(=超能力?)で動作の補助をしてるっていうのが正解なのかな? 体の動きに合った力の放出をしてたから、さも自分に馬鹿力が宿ったみたいな気になってたってことでしょ。
で、普通その力は自分の体より外に出して使うことが出来ない、……要は空間を隔てた場所への力の干渉は難しいってわけなのよね?
で、それが出来るか否かがマリシア使いとスピリア使いの差になるってことなんだ。
「ふ~ん……。なんとなくだけどわかったような気がする ありがとう、おかーさん!」
奏音は苦労しながらも説明してくれたケイトにお礼をいう。
「いえいえ、どういたしまして。ごめんね? 簡単な説明しかできなくって。まぁ、あとは教会へ通うようになればシスターから教えてもらえると思うから」
ケイトの言葉にそういえばと疑問を口にする奏音。
「おかーさん、シスター オクテインと親しいの? シスターのこと話す時、ずいぶんくだけた感じに聞こえたんだけど」
「ん? ああ、そうね。シスター……カルアとは同郷なのよ。それにニックが教会とは色々あるから」
そういいながら苦笑いをするケイト。
「同郷? おかーさんはここで生まれたんじゃないの?」
ケイトの言葉のニュアンスにちょっと疑問を感じた奏音はふたたび問う。
「ええ、そうよ。私はヘプテ、最北の都市ヘプテ出身なのよ。そしてカルアも同じヘプテ出身。ちなみにニックもそうよ。ヘプテで知り合って……、10年ほど前……に一緒にここへ逃げてきたのよ」
そう言いながらもケイトの表情はちょっと沈んだものとなっている。
うーん、これまたなんか"いわく"ありそうな雰囲気アリアリのミエミエだよねぇ? ……聞いちゃったらまずいのかな?
奏音がもうちょっと話しを突っ込もうかどうか悩んでるとき、騒々しい声と共にいきおいよく入り口が開く。
「今帰った! ケイト、腹減った~い! メシ、メシ~!」
ニックが農作業から帰ってきての開口一番がこれである。
今までの雰囲気ブチコワシだ。
ニックの働く農場は城郭の外にあり、農作業といえどその危険度はすさまじく高い。とはいえ、城郭内だけで都市の食料をまかなうほどの収穫は得られるはずもなく、必然的に外での農場運営になるのは仕方ないところだ。
運営は個人でやっているわけではなく、自警団と同じグループでもって割り当てられた区画の農地で作業している。農作物を作っていると当然それを狙ってやって来る動物も多い。
とは言っても竜が狙ってやって来ることはなく、また草食の竜はもっと北の温暖なところにいるので、作物を狙ってやってくるのは奏音にもおなじみの哺乳類の小動物がほとんどであるのだが。
それでもいつ肉食竜の襲撃があるやもしれず、そのためにも自警団での見張りは重要なものとなっているわけである。
奏音とケイトはそんなニックを見て顔を見合わせてクスリと笑いあった。
そして奏音はこれ以上話をすることはあっさりあきらめ、ケイトの食事の準備を手伝うことにする。
「はいはい、ニーック。食事はちゃんと出来てるわよ? 今日は、この間あなたが農場でしとめた角イノシシの肉を煮込んだシチューよ。
あぁ、ちゃんと手を洗いなさいよ? 汚い手のままで食事なんてさせないわよ」
「おっ、いいねぇ。しし肉のシチューはオレのお気に入りだ」
そう言いながらも、いわれた通り部屋の隅に作られている水場にある桶から洗面器へと水をとり、手と顔を洗うニック。
ちなみに桶への水汲みは最近の奏音のもっぱらの仕事である。
街にいくつかある広場、そこにある共用物である井戸まで、毎朝夕と水を汲みに行くのは結構な重労働であるが、そこはそれ、流され人でありマリシア使いである奏音にはお茶の子さいさいであるわけで、まさに適任といえよう。街の井戸での奏音はそこに集まる女衆の中でかわいがられまくっているのは言うまでもないことである。
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「カノンを教会にか? うーん……、正直オレはあんまり気が進まんが。 あのカルアに一時でもカノンを預けるなんざぁ」
ニックはそういいながらいかにもいやそうな表情を浮かべる。
「ニック、あなたがカルアを苦手に思う気持ちもわかるけど、カノンをいつまでもブラブラさせておくわけにもいかないでしょう? この世界のことについても、もっと勉強もしなきゃいけないし、何より力のこと……キッチリ理解してもらわなきゃ危険だわ」
ケイトはそういってニックの説得にかかっている。
奏音はそんな二人の会話を聞き、なんでおとーさんはそんなにシスターが苦手なんだろうと考える。教会嫌いとはまた違うようだし、それに同郷だっていうし……。歳だっておとーさんのが間違いなく上なんだから、何をそんなに苦手とするのかわかんないや。
「あなたもカノンが変に他のシスターや、ましてや司祭様なんかに目をつけられたりするの、いやでしょう? その点カルアなら気心もしれてるし、実力も文句なし! 安心して任せられるわ」
「むむぅ、まぁそうなんだが……。くぅ~、なんだか釈然としないぜぇ。
……だが、まぁしかたねぇ、カルアに預けてやるか! 今のオレじゃ、カノンの手本にはなれねぇしな」
ニックはそれはもう悔しげにうめきながら言うとカノンの方を見て、その大きな手を小さなかわいらしい頭にのせグリグリとまわすようになでながらいう。
「カノン、ほんとはいやなんだが……」
「もう、まだいう? ニック!」
あきらめの悪いニックをにらむケイト。
「おっと、すまねぇ。あ~ゴホン! カノン、おめぇもいつまでも家にこもってたんじゃつまらねぇだろうし、友だちも増えねぇ。それに勉強もやっぱ大事だし、その、なんだぁお前の力もキッチリ使い方覚えなきゃなんねぇ」
やっと話し出したニックの言葉を聞き逃すまいと、ニックを見つめ聞き入っている奏音。
ケイトはそんな二人を微笑ましい表情で見ている。
「だから……教会行って色々教えてもらってこい。話しはオレがキッチリつけといてやる」
そういって奏音の頭をぽんっとたたくニック。
奏音は、うれしそうに目を細めながら、
「ありがと~、おとーさん! 大好きっ」
といい、そしてニックの首にがばっと抱きつく。奏音は特に意識しなくても、どんどん外見相応の態度が自然ととれようになってきている。
そして突然の奏音の行動に、思わずよろけそうになるがなんとか建て直し、そのまま奏音を抱きかかえる。その顔は満面の笑顔で、その目じりはだらしないく垂れ下がっている。普段の男らしい面構えはどこへいったのやら?
ケイトはそんなニックにあきれつつも、ニックがキッチリ認めてくれたことに安堵し、ほーっと息をはく。
それにしてもカノンもずいぶん懐いてくれたものだ。子供の授からなかった自分たちには今やカノンの存在は無くてはならないもの、……だからこそニックも余計にカルアの元に行かせるのを躊躇したのだろう。
ほんと、いつまでも昔のこと根に持ってるんだから……。
そしてそんな中、ニックは最後にもう一言、マジメな顔をしてカノンにいう。
「カノン、教会行って勉強して、力も理解して今よりもっと使えるようになったなら……、必ずお前に声をかけてくるやつが現われる。そんなコトがあったら、まずはオレたちに相談しろよ? 一人で判断とかするな? 突っ走るなよ? マジでこれだけは必ず約束してくれ。いいな?」
なんだかしつこいくらいに念を押してきたニック。なんかよくわかんないけど、とりあえずウンというしかない。
「わかった。約束するよ? まかしといて」
もう安請け合いといっていいノリで約束した奏音。
そんな二人を見つめているケイトは困ったものねと、今度はため息をつく。
「ほら! 二人ともいいかげんご飯食べましょう? でないとシチュー、煮込みすぎて無くなっちゃうわよ?」
そういって、なかなか終わろうとしない話しをぶった切るケイト。
「おっ、いけねぇいけねぇ、せっかくのしし肉シチューだ。台無しにしちゃなんねぇ。
さっ、カノン。ケイト自慢のシチューいただくとしようぜ?」
「うん! おいしそうだよねぇ……。ん~と、でもなんか忘れてる気が……」
しばし考え込む奏音。
「あ~っ、スパナのこと忘れてた! 連れてこなきゃ。部屋に置き去りにしたまんまだぁ! す、拗ねてるかも~」
奏音はそういうと自分の部屋へ慌ててパタパタと小走りで向かう。
ニックとケイトはそんな奏音をやさしく見つめる。
そして奏音が「くぅ~んくぅん」と拗ねたスパナを連れてくると、ようやく晩ご飯の時間となるのであった。
動きがなくてすみません。
設定って難しい……私はやってしまったのでしょうか。
意味不明ですね。