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荒野を進めばそこは異世界  作者: ゆきのいつき
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第十五話 おさらいしてみよう

「う~ん、やっぱ似てるなぁ……この世界と私の(元の)世界」

 奏音はノートパソコンの画面を見ながらひとりごちる。


 今、奏音が居るのはおかーさんたちにもらった自分の部屋……、元物置小屋の四畳半ほどの狭いスペースにアウトドア用のこじんまりとしたテーブルとイスを置き、天上にはこれもまたアウトドアで使用していたLEDランタン(もちろんソーラーチャージだ)を吊るし、多少文明的な雰囲気を作り出すことに成功した? 奏音の部屋である。

 他にも藁のベッドには封筒型のシュラフ(寝袋)を1枚下に広げ、更にもう一個の同様のシュラフを掛け布団にして眠っている奏音だった。

 ちなみに眠る前には携帯音楽プレーヤー(iP○d)で、元の世界の音楽を聴きながら眠りに落ちるのがここ最近の日課だ。(充電はソーラーからでもマシンからでも自由自在だから困らないし、曲のストックは膨大だ)

「言葉はやっぱ、英語ベースなのは間違いないよ。 アルファベットも微妙に違うとこあるけどほとんど一緒だ。 地形もよく似てるし、1日の長さも一緒。 逆に違うとこ探すほうが難しいくらい。 単位とか言い回しが多少違うけど数値自体は同じだし……」

 一人でぶつぶつ言いながらノートPCにデータを入力していく奏音。


「これって……、SFとかでよく出てくる、平行世界パラレルワールドってやつじゃないのかなぁ? 自分の世界とほんの少しずれた、ほんの少し違う世界。 そんなずれた世界がいくつも平行して、重なるように存在してるってやつ」

 学生時分によく読んだ小説からそんなコトをつい考える奏音。

 そして今まで知りえた情報から、平行世界であるってことを前提に色々と想像を広げる奏音。

「たとえば、この世界にいる、竜って呼ばれてる生き物……」

 奏音の世界での恐竜や翼竜にそっくりな竜たち。 これも微妙に姿が違うとはいえ自分の世界にもいたものだ。 ただし大昔に絶滅しているが……。

 そう、たとえば……この世界ではその恐竜たちが絶滅していない、無数に存在する平行宇宙の一つだったとしたら? 自分の世界では恐竜は巨大隕石の衝突で起こった気候変動が原因で滅んだといわれてる。 この世界ではそんな隕石の衝突がなく、恐竜も絶滅しなかったのかもしれない。

 昼間のシスターの話で、竜は温暖なところに多く生息して、人は寒冷地に細々と暮らしてたって話があったけど……。 逆に言えば寒いとこでは恐竜は住めないてことで、恐竜にとって今のこの世界は、昔の地球みたくどこにでも住んでいられるってわけではなさそうだよね。

 なにより超大型の草食恐竜みたいなのは居なさそうだし……。 それってそんな大型恐竜が生き抜ける環境じゃなくなったってことで、多少の気候変動とかはやっぱあったってことだろうなぁ。 そうだとしてもこの世界の温暖な地域にどれくらいの恐竜たちが生息してるんだろ? ちょっと興味あるけど……、

「あんなテュラノみたいな竜がいっぱいいるかと思うと……やっぱぞっとしないや」

 そういって一人肩をすくめる。

 


「ふう、なんか私っていいセンついてるんじゃない?」

 PCへのデータ入力に一息つきながらそんなことを言う奏音。

 そして電気式のポットで沸かしたお湯でココアを入れ、その甘さで疲れを癒す。 やっぱ文明の力は偉大だよね、えへへっ。

(ちなみに電気の供給は、屋根にソーラーパネル(24V仕様)を設置、そこからバッテリーに蓄電、そしてインバーターで100Vに変換して使用していたりする)


 一息いれるとまた続きを始める奏音。

 私の世界とこの世界。 平行して時間が流れていると仮定した場合、こっちの世界の文明のこの立ち遅れ感ははなはだ疑問だ。 私の世界じゃ衛星を数多く打ち上げ、宇宙ステーションも大国なら一つや二つもってる。 そして月にも人が住み、火星にももうじき人が降り立つってとこだった。

 それに比べてこっちはまだ中世。 馬車が走り、電気も当然なく、上下水道も中途半端。(あるとこにはあるらしい) おかげでお風呂も入れず、トイレが悲しい……。 学校は教会がその役目を果たしてるようだけど、全ての人が教育を受けてるわけでもなく、識字率も低いみたいだし……。

 これはやはり恐竜(他にも何かいるかも? だけど)がこの世界を支配してて、人は隅っこで細々と生きてるってのが大きいのかも知れない。 人間が食物連鎖のピラミッドの頂点じゃないのだ。

 それに宗教の問題もあるかもしれない。 どんな世界でもそれは難しい問題をはらんでるかもしれないし……、実際あるみたいだし。

 やっぱ科学と宗教は相反するものだし、宗教が強くなりすぎると文明は停滞するものなんだろうしね。

 それでも少しずつは竜に対抗して温暖な土地に人が進出して……、あ、でも進出っていうのも変か? 都市を一つや二つ増やしていったとしても世界全体で見ればたかが知れてるよね? 都市っていったってたかだか1、2万人? レベルだもん。


 なんかこの世界の人間って悲しいよね……そういう意味じゃ。


「はぁ、まぁこんなのは考えたってしかたないっちゃ仕方ないんだけど。 とりあえずこれくらいにしとこ」 

 奏音はここまでの考えをノートPCにデータとしてまとめると、気になっているもう一つの疑問。

 っていうかこれこそ今一番重要なんじゃないかって思えること……、シスターの話に出てきた"マリシア"と"スピリア"って力の話を思い返す。 なんらかの力のようだったけど肝心の力の内容については言及がなかった。

 これは周知の事実だから言わなかったのか、それとも講話っていう、誰もが聞く可能性のある話だからそこまで詳しく言わないようにしているのか?

 なんにしても消化不良も甚だしい。 少なくともその力は温暖な地へ進出するのに有効な手段になっているのだからそれ相応のものなんだろうと思うんだけど……。

 まぁ、シスターの話は神様とからめた話しになってて相当うさんくさいものではあるけど……、宗教がからむとそうなるのは致し方ないことなんだろう。


「う~ん、悩んでてもしょうがないし今度シスターに話聞けるのもいつになるかわからないし。 ここはやっぱおかーさんに聞いてみよ~!」


# # #


「マリシアにスピリア? か、カノン、あなたそれって……」

 夕食の準備をしていたケイトに奏音が声をかけ、そのいきなりの質問に言葉をつまらせる。

 ああ。 そういえば今日、教会へ行ったんだったわね。


 カノンの話だとどうやら今日は城郭都市の始まりの話や騎士団の話もしたようだ。 その流れでスピリアの話も出たんだろう。

 カルアったら余計なことまで……。

 スピリアの話しはもうちょっと後、……カノンがもっと私たちになじんでからゆっくりしようと思ってたのに……。

 考え込んでる私の言葉を待って、そのキレイな紫色の瞳で見つめてくるカノン。 ほんとかわらしいんだから……ふふっ。

 仕方ないまだ早いと思ったけど説明するか。 ケイトは煮込んでいたシチューを火から下ろしカノンのほうに向き直る。

「カノン、それじゃちょっとお話ししよっか」

 そういうとケイトは炉の横のテーブルに移動し席につき、カノンにも座るようすすめる。

 奏音はちょっと座面の高いイスによいしょとばかりに腰掛ける。 そしてまた期待に満ちたその愛くるしい表情でケイトを見る。

 ほんとかわいいんだから……、ついそう思いつつ、ダメだダメだと……気を引き締めるケイト。

「今日シスターからマリシアとスピリアって言葉を聞いたのよね? その力が竜に対抗するのに役立ったって話も一緒に?」

「うん。 そう聞いたんだけど……、でも具体的にどんな力なのかって説明はなかったから気になっちゃって」

 なるほど……、カルアめ、ずいぶん中途半端な話、してくれちゃって。 祝福の日の講話なら別にそんなことまで言わなくてもいいだろうに。 まぁ、早いうちから興味を持たせて少しでも早くものにしたいのかもしれないけど……。

「ふーん、そういうことね。 その辺のことは教会で勉強をするようになれば教えてくれるんだけど……カノンは行ってないものね」

「へぇ、そうなんだぁ? じゃ、メイファちゃんやルディは知ってるのかな?」

「そうね、あの子たちの歳ならもう教えてもらってるでしょうね」


 そして力が確認された子らは……。


「そっかぁ、私よそもんだもんね……」

「そんなさみしいこと言わないの。 カノンも行けるようカル……シスターに頼んどいてあげるから。 まぁ、ニックにも確認してからだけどね?」

「うん! お願い~♪」

 ふふっ、うれしそうにしちゃって。 ……さて、いいかげん本題に入るか。

「でねカノン、まずは"マリシア"なんだけどね。 実はその力……、あなたはすでに使ってるのよ?」


「は、はぇ?」

 ケイトのその言葉に思わず変な声をあげる奏音。

 苦笑するケイト。


「カノンはすでにマリシアの力、使いまくってるわ」

 再びそういってカノンにその言葉をしみこませるケイト。

 そこまで聞いてもまだ呆けた表情の奏音にケイトはその訳を話す。

「カノン、あなた……自分の体にまったくもってつり合わない……すごい力を振るってるでしょ? あれ、どう考えても不自然だとは思わない?」

 ケイトにそう問われて……、

「うん、確かに……私ったらすっごい馬鹿力だしちゃったり、身体能力もすっごく上がってたり……。 それって筋力上がったくらいじゃとても説明つかないとは思ってたけど……」


 私の筋力がどんだけ上がっても大岩放り投げたりマシン持ち上げたりなんて常識的に考えて無理だと思う……、でも異世界だからってあまり気にしないようにしてた。


「そうね、その力よ。 その常識外れの力……、人がどれだけ鍛えたってそんな力、普通出せるものじゃないわよね?」

 ケイトが問い、それにうなずく奏音。

「でもカノンは実際そんな力を発揮して、この前も私たちを助けてくれたわ。 初めて見たときはほんと驚いちゃったけど……」

 マリシア使いの中でもその力は桁外れよ? といいながらもケイトは奏音の頭を優しくなでる。


 突然の行為に一瞬驚きつつもおとなしく頭を預ける奏音。

 気持ちよさげな顔をする。 小さくなってからというもの、なにげになでられるのがお気に入りの奏音なのであった。

 ケイトはなでながら話しを続ける。


「"流され人"であるカノンはごく自然にその力、"マリシア"を発揮してるわね。 でもその力は別に"流され人"でなくとも使える力なのよ? ……ただ使えるようになるにはそれ相応の努力も必要で、その辺りのことを色々やってるのが教会なわけだけど……ね」

 ケイトの話しを聞き、そういえばシスターの話の中でも精神修養がどうのとか言ってたような? と奏音は昼間の話も思い出す。


 そして質問する。

「えっと、それじゃあ、おとーさんやおかーさんも使えるの? そのマリシアっていうのを」

「うーん、私は今はさっぱりね。 ニックは今も多少は使えるようだけど……だいぶ衰えてきてるみたいだわ」

 ケイトがそう答える。


 今は? 衰える? 奏音はケイトの言葉に引っかかりを感じ……、

「今は……ってことは昔は使えたの?」

 その疑問をケイトに問う奏音。


「そうね、十代のころはそれなりに使えたわ。 まぁカノンみたいにすさまじい力ってわけじゃないけど、今ニックが使ってる強弓なら余裕で使えるくらいにね」

「へぇ……、それって若いほうが力が出やすいってこと? それに……歳を重ねるとなくなっちゃうものなの?」

 矢継ぎ早に質問をする奏音。

「そう、マリシアの力は比較的容易に、短期間の修養で引き出せるようになる……、それも十代から二十代に差し掛かるくらいまでの年齢の人間がね」

 ケイトが奏音の質問を肯定し、更に続ける。

「小さ過ぎても、歳をとりすぎてもだめなのよ。 まぁ、個人差もあるけど……ニックみたいにね。 そういう意味では、カノンはちょっと特異だけど……やっぱ流され人は違うんでしょうね」

 ケイトはそう説明し、最後にちょっと肩をすくめ奏音を見る。


 そんなおかーさんの言葉を聞いて奏音は考える。

 十代から二十代ねぇ……、思春期、というより第二次性徴を迎えたころからってことなのかな? そして完全な大人になると衰えていくってこと? ニックさんがまだ多少使えるってことだからそれだけではないのかもしれないけど……。

 私は見た目はまだ第二次性徴迎える前に戻っちゃってるけど、元の世界じゃいい大人だった……、未経験・・・ってこともないし。 だから私がマリシアって力使えるのはやっぱこの体自体のせいなのかもしれない……この紫色の目と血、そして銀色の髪……。


 ま、わかんないけど。


「それでね、カノン」

 ケイトが奏音を見つめて言う。

「マリシアを使ってるってことは、スピリアの力もあるってことなのよ?」


 えっ? それって私もそのスピリアって力が使えるってこと?


 私はおかーさんのその先の言葉を待ちながら、思わずごくりとツバを飲み込んだ……。


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