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荒野を進めばそこは異世界  作者: ゆきのいつき
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第十三話 教会へ行こう♪

「よーしいいぜぇ、そのままそのままぁ! ゆっくり、ゆっくりあげろよぉ」

 大きな声を張り上げるニックの指示にしたがい、土台に立つ柱の上に梁となる材木を載せようとしている自警団の面々。

 今彼らが作業しているのは奏音のマシンを格納するための納屋。 いや車庫を作っている真っ最中なのである。

 そもそもはテュラノ襲撃事件の後始末がひと段落した後、その最大の功労者である奏音への恩返しをしたいと思っていた自警団の男たちが、ニックの家の庭先に無造作に停めてあった奏音のその奇抜で不思議マシンを見て、そいつをしまう所がいるぜっ! となったのが始まりだ。 

 余談だがマシンを初めてみた人々は、馬無しで動く不思議や、その姿形、すさまじいばかりの性能に驚き、めずらしがったが、それも最初の二、三日まで。 それを過ぎれば元よりそこに在ったかのごとく、あっさり慣れてしまわれた。 奏音は人々の順応性の高さにあきれ、ちょっと、というかかなりつまらなく思ったりもした。

 そしてマシンに今も興味を示すのは、街の子供たちばかりであり、それも体のいい遊び場としての興味であった。


「次の梁をよこせ~! 今日中には屋根完成させるんだからなぁ? 気合いれてやれよぉ」


 そんな自警団の男たちは、基礎をかため土台を作り、持ち寄った材料でもって柱を立ち上げ、今は梁を乗せと……、車庫作りは着々と進みつつあった。

 車庫はニックたちの家の敷地内にある、作業小屋の脇につなげる形で作られようとしていて、奏音は自分がニックとケイトの家族になったことをこんなことでも再認識させられ、思わず顔がほころんでしまう。

 それにしても……、よそ者(というか異世界人だが)で、しかも異常な力を使った自分を人々はなんでこんな簡単に受け入れてくれたのか? 未だによくわからない奏音である。

 それにいろいろ疑問に思うことだらけであり、一度しっかり整理しなければとも思う奏音。 車庫がだんだん出来上がってくるさまを見ながらも、することがなく暇なので、そんないろんなことがアタマに浮かんでくる。

 車庫を建てる手伝いをしようとしても手伝わせてももらえないし。 子供は危ないからダメとか、手伝ってもらったらお礼にならないとか……。 竜と戦った奏音に対して、子供は危ないからってのは、どうか? と思う奏音なのだが、それはそれ、これはこれ。 大人たちにとって、奏音はやはり子供であり、どう見たってかわいらしいちっちゃな女の子にしか見えないのである。


 なので結局、手近にあった木材をイス代わりにし、足をぷらぷらさせながら、ぼーっと作業を見ている奏音だったが……、 

 いきなり後ろから両目をふさがれる。


「ほぇ?」


「だーれだ?」


 奏音の両目をふさぐ小さくてやわらかい手。 そしてそのかわいらしい声は……、

「メイファちゃん♪」

 奏音はうれしそうな声でそう返す。

「せ~か~い! あ~あ、つまんないよぉ、すぐ当てちゃうんだもん、カノンちゃん」

 顔から手を放し、かわいく文句を言いながら正面にまわってくるメイファちゃん。

 メイファちゃんは琥珀色の大きな目をしたかわいい子で、子供らしく日に焼けた肌に、淡い栗色の長い髪を大き目のリボンで一本結びにしている。 それに背丈も奏音とほとんど同じなためすごく親しみを感じている。


「ふふっ、だってそんなかわいい声、メイファちゃん以外考えられないもん!」

 そういってメイファちゃんの手を取り、木材のイスから立つ奏音。 そしてふとメイファちゃんの後ろを見るともう一人。

「あっ、ルディ! ……もいたんだ?」

「ふん、いちゃ悪いかよぉ~」


 ――ふふふっ、すねちゃってかわいいの。 ルディは初めて会ったとき私のマシンの天井に登ってた子で、なんとメイファちゃんと一才ひとつ違いのお兄さんだった。 背も私たちの中では一番高い。 と言っても140ちょっと超えたくらいだと思うけどね。 メイファちゃんと同じ色の髪と目をしてて、やんちゃそうな顔にちょっとくせっ毛の長めの髪をした男の子だ。 ……二人はあの時以来たまにこうして遊びに来てくれるようになった――。


「別にぃ~、で、二人してどうしたの?」

 奏音は脇で寝ていたスパナの頭をなでつつ聞く。

「どうしたのって……、ふん、どうせやることもなく暇そうにしてるだろうと思って遊びに来てやったんだ。 ありがたく思いなよっ」

 ルディは目が覚めて大きなアクビをするスパナにビビリながらも、そんな憎まれ口をたたく。

「へ~、そうなんだ? それはどうもっ」

「メイファちゃん、来てくれてありがとっ! ちょうど暇しててどうしようかって思ってたとこだったの。 うれしいよ♪」

 奏音はルディには素っ気なく、そしてメイファにはうれしさを隠すことなく来てくれたお礼をいう。


「うん♪ それでね、今日は"祝福の日"だからスカー教会(外周区第四教区)に行くとお菓子もらえるのっ。 だからカノンちゃんもどうかなって思ってぇ?」

「え、教会? 大丈夫なの? それに私も行っていいのかな?」

 奏音はまだこの都市のことがよくわかっていないため、教会についてもほとんど知識がない。 ただニックが教会の悪態をつくのをたまに見ているのであまりいいイメージが持てないでいた。


「カノンちゃん、なんか勘違いしてる。 たぶんニックさんのいう悪口を聞いちゃてるからでしょ?」

「へっ? 勘違い?」

「そう、勘違い。 ニックさんが言ってるのは内側の中央教区、ラスティリア・サーケル教会のことで、外周区の教会とはぜんぜん違うんだよ?」

 そんなコトは当然のごとく初耳だった奏音は、そんなことはなにも教えてくれない車庫建設中のニックを遠めににらむ。


「外側の教会はねぇ、その区域の学校でもあるし、お医者さんでもあるし、もちろん教会でもある、なくちゃならないとこなんだよ? ここは四番目の区域だからさっきもいったスカー教会が当てはまるの」

 メイファちゃんの説明にふんふんと熱心に聞きいっていた奏音。 ちょっと一息つけたメイファちゃんのほうを見て、先を促がそうとしてたら、そこに現われた人影。


「あら、メイファちゃんにルディくん、カノンと遊びに来てくれたの?」

 現われたのはケイトだった。


「「ケイトさん、こんにちはぁ!」」

 ケイトに挨拶する二人。 なかなかどうして、礼儀正しいのであった。

「あっ、おかーさん。 ちょーど良かった♪ メイファちゃんが教会へお菓子もらいに行かないって誘いにきてくれたの。 行ってもいーい?」

「お菓子? ああっ、そういえば祝福の日よね? 今日って。 いいわよ、いってらっしゃいな」

「うんっ! ありがとーおかーさん♪ ああっ、それと私おとーさんに文句いわなくっちゃ!」

 最近では奏音もずいぶんくだけた調子でケイトと会話をするようになっていた。 とういうか、ずいぶん見た目相応の子供っぽいしぐさや態度をとるようになったといった方がいいのかもしれない。

 体が小さくなると、気持ちの上でも子供の心に戻るものなのか? それともその変化が精神にも影響をきたしたものなのか? は、なんとも確認のしようがないのではあるが……。


「ニックに? カノンが? 一体なんの文句なのかしら?」

 不思議そうな顔をするケイトに奏音はさっきメイファに聞いた話をする。 


「ははぁ、なるほどねぇ。 確かにニックはよ~く教会の文句っていうか悪口いってるものねぇ」

 やれやれといった表情をするケイト。

「それにごめんねカノン。 ほんとなら私たちがそういう話もしておいてあげなきゃいけなかったのに、色々忙しくって全然この街や周辺の様子とかの説明してなかったわねぇ……」

 そういって奏音の頭をやさしくなでるケイト。

 気持ち良さげに目を細めながらも奏音がいう。

「ううん、いいの。 だってあんなことあったんだし仕方ないよ。 とりあえず外側の"きょーかい"は行っても問題ないってことなんだよね?」

「そうね。 それよりカノンも教会にいっていろいろ勉強したほうが、私が教えるより早いかもしれないわね。 一度ニックと相談してみるわね?」

 そういって勉強の話までしだすケイトだが、注意も忘れない。

「ただし、内周区のサーケル教会は別。 あそこには近寄っちゃだめ。 まぁ内周区にはそもそも私たちは入れやしないけど……。 ヴィオレ修道騎士団、あいつらに目をつけられでもしたら……」

 色々いわくがありそうな感じで話すケイトを見て、奏音はいぶかしんだ表情を見せる。

「あら、ごめんなさいカノン。 まぁ、今はとりあえず関係ないことだし……さぁ、メイファちゃんたちに連れて行ってもらいなさいな? また後で色々お話ししましょ。 じゃ、メイファちゃん、ルディくん。 カノンのことよろしくね」


「「は~い!」」

 元気よく返事する二人。

「それじゃいこっ? カノンちゃん」

「うん!」

 メイファは奏音の手をとり、嬉々として外へと向う。 スパナは残念ながらお留守番だ。 悲しそうな鳴き声を出すが心を鬼にしておいていく奏音。


「カノンちゃんも教会で一緒にお勉強しよっ? 私やお兄ちゃんも行ってるんだよ。 カノンちゃんも来てくれたらすっごく楽しくなると思うなぁ。 それにシスターさんが先生してくれてるんだけどすっごい美人さんなんだよぉ」

 歩きながらも勧誘してくるメイファちゃん。

「そうだね~! おかーさんの口ぶりだと私も行って良さそうな感じだし……。 もし行っていいってなったら、その時はよろしくね? あ、ついでにルディもね」

「うん、ぜったい大丈夫だよ! わ~、楽しみだよ~、うふふっ♪」

 うれしそうに笑顔を見せるメイファ。 それに対してルディといえば……、

「な、なんだよぉついでって! べ、別にカノンと一緒にいかなくてもいいんだからなぁ」

 やはり素直じゃないルディは憎まれ口を叩くが、その表情はニヤけるのを抑えるのに必死な様子だ。 やはり本音はカノンと一緒に勉強できればうれしいのだろう。


 そんな二人を見て微笑みながらも、それにしても……と奏音は考える。

 ――結局なんで中央の教会をおとーさんさんが悪くいうのかよくわからなかったなぁ。 おかーさんの説明もなんか中途半端に終わっちゃったし。 ヴィオレ修道騎士団ってのがあやしそうだけど――。


 奏音がそんなコトを考えつつ、メイファに手を引かれながら歩くこと10分ほどたったころ。

「カノンちゃん、ここだよ~」

 メイファが到着したことを告げる。

 着いた場所は、大きな六角形からなる城郭都市でいえば、その角の頂点、そこにはそれぞれ監視塔がそびえたっているわけだが……、教会はその監視塔のたもとに存在していた。 監視塔は高く、そして大きな円錐状をしていて、当然ながら下が広く、上にいくほどすぼまる形となっている。 もちろん壁に接する部分においては円錐形状も切り落とされた形となる。 教会はそんな円錐状の建物の下層部3階ほどを占有して使っている。


 思わずじっとその建物を見つめる奏音。 なにか違和感を感じていた奏音だったがようやくその違和感の正体に気付く。

「十字架がない……」

 そう、この世界の教会には十字架がなかった。 代わりといってはなんだが、この都市を象徴する六角形をモチーフにしたプレート?が、円錐の壁から張り出してきているエントランス部分にある、大き目の観音開きの扉の上にしつらえてあった。

「十字架がない教会なんて不思議。 でもそりゃそうか? ここは私のいた世界じゃないんだし、よく似てても違うとこは違うんだよね……」

 つい独り言をいってしまう奏音だったが、この世界のありようについてもほんと一度整理しなきゃ、と心に誓う。 ……確か以前も同じようなことを考えた気もする奏音だったが。


「さっ、早く入ろっ?」

 初めて見る教会を興味深げに見ていた奏音を、しばらくは放っておいてくれたメイファちゃんだったが、シビレを切らしそういってくる。

「ほらぁ、いこうぜカノン~」

 ルディも同じように早く入ろうと急かしてくる。

「う、うん。 ゴメンゴメン。 初めてみる建物だったからつい見入っちゃった」

 奏音はそういうとようやく入り口に向けてその足をすすめる。

 メイファちゃんはあらためてカノンの手を取ると笑顔になり、「どんなお菓子もらえるかなぁ」などと楽しくおしゃべりしながら二人仲良く入り口から中へと入っていく。

「あ、ちょっと待てよぉ~!」

 そしてルディは待たされるだけ待たされ、そして今度はちょっと余所見をしていた隙においていかれそうになるのだった。


 哀れルディ。 がんばれルディ。

 

 

ほとんど話し、進んでない気が……

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