第十話 マジなのこの展開!?
「さて、どうしよっかなぁ?」
マシンで轢き殺しの刑? それとも小石爆弾で爆散の刑? う~ん。
悩むほど手段がないな? あははっ。
でもマシンで体当たりは、こっちにもダメージ負っちゃうといやだし……、やっぱここは順当なところで小石爆弾かぁ? 数多いからメンドクサイなぁ……。
奏音がどうやって地竜の群れの始末をつけようか悩んでるその時。
「か、カノンちゃん! 城壁のほうを見て!」
ケイトがせっぱつまったかのような声で奏音に呼びかける。 そして、
「こりゃやばいぞっ、早くもどらねぇと!」
ニックもあせった口ぶりで遠くに見えている城壁のほうを見つめている。
「へっ? どうしたの二人とも? ここのこの現状以上にヤバイことってあるの?」
奏音はそういってフロントウインドウの左前方を覗き見る。
「げっ、なんか煙あがってるよ?」
これまた女の子らしくない声とともに二人に問いかける。
「あぁ、ありゃきっと火矢を使ってるんだ! アレだけの煙だ、戦車にも火を仕込んで突っ込んでるかもしれねぇ!」
ニックが奏音の質問に答える。
「火矢? それに戦車? ってこの世界に戦車なんてあるのっ?」
思わぬ戦車とういうニックの言葉にくいつく奏音。
どうやらニックの言う戦車と奏音の考えている戦車には齟齬があるように思える……。
「ああ、対地竜用になっ! だがこの様子だと今回のやつはちょっとヤバイかもしれねぇ……。 カノンっ、おれたちゃ早く街へ戻んなきゃいけねぇ。 自警団の一員として街を守らなきゃなんねぇからな! せっかくカノンの異世界の乗り物を見せてもらってる最中だったんだが……、下ろしてもらえるかい?」
ニックはそういって奏音にマシンから下ろしてくれるよう頼む。
奏音はそんなニックにこう答える。
「おとーさん! なに面白いこといってるの? わざわざ降りなくても私のこのマシンで行けばいいよ! これで行けば一瞬だよ? 街までなんてさ?」
それにと続ける。
「ここで降りたら周り囲んでるこいつらのいいエサになっちゃうよん?」
もっともなことを言う奏音。
今や地竜の群れは、奏音のマシンを取り囲むまでに近づいてきていた。
「うっ、そりゃそうなんだが……、いいのか? カノン」
「いいも悪いも、今やあそこは私の街でもあるんだよっ? 街がピンチなら助けに行くのは当然! それに私たちのお家も心配じゃない?」
奏音はなにを今さらという風にニックに答える。
「カノン、すまねぇ! ……そうと決まれば少しでも早く戻ってくれるか? だが、こいつら……どうする?」
そういって周りを見回すニック。
地竜たちは奏音のマシンを取り囲んではいるものの、イキモノとは違うその見た目にどう出るか戸惑っているようで、まだ襲ってくるような気配まではないのだが……。
「う~ん、この際ちょっとしゃくだけど横穴は放棄してこいつらは無視。 勢いで突っ切っちゃうよ! ちょっと派手に動くからしっかりつかまっててね?」
奏音はそういうやいなや、まずクラクションを思いっきり叩きつけるようにして鳴らした。
この世界で、人為的にはありえない大音響がマシンを中心に響き渡る!
その音量は空気を震わせ、もちろん周りを取り囲んでいた地竜の耳をもつぶすかのごとくだ。 いや実際つぶしてしまったかもしれない。
奏音のマシンのクラクションは荒野の中でも遠くまで通るようにと、大型でしかもハイワットの強化品が搭載してあったのが幸いした。 (ちなみに音は"神の父"のテーマ。 趣味が悪いぞ奏音! どこの○走族だ?)
地竜たちが耳をつぶされ平衡感覚を麻痺させている中、奏音はマシンをその場で円を描くように盛大に回転させる。
マシンの周囲にいた、フラフラ状態の地竜たちはマシンのその太いタイヤに、ひとたまりもなくはじき飛ばされ、その周囲に空間が出来る。
「よっしゃあ! スペース出来た。 じゃ行くよぉ~!」
奏音は、マシンを4WDにしデフも全てロック。 そしてごつごつした岩肌をものともせず進み出す。
「こりゃすげぇ! こんなごつごつした岩の上を平気で通るとは……、化けもんみたいな車? だなぁ」
ニックが荷馬車で通ることなんか考えたこともないこの岩肌を平気で通りぬけていく、奏音のマシンに感心の声を上げる。 (荷馬車と比べるのもアレだが……)
「当然よぉ! 私の愛しいマシンなんですもん♪ 行けないとこなんてないもん!」
奏音はそういって自慢げな顔をニックたちに見せる。
「ほんと、カノンには驚かされてばかりね?」
ケイトもちょっとあきれぎみに奏音に声をかける。
「えへへぇ~、まだまだ今からも驚いてもらうかんねぇ~!」
奏音はそういうと、岩肌地帯から抜け馬車道に躍り出たマシンを再び2WDに戻す。
あっ、でもその前に……、
「お父さん、荷馬車どうする?」
奏音は行きに乗ってきた荷馬車の横にマシンをつけ、そう問いかける。
荷馬車の馬はマシンにちょっと驚いて、鼻息を荒げてる……。
「う~ん、今は荷馬車より街が心配だしなぁ。 馬のヤロウにはかわいそうだが……」
ニックはちょっと悩んでいるようだ。 この場に馬を置き去りにすれば、さっきの地竜の餌食になるかもしれない……。
「ニック、とりあえず馬はここで放してあげましょう。 つないだままで地竜にやられてしまうのはかわいそうよ」
「そうか、そうだな。 自由にしてやりゃ、みすみす食われることもねぇか」
馬を開放してやったニックが再びマシンに乗り込む。
「じゃ、思いっきり行くからね? 二人とも目を回したりしないでねぇ?」
そういって後席に振り向きニヤリといじわるそうな顔をして笑う奏音。
「おっ、おう! 何が起こるか知らんがまかせとけ! 体力だけは自身あるからな!」
「…………」
変な気合を見せるニックと、無言でうなずくケイト。
奏音は馬車道の前を見据え、ギアを確認、そして……、いきなりガツンとアクセル踏み込んだ!
ホイールスピンさせ、砂塵を巻き上げながらもスタートするマシン。
ケイトとニックは、発進加速によって思いっきりリアシートに押し付けられる!
「うぉっ! な、なんじゃこりゃ! 体がイスに押し付けらちまったぞ」
「気にしないで? 最初だけだから。 すぐ動けるようになるって」
奏音のいう通り、押し付けられたのは最初だけですぐ自由を取り戻した二人。
そして外の光景を見てまたも驚く。
「こ、こいつぁ……」
「す、すごいわ……」
マシンの窓から見える景色は、二人が見たこともない速さで流れていく……。
そして前を見ると街の城壁がまさに、あっという間、目の前に迫るまでに近づいてきていた……。
「なんてぇ速さなんだ! ものの2、3ミセッタ(=分)で着いちまったぞ!!」
ニックは驚きのあまり前方の光景に気付いていない。
奏音とケイトは、食い入るように馬車道の前方、城門の向こうを見ていた。
「な、なに、あれ……」
奏音はマシンを急減速させながらも、目に入る光景に驚きを禁じえない……。
「ぼ、暴君竜……、テュラノドラゴンだ……。 そいつがここから見えるだけでも、さ、3匹もいやがるっ!」
気付いたニックがそう吐き捨てるようにいった。
「さ、最悪だわっ! どうして門を突破されちゃってるの? 自警団の監視は何やってたのよぉ!」
ケイトも憤っている。
……ちょ、ちょっと何よあれ! で、でかい! でかいよっ!! さっきまでの2・3メーターくらいの小物とわけが違うよぉ!
奏音は、ニックが"テュラノドラゴン"と名前付きで呼んだその竜を見て、そのあまりの大きさに鼻白んだ。
あれってあれだ、あれだよ! そう、T-rex! T-rexそっくりだよ。 なんか名前も似てる。 ティラノサウルスだったよね? 確か。
ちょっと違うのは鼻先にサイみたいに角がある……、それに手が大きいよ、手が! T-rexって飾りみたいな手だったと思うけど、こいつのはキッチリ使い物になる手だよぉ~!
さすがの奏音もこれには驚いたようで、さっきまでの勢いがなくなりついにはマシンを停止させてしまった。
その竜、暴君竜"テュラノドラゴン"は、身の丈10ミール(=m)をゆうに越え、凶悪そのものの牙を揃えた大きな口は、何者でも噛み砕かずにはおれない強力なアゴで支えられている。 そしてその頭を支える強靭な胴体と大きな体のバランスを見事にとっている、これも強靭な尻尾。
そんな奴が3匹、3匹も城門をくぐり街の中に入ってしまっている。
城門はどうなったのかとニックは門のあったところを見る。
なんと、高さ5ミールほどの門のちょうつがいは根元から完全にもげ、その門は地面に倒れ落ちてしまっている。 そして倒れ落ちた門の脇には力尽きたのであろうテュラノが一匹、横たわり事切れている。
「ちっ、やつらも必死か。 仲間を犠牲にしてまで攻めてきやがるとは」
ニックが悔しそうにそうつぶやく。
そして奏音にいう。
「カノン、もうここまででいい。 ここから先はオレたち自警団の仕事だ。 ここまでめっぽう早く連れて来てくれてありがとな!」
ニックはそういってカノンの頭を大きな手でなでる。
「えっ! で、でも、仕事っていったって……、どうやってあいつらと戦うの?」
奏音はニックにそう疑問を投げかける。
奏音の目の前で、今まさに繰り広げられている戦い。
火矢で射る。 そしてニックのいってた戦車。 それは奏音の世界の昔の大砲を移動させるときに使っていた二輪車のようなもの、の間に先端を尖らせた木材を複数並べ、それを人力でテュラノに対して突き刺すように押し出す! という極めて単純で、そしてあまりにも危険な代物だった。(人間が竜の前にさらされる点で)
そして今はまさに、その戦車の木材の先端に火を付けた長槍を付け、四方からテュラノに向けて付き込んでいる最中であり、さっき見えていた煙は、その戦車が破壊され燃え上がって出た煙だったのだ。
今はその戦車が竜の前進をなんとか阻んでいる、といったところだった。 が、残る戦車も少ないようで抜かれるのは時間の問題なのではないのか?
残った突撃をかけ続けている戦車は、テュラノに届く前にそのやつらの強靭な尾ではじき返されてしまい、なかなかその先端を届かすことが出来ないでいる。
燃え盛る戦車の周りには、犠牲になったであろう人の姿も複数見える。
奏音は正直、怖気づいてしまっていた。
いくらこの世界に来て、強力な力を得たといっても所詮は現代人。 戦争も知らない平和な世界に生きた女性だったのだ。
「む、無理だよ……絶対。 行ったら、行ったら……ニックさん、ううん、お父さん死んじゃうよぉ」
若干顔色が悪くなっっているだろう奏音が、不安そうな顔をしてニックにいう。
「すまん、カノン。 ここはオレ達の街だ。 むかつくやつらも多いがそれでもここがオレ達の故郷……だからな! 守らなきゃなんねぇ」
そういって今度は奏音の頭をくしゃくしゃっと強めになでる。
「じゃあな! カノンはこっから離れてろ。 危ねぇからな! ケイト、カノンのこと見ててやってくれ。 頼んだぞ」
ニックはそういってマシンから素早く飛び降り、城門の中へ一気に走り込んで行った。 奏音とケイトは声をかけることすら出来ず、ただ見送るしかなかった。
「まったく、ニックったら……かわいい娘の前だからってカッコつけちゃって……」
ケイトはそういってさっきまでニックがなでていた奏音の頭をやさしくなでる。
ケイトのその手はかすかに震えていた……。
奏音はそんなケイトを思いつめた表情で見上げ、いう。
「ケイ……、お母さん、どうしよう! お父さん死んじゃうよ? 助けなきゃ……。 でもいくらこのマシンでもあれだけ大きな竜じゃ……」
さすがの奏音もここでケイトの気持ちを思いやる余裕まではないようで、ついそんな言葉を発してしまう。
そう……、いくらこのマシンでもあのサイズに突撃かませば、コンクリの壁にぶつけるのと同様、こちらがペシャンコになって終了! なのは目に見えている。
奏音はこの世界にきて初めて本当の恐怖を味わっていた。
「カノン、カノンちゃん……、ありがとね? 心配してくれて。 でもこれは城郭都市の宿命。 人間がやつらのテリトリーまで進出した150イェール(=年)前から、今日までの避けようのない戦い。 こればっかりはどうしようもないの……」
ケイトは前席まで身を乗り出すと、後席に振り向いていた奏音を抱きしめる。
奏音はそのケイトの暖かさを感じ、さっきのニックのやさしさを思い出し……、そして決意する。
自分の持てる力、全てを持ってやつらをぶったたくっ!!
私がここにきたのはきっとニックやケイト、いや、お父さん、お母さんを守るために違いない!
そう決めた!
奏音はそう決意すると、ケイトに向って言葉をつむいだ……。