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ゼロの男の物語  作者:
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初仕事の物語 [後編]

ユリのセンスは色以外は至って普通だった。

通された別室にはピンク以外の色の服や装備品が並んでいた。

そこで服を脱いだ後ああでもないこうでもないと色んな服などの装備品を当てながら唸っている。


「うん、これに決めたわ。」


そういって渡された装備を装着する。

ユリが選んだのは白と黒を基調として所々に赤い装飾が施された軽鎧一式だ。

銅には金色の模様が刻み込まれている。


「うん、あたしの見立て通りよく似合ってるわ。やっぱりあなたの白い髪に映えるのは黒よね。だけど、白黒で地味になりがちのそれを紅翔石(こうしょうせき)で作られた装飾が彩ってる。ん〜完璧っ!」


やり切った顔で親指を立てるユリを横目に俺も姿見で自身の確認をする。

悪くはない。第一印象はそんな感じだ。

防御力よりも機動力に重点を置いた軽鎧は銃を持つ腕の動きを阻害することはない。


「悪くないな。これでいい。」

「あらん、ゼロちゃんも気に入ってくれたのね。それじゃあリーラちゃんにお披露目しなくっちゃ!」


そういって呼ぶまで出てこないでと言い残してからリーラの元へ戻るユリ。


「ゼロちゃ〜ん、出ていらっしゃい!」


ほどなくしてユリの呼ぶ声に部屋からでる。

視界がピンクに染まる。

そういえば店はこんなんだったなと思いながら辺りを見るとリーラと目が合う。


「あっ…えっと…お、お似合いですわ。さ、さすがは店長さんの見立てですわね。」


しどろもどろになりながら俺から視線を外してユリに向き直る。


「あらあら、リーラちゃんったらゼロちゃんがかっこよくなっちゃって照れちゃったの?」

「そ、そんなことありませんわ。ただ、みすぼらしい格好からまともになったので驚いただけです。」

「素直じゃないんだから。」


自覚はしていたがみすぼらしかったのだな。


「ユリ。俺の着ていた服の修復は出来そうか?」

「ええ、問題ないわ。とは言っても少し材料が特殊みたいだからお取り寄せしなきゃだめね。だから少なく見積もっても修復には一月はかかると思ってちょうだい。」

「直るのならなんの問題もない。」


材料を取り寄せなくてはいけないほどなのは予想外だが、しばらくはこの町に滞在するつもりなのだ。

気長にできるのを待とう。


「それはそうとおいくらですの?恥ずかしい話ですけど、持ち合わせがそれほど多くありませんの。」

「そのへんの抜かりはないわ。ブレストガード一式で三万Rよ。」


それが果して高いのか安いのか俺には判断がつかなかった。

しかし、特に気にした様子もなく代金を払うリーラを見れば、高すぎるわけではないらしい。


「ウフフ、代金丁度確かに受け取りましたっと。そうそうこれはサービスね。」


そういってユリは俺に布で出来た物を渡す。


「これは?」

「ただの外套よ。今の季節は陽が沈むと寒くなっちゃうからね。ほら、リーラちゃんにも。」

「えっ?わっ…っと。よろしいんですの。」


同じものをリーラに投げてよこしたユリはリーラの言葉にいいのいいのと微笑む。


「ありがとうございます。ほら、ゼロさんも!」

「ユリ、ありがとう…」


リーラに促されユリに礼を言う。


「…ありがたいが」


言わなければいけないことがある。

先に礼を言ってしまったことで若干言いづらい雰囲気になってしまったが


「違う色のはないのか?」


ピンクを着るよりはマシだ。




ユリは不満そうにしていたが、青の物に換えてもらった。

ちなみにリーラが貰った物は薄いピンクだ。

まあ、俺が着る場合に比べて遥かに似合っている。

ユリも自分の趣味を押し付ける相手は選ぶべきだな。

とゆーかピンクを宛がわれて喜ぶ男はそうはいないだろう。


今、俺達は町の西門まで来ている。

あれから道具屋で諸々の準備をしてここにいる。

危なくなったら飲めと腰には回復薬を2つほど用意している。

これからアーガルドの町から徒歩2時間ほどのところにある森に行く。

そこに目的のモギヨの樹もイビルラビットも生息しているらしい。


「さあ、行きますわよ。」


前を歩くリーラの腰にはいつの間に装備したのか剣が凪いでいる。結構細身だ。多分レイピアだろう。

そんなことを考えながらリーラの後ろを歩く。


「モギヨの樹は以前に依頼で偶然目にしたことがありますから、まずはそこに行きましょう。」

「イビルラビットはどうすれば遭える?」

「偶然に期待するしかありませんわね。でも、大丈夫ですわ。これから行く森に1番多く生息している魔物はイビルラビットですから、すぐに遭遇するでしょうし。」


森に着くまでの間にモギヨの樹の大体の場所や森に生息する魔物の特徴などをレクチャーしてもらった。

森に生息する最もランクの高い魔物はDランクで生息数も少ないため、滅多に遭うことはないらしい。


「着きましたわ。」


リーラが立ち止まる。

目の前には鬱蒼と生い茂る木々。


「これから森に入りますわ。いきなり魔物に襲われることもありますから気をつけて下さいませ。」


リーラが先に森の中に入る。

森か…

俺が目覚めたのも森の中だったな…

あの時は魔物に襲われるどころかその姿すら見ることはなかった。運がよかったのだろうな。


俺もリーラに続いて森の中に入る。

目当てのモギヨの樹はここから1時間ほど先の泉の近くらしい。



「ゼロさん、いましたわ。」


10分ほど進んだところでリーラが声をかけてくる。

その視線の先を辿ってみればなにかの死体に群がる動物が三体見える。


「あの死体は、野性のアブーですわね。」


アブーとは家畜として飼育される魔物で安いながらも質のいい肉質で家庭の料理でよく使用されている。

かく言う俺自身もアブーの唐揚げは好きでヤムゥの町で初めて食べてから、また食いたいなと思っていたため、昨日も頼んだ。


「アブーに群がっているのがイビルラビットですわ。」


イビルラビットは体長1メートルほどで長い耳と眉間から伸びた30センチほどの角が特徴だ。


「まずは(わたくし)の戦いをお見せいたしますわ。」

「相手は三体いるようだが大丈夫か?」

「問題ありませんわ。」


俺も加勢してやろうと思ったが自信たっぷりのリーラの顔を見てその考えを胸に留めておく。

リーラは剣を抜きながらゆっくりと極力音をたてないようにしながら近づいていく。

彼女の剣は予想通りレイピアだった。

3メートルほどまで近づいたところでイビルラビットは近づく者に気付く。

それと同時にリーラはスピードを上げる。

速い。

振り向いたイビルラビットの一体は何もすることなく頭を貫かれる。

レイピアは突くことに特化した片手剣だ。

そのありようは斬ることにあまり向いていない。

リーラは一体の頭を突いた次の瞬間には抜き取って次に狙いを定めている。

そして残ったイビルラビットは仲間を殺されて敵と認識したのか角をリーラに向けて威嚇するように唸る。

動いたのは二体同時。いや、リーラも含めて三者か。

二体はリーラに向かって突っ込む。連携も何もない。ただ自分の敵を排除するための本能的な動き。

対してそれを予測していたのか、リーラは真横に動いている。

体制は崩れていない。

そのままさっきまで自分の居たところに突っ込んできた一体を串刺しにする。

そしてすぐに離れると残った一体に目を向ける。

そいつは殺されたもう一体と同じようにリーラの居たところに向かっていたがタイミング的に少し遅かったためにまだ生きている。

でも、もう終わりだろう。

どちらが強いのか先ほどの攻防を見れば明らかなのに、体制を直したイビルラビットはまだ戦う意志を見せているのだから。

明らかに蛮勇。

エンシェントワームもそうだったが魔物とは知能が低いのだろうか。

勝てない相手に向かってもしょうがない。

それとも仲間の敵討ちのつもりか。

その最期はあまりにも呆気なかった。

リーラは同じようにただ突っ込んでくるイビルラビットの攻撃をかわし、その頭を突いた。

その一撃でイビルラビットの体は地に沈む。

とゆーかこの女全部頭刺したぞ。えげつないな。


「もう大丈夫ですわ。どうでしたか?」


リーラが聞いてくる。さて、どう答えるか…


「頭が弱点なのか?」

「別にそんなことありませんわ。イビルラビットは弱点らしき弱点はありませんの。その分全体的に弱いですから。(わたくし)は武器の都合上、ヒット&アウェイが基本ですから手っ取り早く頭を突かせていただきましたわ。」


俺の問いに答えながらレイピアに付いた血を拭い、鞘に納める。


「それにしてもいきなり三体とは幸先いいですわね。これなら思ったよりもずっと早く戻れそうな気がしますわ。」


今度は懐からナイフを取り出す。何をするつもりなのか。

そう思っているとリーラはおもむろにイビルラビットの角を掴み根本に刃を当てて切り取る。


「ずいぶん簡単に切れるんだな。」

「え?魔物の死後30分ほどは討伐部位をはじめとした体が柔らかくなっているのは常識ですわよ?」


そうなのか。とりあえず俺も討伐部位とやらを刈り取ろうとリーラが2番目に倒した個体に近づく。

なるほど…昨日の受付が言っていたことがやっと理解できた。

確かにわかる。死んだイビルラビットの角に違和感を感じる。

これが討伐部位の証。

また、魔力が強く残っているということなのだろう。

あの女が不思議そうにするのも仕方ない。これがわからないのはおかしい話だ。

俺はイビルラビットの角を持つと買ってから1度も使っていないダガーでリーラと同じように角の根本に当て切り取る。

感触はパンをナイフで切ったような簡単な物だった。

こんなものなのか?


「死後1時間もしますと完全に硬直し、一流の刃物でもなければ、どんな魔物であっても討伐部位を刈り取るのは骨がおれるようになってしまいますから。迅速にすますことが何よりも重要ですわ。」


最後の一体の刈り取りを終えたリーラが近づいてきた。


「角はこちらの袋に入れて下さいませ。」


そういって差し出されたのは赤ん坊が丁度入るくらいの大きさの袋だ。


「これは軽い空間魔法がかかっていて見た目の10倍ほどの大きさの物が入りますの。」


わざわざどうしてと思っていたことが顔に出ていたのを察したのだろう。

リーラは袋について説明してくれた。

しかし、魔法の袋か。便利な物だな。


「さあ、先へ進みましょう。」


俺がリーラの持っていた袋に角を入れると先へ向かって歩き出す。

戦闘による疲れは全く見えない。


そのまま魔物に出会うことなく歩くこと1時間。


「着きましたわ。」


見えたのは泉だ。そしてその近くに花畑がある。


「どうやら魔物もいるみたいですわね。」


その声に注意深く見てみると泉のそばで休憩しているのであろうイビルラビット二体とそこから少し離れたところに別の魔物が一体いる。


「あっちの魔物はなんだ?」


指を指して聞いてみた。


「あれはウルフですわね。イビルラビットと同じくFランクの魔物ですわ。」


あれもFか。ウルフとやらは今は地面に伏せている。


「都市の近くはFランク以上の奴はそうはおりませんわ。結界がありますもの。」


つまり、結界によって高ランクの魔物たちが近づかないようにしてるわけだ。

つーか何にも言わないのに俺の疑問に答えるとは、リーラの説明スキルが上がったらしいな。


「どっちにいきます?」


リーラが聞いてくる。

どうするべきだろうな。

動きを1度見たイビルラビットか。

数の少ないウルフか。


「………もう、いいですわ。数が多いイビルラビットを(わたくし)が片付けますわ。ゼロさんはウルフをお願いします。」


悩む俺に痺れを切らしたのか、リーラはそう勝手に決めると動き出す。

甚だ遺憾だがリーラはもう動いている。こちらも動こう。


イビルラビットを迂回しながらウルフに近づく。

ウルフは気づいていないのか目を閉じて今だ地面に伏せている。

と、ウルフの耳がピクッと動きを見せる。それを見て歩みを止めたがウルフは起き上がりこちらを見る。

見つかったようだ。

俺はダガーを引き抜いてかまえる。

ウルフは四足歩行の獣で鋭い牙を剥いている。

その足から生み出される爆発的な脚力でもって俺に近づいてきたウルフは俺の腕に噛み付く。


「あぶねっ」


間一髪でかわしはしたが危なかった。

ウルフはすぐに体制を戻す。

俺はウルフの追撃がくるまえに攻撃を仕掛ける。

攻撃は最大の防御だ。


「はあっ!」


あっさりかわされた。

くそっ、もう一回。

そう思いダガーを振るが体制が崩れているためまたしてもかわされる。

そしてその隙を突いたのか左腕にウルフが噛み付く。


「ぐわあっ!」


痛い。すっげー痛い。

防具がなかったらやばかった。

つーかいい加減離せ!

腕を振り回してウルフを離す。


「痛ってーなこのっ!」


ダガーで切り掛かる。

俺の腕から離れたウルフは体制を崩している。


殺った


しかし、予想と違いウルフはまたまた俺の攻撃をかわす。

そして俺に飛び掛かってくる。

押し潰された俺の上にウルフが乗っかている格好だ。

そのまま首に噛みついてこようとしたウルフの攻撃は膝を立ててウルフを弾くことで何とか回避する。


「ガウッ」


俺が起き上がるまえにウルフが跳びかかってくるが転がって回避する。

しかし、かわしきれず爪に頬を切り裂かれる。

腕といい、頬といい痛えんだよ。

俺は腰の銃を引き抜く。

その途端流れる時間はゆっくりになる。

ウルフは丁度着地し、こちらに向き直る途中だ。

よくもまあ、やってくれたな。


「死ね。」


銃を撃つ。狙いはウルフの脳天。

狙った場所に寸分の狂いもなく命中し、ウルフは絶命する。


「ざまあみろ!」

「ざまあみろじゃありませんわ!」


俺の声とは別にヒステリックな叫び声。

リーラだ。


「何をやってるんですかあなたは!」


怒られる意味がわからん。


「何を意味わからないみたいな顔をしてるんですの!まったく、銃で倒したら元も子もないではありませんか。」

「何がだ?」

「何がって…あなたがダガーの扱いを覚えるためにきたというのに銃で倒しては意味がないでしょう。それに銃の弾が一発一万Rなのに対してウルフの討伐部位は五百Rですわ。かなりの赤字ですわ。……まあ、それは置いておいて私も悪かっですわ。いきなりおひとりにしてしまって。」


俺は子供か。


「それにしても…クスッ、傑作でしたわ。なんですの、あのへっぴりクスクス。素人以下ですわね。」


失礼な。慣れてないんだから仕方ないだろ。


「あら、拗ねてますの?仕方ないですから少し(わたくし)と練習しましょう。と、その前にウルフの討伐部位を剥ぎましょう。」


ウルフの討伐部位は上下の四本の歯だった。四本一組で一体分の報酬が支払われるらしい。



そして、


「違いますわ。なんで体を全部相手に向けますの?常に半身を心掛けなさい。銃を構える時はできてますでしょ?」


こんなことや


「センスがありませんわね。」


などなど結構ぼろくそに言われながら小1時間ほど教授を受ける。


「とりあえず教えた型を練習しててくださいな。その間に(わたくし)はモギヨの葉を採取してきますわ。」


そのまま放置された。

言われた通り型をこなす。

めんどくさいがリーラに笑われたのは失態だ。

我慢してやるしかない。

ここまでの練習でやっと素人並になったと言われた。


「ちっ、見てやがれ…」


今にうまくなるに決まってる。

そう思いながらリーラが戻ってくるまで型をやり続けた。



「さて、モギヨの葉の採取も終わりましたし、あとはイビルラビットの角を5つ採れば終わりですわ。ゼロさんも次は(わたくし)も側に付きますから頑張りましょ?」



結局だが今回の仕事で俺がダガーで魔物を倒すことはなかった。


また、今回で銃の残弾もなくなった。


もう少しなんとかしなければな。


そう思いながらリーラが依頼達成の報告をしてくるのをギルドの外で待つ。


不本意ではあるがFランクの仕事であり、なおかつ倒した魔物もFランクだけなのでポイントは全て俺のものとなる。


ウルフ一体しか倒してないがな。


強くなろう。


そう思った。


これは俺が決意を新たにした初仕事の物語



魔物の名前は適当にそこら(直感とか響き)から引っ張ってつけてますます。


次どうしよっかな〜

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