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ゼロの男の物語  作者:
8/32

初仕事の物語 [前編]


「パーティー登録をしましょう。」


食事をしたあと、宿で一晩過ごして翌朝俺の部屋を訪れた時のリーラの第一声がこれだった。

パーティー登録って確か昨日受付の女が言ってた多人数で組む場合に必要なことだったな…


「したほうがいいのか?」

「はい、そのほうがゼロさんのランクを上げるのには便利だと思います。」


別に躍起になるほどのやる気はないのだが…


「行きますわよ。」


そう言って俺の腕をとって歩き出す。


「まだ、朝飯も食ってない。」

「そこらで購入すればいいんですわ。」


このアーガルドの名物のひとつが早朝の屋台街らしい。

ふむ、それも悪くない。


「じゃあ、卵粥がいい。」


宿の店主が薦めていたしな。

彼の作る朝食が食べれないのは残念だが、機会はまたあるだろう。


「では、そのようにします。でもまずはギルドに行くのが先ですわ。」

「別に飯の後でもいいだろ。」


何も急いで朝のこんなに早い時間に行く必要はない。


「いいえ。パーティー登録のあとに仕事の依頼も受けますので早く行くにこしたことはありませんわ。」


歩きながらリーラに説明を受ける。

なんでも依頼が更新されるのは緊急の時を除き、朝の受付開始時刻と同時らしい。

依頼を受けるのは早い者勝ちなため、条件のいいものは早く行かないとだめらしい。


「もう6時ですから依頼情報の更新はされてますわ。ゼロさんの初仕事なのですから慎重に選びたいんですの。」


そういってリーラは気持ち歩くペースをあげる。

俺なんかよりだいぶやる気があるな。

まあ、そこら辺はリーラに任せるとしよう。



ギルドに入ってまず向かったのは昨日の受付。

しかしそこにいるのは昨日とは違う受付。

今いるのは眼鏡の男だ。


「本日はどういったご用ですか?」


眼鏡の男が眼鏡を直す仕草をする。


「パーティー登録をしたいのですが…」

「かしこまりました。ではパーティー構成員の方のギルドカードをお預かりします。あとはそれぞれの本人確認をしますのでこちらを握ってください。」


そういって男は昨日のギルド登録の時に使った球と似たものを取り出す。今回は昨日の黒い球ではなく白い球だ。

男の言葉通りにリーラはギルドカードを差し出し、白い球を握る。


「はい、では次ぎの方どうぞ。」


俺の番らしい。

俺はリーラと同じように男にギルドカードを渡し、白い球を握る。


「はい、もう結構ですよ。パーティー構成員は以上ですか?」

「他にいないんだから見ればわかるだろ。」


ギルドの職員はそんなこともわからない馬鹿ばかりか。


「ゼロさんっ!すみません。この人礼儀とか諸々ありませんの。お気を悪くしないでください。」

「いえ、大丈夫です。こちらこそすいませんでした。」


礼儀とか諸々ないだと?

お前が俺の何を知っているというのか。俺ですらわからないことがほとんどだぞ。


「ではパーティー登録構成員は以上ということですので、パーティー制度についてご説明させていただきます。なお、お二方ともパーティー登録は初ということですのでこの説明は強制的に聞いてもらいます。」

「お願いしますわ。」


強制とは面倒だな。

リーラだけ聞けばよさそうなものだが俺も聞かなくてはだめなのだろうか。


「パーティー登録をされた方たちは、専用に用意されている依頼を受けることができます。依頼書にパーティ専用と書いてありますのでそちらの依頼を持って左側の受付に行ってください。その時は代表者一名だけで来ても結構です。あとはパーティーのランクが個人のそれとは別に設けられます。そのランクに関しては、パーティの1番上の方と1番下の方の平均で切り捨てとなります。あなた方ですとFランクとDランクの間のEランクがパーティーランクとなります。受けられる依頼は個人で受けられるものと同様に1ランク上のものまでで、ポイントはそれぞれのランクに適したものが手に入ります。また、ランクが1番下の方にとって2ランク以上上の依頼を受けることがありますが、その時は魔物討伐の時と同様に倍々にポイントは増えます。報酬に関してはパーティ側で配分してください。ちなみに個人で依頼を受ける場合と違い報酬が増えることはありませんから。ここまでで何かありますか?」

「パーティー登録をして個人の依頼を受けることはできるのか?」

「はい、大丈夫です。ですが、依頼は原則1つずつしか受けられないのはご存知だと思いますが、それは個人の依頼だけでなく、パーティーで受けた依頼も同様の扱いです。ですから、パーティーの依頼も含め、何も依頼を受けてない状態で個人の依頼を受けてください。また、パーティーのうちの誰かが個人の依頼を受けている状態でパーティーの依頼を受けるとその方は依頼達成時のポイントなどは入りません。また、二人以上が依頼を受けられる状態でないとパーティーの依頼を受けることはできませんから確認してから依頼を受けられますよう注意してください。」


俺の質問に男は特に詰まることもなく聞いたこと以上に答えてくれた。


「では、最後にパーティーで討伐した魔物に関してですが、これは討伐部位を持ってきた方にポイントと報酬が渡されます。しかし、一緒に持ってきた場合誰にポイントを入れるのかお聞きしますのでご相談のうえ、担当者に告げてください。あと、まだパーティーの上限人数はないので更に加入される場合は加入者とパーティーのうちの誰かおひとりこちら側の受付に来てくだされば手続しますので。これでパーティーの説明に関しては以上です。ご質問はありませんか?………無いようですね。ではお疲れ様でした。」


男が頭を下げる。それに対してリーラはありがとうございました。と礼を言っているがそれがその男の仕事なのだからありがとうも糞もないだろう。

俺はリーラたちを横目に依頼が張り付けてある板へと向かう。

たしかリーラが依頼を受けるといっていたから見ておこうと思ったのだ。

だが、忘れていた。ある意味重大な事実を。


「そういえば文字読めなかったな。」


かろうじてランクはわかる。

とは言っても自分と同じFランクだけだ。

簡単だ。自分のギルドカードに書かれているものと同じものを探せばいいのだから。

ギルドカードには自分の名前とランクしか書かれていない。名前とランクはどっちがどっちかわからなかったが、間違いない。ギルドカードに書いてある1つの文字がたくさんの依頼書に書かれている。ゼロという文字がそうそう依頼書に書かれないだろうからこれがランクを現しているに違いない。


「何かいい依頼はありまして?」


リーラが寄ってくる。


「お前が決めていい。」


こうゆうことは人任せにするのが一番楽だ。何より失敗したときの責任は大体相手が被ることになるからな。


「そうですわね…実力的にはDランクの依頼を受けても大丈夫そうですが、でも初依頼ということですしFランクのこれにしましょうか。」


そう言ってリーラは一枚の依頼書を手に取る。


「どんな依頼なんだ?」

「魔法薬の材料の採取ですわ。」


ものさえ知っていれば一人でもできそうなものだがパーティー専用にする意味があるのか?

そうは思ってもリーラは依頼書を持って左側三列の受付の列の空いている列の一番後ろに並ぶ。

早い時間だというのに結構込み合っている。どいつもこいつもご苦労なことだ。

俺はリーラの隣に並ぶ。

程なくして俺たちの番になった。


「これをお願いしますわ。」


リーラが依頼書を受付に渡す。

昨日の登録の時に依頼を受けるときにその担当者に聞けと言われたが説明続きで面倒だから、リーラを見て覚えさせてもらおう。


「はい、Fランクパーティー依頼、『魔法薬の材料の採取』ですね。期限は5日、達成条件はモギヨの葉10枚以上にFランク魔物、イビルラビットの角10本です。報酬は三万R。失敗条件は期限の超過。です。おひとりで結構ですのでギルドカードの提示と個人認識をお願いします。」

(わたくし)がやりますわ。それとお金の引き下ろしもお願いしますわ。」

「はい、おいくらですか?」

「五万Rほどお願いします。」


リーラが白い球を握り本人認証を済ませると受付は銀板を5枚リーラに渡す。

なるほどな。こうやって金を引き落とすわけだ。しかし、残高はどうやって確認するのだろうか。


「依頼達成条件を満たしたら依頼品はギルドまでお持ちください。ではご武運を」


ご武運とはまた物騒だな。それだけ依頼は大変ということか。

俺とリーラは受付をあとにして外にでる。


「それにしてもお前、昨日も金を下ろしてなかったか?もう使いきったのか?金はもう少し計画的に使え。」

「あなたと一緒に行動することになったから必要になったんですわ。それに今回の依頼に魔物の討伐も控えていますからあなたの装備を整えませんと。」


どうやら俺のせいらしいな。反省する気は全くないが。

とゆーか俺が悪いのか?



その後まず装備品を売っている店に行った。

安い、使いやすい、何でもあるがモットーらしい。


「こういう時は隠れた名店的なところに行くものではないのか?」

「そういうところは得てして高いんですのよ?どうしてもそちらがいいと言うのならご自分でお金を出してくださいな。(わたくし)はこのお店以外のものにお金は出しませんわよ。」


資金の話は卑怯ではないか。実質今の俺には金があまりない。

つまり俺の金は財布であるリーラが握っている。

財布が自らの意志でもって紐は開かないと宣言した。

まあ、とは言っても俺に必要なものは銃の弾くらいだ。

特に問題はない。




「………なんだと?」

「へい、すいやせん。銃の弾なんて滅多に売れないもんでずいぶん前に取り扱うのは止めたんですわ。」


ハゲの癖に髭深く、贅肉でダルダルのからだをした店主が俺に告げる。

何でもあるがモットーではないのか?公約も守れないやつはミンチになるべきだ。


「ではこちらを買いますわ。」


俺が店主の殺害方法を考えている間にリーラが会計の台に品物を置く。

ダガーと呼ばれるソレは店内の照明を反射し、鈍い光りを放つ。


「使うのか?」

「あなたが使うんですわ?」


俺に向けてリーラが言う。

いきなりのことにビックリして店主の殺害計画はどこかへ飛んでしまった。


「なぜだ?」

「なぜって、弾がないのですから仕方ないでしょう?それに、銃では近距離には対応しきれませんでしょ?だからこういった武器に慣れておいて損はありませんわ。」


むぅ…なるほど一理あるかもしれないな。

だとするなら


「どうせならそれではなく、あれがいい。」


指し示したのは店主の後ろに飾られているダガーだ。

こちらはリーラが持ってきたものとは違い、いかにも斬れます的な光りを放っている。

十五万Rと多少値が張るが俺がもつに相応しい。


「あらそう、いいですわね。頑張ってご自分でお金を貯めて買ってくださいな。」


にべもない。なぜか冷たい針を刺されている錯覚に襲われる。

こいつ実は守銭奴か?

しかしこいつが金を出さないと言っている以上、諦めるのが無難か。別にどうしても必要なものではない。

しかしこれが銃の弾ならば無理矢理にでも買わせているところだ。


「んで、これでいいのかい?」

「ええ、それでよろしくお願いしますわ。」

「ウチとしちゃあ、こっちのダガーを買ってくれた方が儲けがでかいんだけどね。えーと、ブロンズダガーひとつで千五百Rだね。」


俺の目に留まったダガーの百分の一の価値のダガーをリーラが購入して俺に渡す。


「さて、次は防具屋に行きますわよ。」


すぐに店から出ていく。


「ここにも少しだがあるだろ。」

「ここの防具は安くても質はあまりよくありませんわ。そう変わらない価格でそこそこいい製品を取り扱っているところを知ってますからそこに行きますわ。」



前を歩くリーラはどんどん路地の裏の道へ進んでいく。

途中よさ気な穴場的武器屋があったりした。

そう、こうゆうのを最初は予想してたんだよ。

なのにあの店はどうなんだ。どこにでもあるような店構えにどこにでもあるような品揃え。

はっきり言ってつまらない店だった。

しかし、いつまで歩くんだ?

もう、町の周りを囲む壁のすぐ近くまできている。


「ここですわ。」


そろそろ声をかけようとしたときにリーラが立ち止まる。

そしてリーラが示した店を見て一気に不安になった。

なぜならばその店はあまりにメルヘンだったからだ。


見た目は一点を除けばお菓子の家のように見えなくもない。しかし材質は普通の建築材みたいだ。恐ろしいまでに似せてある。なにより全体的にピンクの配色の多いこと。実に九割はピンクだ。

これのせいで本来の配色であればお菓子の家に見えていたであろう建物が不気味なオブジェとなっている。


「大丈夫なのか、ここ。」


思わず口をついて出た子の言葉こそ紛れもなく嘘0%の俺の本音。


「見た目はあれですけれど、実はいい店なんですのよ。」


そういいながら店に入っていくリーラ。

仕方ない、少しばかり嫌だが覚悟を決めて店の中に入る。

そして入ったことで更に不安になった。

予想していたが中もピンクだった。

照明がピンクなのはまだいい。しかし、商品までピンクしかあるようにみえない。

これなら質が悪かろうとさっきの店の方がマシだ。

この際つまらない店だろうと我慢してやる。

そう思い回れ右をして店を出ようとする。


「あらん、ナイスキャッチ!」


誰かに抱きしめられた。

甘い匂いがする。


「ああ、店長さんそこにおりましたのね。」

「あらあら、誰かと思ったらリーラちゃんじゃない!でもダメよ、店長さんなんて他人行儀に呼んだら。あたしのことはユリって呼んでくれなきゃ。ところで今日はどういったご用かしら。」

「今日は店長さんが抱きしめている男の方の防具を整えにきました。」

「あらいやだ、この子ってリーラちゃんの彼氏だったの?ごめんなさいね。ちょうどいい位置に来たからついキャッチしちゃった!」

「そんなんじゃありませんわ!色々あって一緒に行動することになっただけです。」


俺抜きで話が盛り上がっていく。つーかいつまでこうしてりゃいいんだ。


「いい加減離してくれないか。」

「あら、ごめんなさい。あまりに抱き心地がいいもんで忘れてたわ。」


俺の言葉にやっと男は離れてくれた。

そう、男だ。

見た目はひょろいオッサンだ。黒い髪を腰まで伸ばしている。

いわゆるお姉系というやつか。

これに抱き着かれてたわけだ。

でもそんなことはどうでもいい。

こいつについて気になっていることがある。

それはずばり


「切ったのか?」


男のごく一部を見ながら言う。

持つ者としては興味がある。


「いいえ。ここは切るつもりはないわ。だって親からもらった大事な体ですもの。傷をつけるなんて親不孝だわ。でも、私の意見だから他の人には押し付けないけどね。」


そんなんになっておいて親不孝にはなっていないのか、甚だ疑問だが本人がいいのならそうなのだろう。


「そんなことより、あなたのお洋服を選ばなくっちゃ!あと、あたしを呼ぶ時はユリって呼んでちょうだい。それにしてもボロボロね〜。こちらで処分する?」

「いや、何とか修復できないか?」


一応これでも自分を知るための手がかりだ。処分されては困る。


「う〜ん詳しく見てみないとなんとも言えないけど多分大丈夫よ。結構いい生地みたいだからお高くはなるけど。」


それならそれでいい。とりあえず聞いておくべきかもしれん。


「ところで、このような服はどこら辺で作られているかわからないか?」

「いえ、記憶にはないわね。どうかした?」


説明するのも面倒だな。


「わかったわ!お気に入りだったからもう一着欲しくなったけど、どこで買ったか忘れちゃったのね!んも〜あわてんぼさんっ!」


人差し指で鼻をちょんってされた。無駄に鳥肌が立つ。

しかし当たらずとも遠からずか?少なくとも忘れたという部分は合っているし、結構自然だ。

よし、以後服のことを尋ねる時はこのようにして聞こう。記憶喪失云々を説明するよりは現実的で面倒がない。


「そんなことよりまずはお着替えしましょうか。」


うん?こら、思考の最中に脱がすな。

それにしても、随分と脱がすのに手慣れているな。


「ちょっと…店長さん?一応まだ(わたくし)がいるんですけど。」

「あらあら、純情ね〜。えっと、あなた…お名前は?」

「ゼロだ。」

「そう、ゼロちゃん。こちらにいらっしゃい。」


そういって店の奥に連れていかれる。変なことしたら殺すからなと殺意を滲ませておく。


「やだ、その視線…あたし感じちゃう。」


……こいつのこと苦手かもしれん。

それよりもまず言っておかないといけないのがひとつ。


「ピンク以外で頼む。」


そういったときのユリのがっかりした顔を見て、言っておいて良かったと思った。


後編へ続く



1話5000字程度を基準にしているので前後編に分けました。

だけどそれ以上を基準として頑張るべきですか?

やってやれないことはないけど文章がさらに崩壊しそうで怖いです。

後編は二人で実際に仕事にでます。

早ければ明日にでも投稿します。


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