運命の始まった物語
ちょい短めです。
視点はリーラです。
どうするべきでしょうか。
今、私はすごく悩んでいます。
というのも原因は私の目の前で食事をしているゼロさんについてです。
何を悩んでいるのか。
それはずばりこの後どうするかです。
はっきり言ってギルドへの案内は済んだのですし、ゼロさんとはここでお別れするべきなのでしょう。
でもなんでしょう。この、一人にしてしまうことへの不安感は…
ゼロさんのこれまでの言動を考えると心配ですわ。
というか、銃弾持ってないのに喧嘩を売るなんてこの人頭大丈夫なんですの?
それに今考えますと銃弾の入っていない銃にビビってた私って…
すごく恥ずかしいですわ……
バレてませんわよね?
あら?そういえば彼の食事代だけでなく銃弾の代金も私が払ってますわね。
これは完全に散財ですわ…
私もそう懐事情に余裕があるわけではありませんのに…
今までの暮らしが暮らしでしたし、まだ感覚が完全に消えたわけではありませんのね…
今後散財しないよう気をつけなければ!
それはそうとゼロさんは不思議なかたですわね。
お名前に関してはこの前やっと教えてくださいましたが、それ以外は謎に包まれています。
特筆すべきはあの銃技。
あの時私がゼロさんに伝えたのは確かにエンシェントワームの弱点ではありましたが、それも参考程度にと思っただけです。
現に私の目には見えませんでした。
しかしあれは確実に弱点である部位を正確に射抜いていましたわ。
でなければ一撃で倒れるはずがありませんもの。
ということは、ゼロさんには弱点が見えていてかつ、それを射抜くだけの腕があるということになります。
あれだけの腕をどこで手に入れたのでしょうか…
いけませんわね。知らず知らずのうちに彼に興味を引かれ、彼のことを考えている自分がいますわ。
そうだとしても、ゼロさんはまれに見る自己中ですわ。さっきもいきなり腕を引っ張るんですもの。
こっちは並んでいるというのに!
それにこちらが話しかけても無視することが多いですし!
何より自己紹介したというのに一度も私の名前を呼んでくれてませんわ!
まさか覚えてないなんてことありませんわよね。
考えたら不満だらけですわ。
何を迷っていたのでしょうか。
食事を終えたらさっさとお別れしましょう。
その前に
「ゼロさん、ひとつ聞きたいんですけどよろしいですかしら。」
私の言葉にゼロさんは明らかに嫌そうな表情と面倒だという表情を足して二で割ったような表情を浮かべています。
確かにあなたを質問責めにしたことは認めますが何がそこまで彼にこんな顔をさせているのか見当もつきません。
「私の名前、覚えてますか……?」
「リーラだろ。そんなことわざわざ聞くな。一度聞けば大体覚える。」
即答でした。
覚えていたんですか…
確かにそんなことと言われるようなどうでもいいことです。
………でも
覚えてくれていたということに素直に嬉しいと思いますわ。
「覚えてるなら、名前で呼んでくださいな。いつも、おいとかお前とかで呼ぶんですもの。あなたが私の名前を、おいかお前と間違って覚えているのかと思いましたわ。」
しかし私の口から出るのは照れ隠しの嫌味。
まあ、素直でないのはお母様譲りですし、素直な私の姿を見せるのは生涯の伴侶のみですわ。
そういえばゼロさんはこれからどうするつもりなのでしょうか。
少なくともギルドの仕事は多種多様ですから最低の生活費は稼げるはずです。
これからは一人でやっていくというのなら私も悩むことなくお別れすることができますわ。
「ゼロさんはこれからのこと考えていますの?」
私の問いにゼロさんはどう答えるか考えているようです。
ついこの間気づきましたが、どうやらゼロさんは考える時に右手の人差し指を鼻に沿って眉間におく癖があります。
無意識なのででしょうか?
そうだとしたら何ともわかりやすい…
「そうだな…しばらくはこの町にいる。目的が達成しないようなら移動するぞ。」
何か声音に私も一緒に行かなければいけないニュアンスが含まれている気が…
「これからはおひとりで活動なさるということですの?」
とりあえずゼロさんが私をどうしたいのか聞いてみたいです。
「ひとり?なんだ、お前はここで別れるつもりだったのか。それは少し困るな。せめて明日にしてくれ。」
……明日?
ああ、今夜の宿の心配でもしているんですわね。
薄々思ってはいましたが、この方私のことを都合のいいお財布くらいに思ってるんでしょうね。
明日なら別れてもいいと言っているのがその証拠ですわ。
つまりはこの三日の間に私はゼロさんとの信頼関係をそこまでにしか進めることができなかったということです。
しかし変ですわね。
ゼロさんの答えにショックを受けている自分がいます。
これじゃあ心の何処かで必要だと言われることを期待してたみたいですわ。
でも、これで心おきなくゼロさんとお別れできますわ。
「宿のことでしたら心配しなくても大丈夫ですわ。餞別にこれを差し上げますから。」
そう言って私はゼロさんに銀板を3枚差し出す。
なんか手切れ金みたいですわね…
でもこれだけあれば2日は普通に暮らせるはずですわ。
その間にお仕事をしていけば問題ないでしょう。
「ああ。財布ないから預かってくれ。」
そう言ってゼロさんは差し出した銀板を私の前に押し返してきます。
……は?この方はなにをおっしゃってるんでしょう。
「預けるも何も差し上げますわ。」
「だから、財布ないから預かっておいてくれって言っているだろ。」
どういうことですの?
ゼロさんの考えていることがわかりませんわ。
「私達はここでお別れなのですから、預けられても困りますわ。」
「ん?ああ、あれやっぱなし。」
なし、って…
「お前がいたほうがいろいろと都合が良さそうだと思い直した。」
都合がいいですか…
やはり私のことをそのように思っているんですのね。
あまりに自分勝手ですわ。
やはりこの方と共に行動するべきではありませんわね。
何を迷っていたんでしょうか。
「まだ、ギルドでどうすればいいのかわからんしな。色々と教えてくれ、リーラ。」
お別れの言葉を告げようとした私にかけられた言葉に思考が止まってしまいました。
もしかして私、ゼロさんに頼りにされてますの?
とゆーか今、リーラって名前で呼んで…
「仕方ありませんわね。しばらく面倒みてあげますわ。」
考えるより先に答えていました。
この時の判断は後々少しだけ後悔しましたが、間違ってはいませんでした。
この後ゼロさんはご自分の物語だけでなく私の物語にも巻き込まれていくことになります。
これは私とゼロさんのそんな運命の始まった物語
あらやだ!読み返すと会話がカップルの痴話喧嘩みたいな匂いがする!
ダメな彼氏と別れようとして結局元の鞘にもどった的な?
二人が一緒に行動するようにしたくてちょっと強引になっちゃいましたが、どうでしたか?
ちなみにゼロくんの考える時の癖はドラマ『ガリ〇オ』の〇川教授を想像してください。