脱王都な物語
ランクアップから幾日が経ち無事全員退院したころ俺はとある用向きで商業区に来ていた。
といっても買い物ではない。
しかし、やっとラキナのお守りをする条件で提示したものが用意され、見る機会が来たのだ。
一軒の武器屋に入る。
ここは武器を売っているだけでなく、店の奥で鍛冶も行っている。
「いらっしゃい。何をお探しですか?」
店番の娘が聞いてくるが無視して奥に進む。
「あっ、お客さん。そっちは関係者以外ご遠慮していただきたいんですけど……」
構わず入る。
用があるのは人だ。
「ガスカル出てこい」
「あっ、ゼロさん来てくれたんですかっ!」
ちょうど何かを作成中だったガスカルが俺に気付いて作業を止める。
ガスカルは王都に来た初日に裏で銃弾を売ってくれた奴だ。
それ以後も定期的に弾を仕入れるために会っていた。
それがなぜ商業区の武器屋の鍛冶場にいるのか?
理由は簡単だ。
これこそが俺のラキナに突き付けた条件だからだ。
俺が望んだのはガスカルの市民権の再取得とそれに伴う借金の帳消しや新たな仕事先の紹介などだ。
つまり俺のおかげでガスカルはまた表側の舞台に舞い戻ってきた。
「いやー、ここに勤めてから数日経つけど一向に現れないからどうしたのかなと思ってたんですよ」
そんなことを言いながら近づいてくるガスカル。
「用がなけりゃこねーよ。つーことで弾丸をありったけよこせ」
「とは言ってもすぐには……」
「別に急いでないから気長に待つ今日は注文だけだ」
「そうですか、承りました。出来たら宿の方に運びます」
「気が利くじゃないか」
「いえいえ、こうやって表に出てこられたのもゼロさんのおかげですから」
そう言ってガスカルは朗らかに笑う。
でも俺は知っている。
今はこんなこと言ってるが市民権が与えられ、表に出れると言われた時のこいつの反応を。
その場にいた盛りすぎ筋肉(王国騎士団団長)の話では泣き叫びながら出ていくのを嫌がったという。
おそらく自慢の銃器コレクションのことで一悶着あったのだろう。
しかし、今では表での生活を謳歌しているらしい。
だからこそ……
「もちろん代金はタダだよな?」
「うっ……はい、もちろんです」
ということになる。
俺が善意で人を助けるなんて自分のことながらまずないと言ってしまえる。
それが自業自得のことなら尚更だ。
でも、利用価値があれば話は別。
それがガスカルにはあった。
現在、俺はガスカル以外に銃の弾を用意できる者をしらない。
だから出来るだけ力になってやらなくてはと思うのだ。
「その……いくらかは頂けませんか?」
恐る恐るといった感じでガスカルが聞いてくるが無視する。
都合が悪いとかじゃなく、取り次ぐ必要性を感じないからだ。
「んじゃ、よろしく」
そう言い残してその場を去ろうとする。
「ちょっと待ってください」
しつこいな。
そんなに金が欲しいのかよ。
そう思いながらも一応立ち止まって振り向く。
「なんだよ?」
「あ、よかった。いえ、お金のことではなく、あなたにお礼がしたくて」
そう言って近くのテーブルに近づくとそこから小さな箱を取り出す。
「これを渡したくて」
そういってガスカルが箱を開けると中には指輪が入っていた。
「これは?」
「僕の渾身の作品に知り合いの魔法彫金師に頼んで生命の加護を刻んでもらいました」
「生命の加護?」
「はい、怪我の回復力を高める加護です。短い期間に二度も大怪我されてるみたいですから」
「ほお、ありがたいが鍛冶師が指輪かよ」
普通は武器とか防具じゃないのか?
「武器は銃がありますし、防具は苦手で……」
どうしようもないな。
「着けろ」
そう言って左手の甲を上にして出す。
「えっ? 僕が着けるんですか?」
「そうだけど?」
なんで疑問形なんだ?
「……それじゃあ着けます」
そう言ってガスカルは俺の手をとり、人差し指に指輪をはめる。
指輪はピッタリと俺の指にはまった。
「男同士で指輪の交換……たまらないわっ!」
ずっと静観していた店番の女が色めき立った声を上げる。
つーかずっと背後にいたのか。
「フィオちゃん!? こ、これは違うんだ。別に深い意味はなくてっ!」
「いいのよ、ガスカルさん……男同士なんてとても背徳的で素敵だもの。断然応援するわ」
「違うんだーっ!」
くだらない誤解が生じているらしい。
なんか二人で追いかけっこがはじまったのでほっといて帰ることにする。
ガスカルには頑張って誤解をといてもらいたいものだ。
「あ、あのっ! 頑張ってください」
背後から女のよくわからない応援と何とも言えないような生暖かい視線を感じた。
数日後宿にガスカルから宿に弾と共に手紙が届いた。
そこには一言『店にはなるべく来ないでください』とだけ書かれていた。
どうやら誤解は解けなかったらしい。
それからの日々は瞬く間に過ぎたといっていいだろう。
色んなことがあった。
なんか夜な夜な奇襲もどきを受けたと思ったら、なんと馬鹿貴族の報復だった。
完全にそんなの忘れてた。
あとはラキナ。
相変わらず俺を避けてるみたいだ。
結構長いこと続くな。
寂しくはないが、なんか腹立つ。
ということで突撃してやる。
「俺だ、入るぞ」
俺が居るのはラキナの部屋の前。
返事も聞かず中に入る。
本来なら鍵がかかっているのだが、今日はメイドに言って鍵を開けとくように言っている。
すんなりと部屋に入ることができた。
ラキナの部屋は俺と同じ宿なのにも関わらず四倍は広かった。
いわゆるスイートルーム。
さすがはお姫様。
民の血税で贅沢し放題だな。
「キ、キシワ=ゴミクズ……」
びっくりした顔で俺を見つめるラキナ。
こうやって顔を合わせるのは本当に久しぶりだ。
「よう。お前が逃げまくるからこっちから来てやった」
「お、怒りにか?」
「お前どんだけビビってんだよ?」
「だって……お主は笑いながら爪をはぐんじゃろ?」
そうゆうこともある。
でも……
「お前にはやんねーよ」
「ほ、ほんとか?」
俺は10歳くらいの女の子の爪をはぐほど鬼畜ではない。
精々……
「これくらいだろ」
本気の力でデコピンする。
強烈な音がなってラキナが後ろに倒れる。
「くぅ〜〜〜〜っ!」
額を押さえながら悶絶するラキナを見つめる。
愉快愉快。
「とりあえずこれでダークプラントの件の罰としてやる」
「痛いのじゃ……」
これくらいで許してやるなんて優しいな、俺は……
まあ、日にちが経ったことで怒りのようなものは薄れてるんだけどな。
「まったく、さっさと謝ればもっと軽い罰で許してやったかもしれんのに……」
嘘だけどな。
多分もう少しきつい罰を与えていただろう。
具体的には尻を叩いていただろう。
「も、もっと早くに謝る予定だったんじゃ」
「いつだよ」
「……お主が退院した日じゃ」
「…………」
「でも、迎えに行ったらすでにお主はいなくて、そのうちタイミングを逃してしまったのじゃ……」
つまり、なんだ
「俺のせいって言いたいのか?」
「ち、違うぞ。もともとわらわが悪かったのじゃ」
わかってるじゃねーか。
「だから、ホントにすまなかった」
「いいよ、もう罰は与えた」
ラキナの頭を撫でる。
とゆーかグシャグシャにしてやる。
かなり迷惑そうだがどことなく嬉しそうにしているようにも感じる。
「ラキナ」
「なんじゃ?」
「俺の名前はキシワ=ゴミクズじゃなくてゼロって言うんだ」
いつまでもキシワ=ゴミクズ呼ばわりも何だしな。
つーかいつまでも誰も訂正しないなんて思わなかった。
「知っとるぞ」
「はあ?」
しかし返ってきたラキナの言葉は少し予想外で思わず情けない声が出てしまった。
「とゆーか、気づかん方がおかしいじゃろ」
「じゃあなんで……」
俺の言葉にラキナはガキとは思えない艶やかな笑みを浮かべる。
「だって……わらわだけの特別な呼び名じゃろ?」
特別と言うか、からかっただけなんだがな……まあ、いいか。
こうしてラキナとの仲直り?も無事に終了した。
また幾許かの日にちが過ぎていった。
俺達は基本的に日帰り出来るような仕事をしながら毎日を過ごしていたのだが、朝、眠りから覚めるとそこは知らない天井だった。
「ここは……」
記憶を掘り起こすがやっぱり知らない。
起き上がって周りを見回すとそこは狭い個室だった。
「どこだここ……」
最初に感じたのはこれだったが、次いで違和感を感じる。
なんか揺れてね?
「地震か?」
ベッドから出て、なぜか丸い窓に近づいていく。
そこから見えた景色は青。
それも空のような明るい青ではない。
どちらかというと深い青。
つまりは大量の水だ。
それが視界の下の方に広がっている。
「なんだこれ?」
夢でも見てるのだろうか。
昨夜俺はたしかに宿のベッドに入ってから眠ったはずだ。
とりあえず部屋から出ようと思い、扉を開ける。
「あら、ゼロさん。おはようございますわ」
「ゼーちゃんおはよ〜」
「…………おす」
「グッモーニング親友っ!」
迎えたのはラキナとメイドを除いたいつもの面子。
とりあえずハゲに向かって歩いていくと全力で顔面を殴った。
「ぐおっ……い、いきなり何すんのっ?」
「痛いか?」
「そりゃいてーよ」
ふむ、痛いということは夢ではないのか?
事実殴った俺の拳も痛い。
「どういうことだ?」
リーラ達に問い掛ける。
なんかハゲがなんで殴られたのとか聞いてきてうるさいのでもう一発殴っておく。
「えっと……あとである方が説明しにきますわ」
「お前が説明しろ」
「今回の件は私ではなくその方の口から聞いた方がよろしいかと。何せ首謀者ですから」
リーラはそう言って俺の問いをはぐらかす。
「ならせめて、ここがどこか教えろ」
「ここは〜、お船の中だよ〜」
「船だと?」
なんでそんなのに乗ってんだ?
いや、そもそもいつ……って寝てる間に運ばれたに決まってるよな。
とりあえず首謀者とやらを待とう。
今俺がいるのは大きな部屋で、でかいテーブルと椅子がいくつか置いてある。
また、簡素なキッチンもあり、いわゆるダイニングみたいなところだ。
そこから俺の出てきた部屋と同じような扉がいくつかある。
恐らくそれぞれが個室に繋がっているのだろう。
また、個室への扉とは別に大きな扉があるのだが、そこから外に出ることができるのだろうか。
そんな風に観察していると大きな扉が開き、ラキナが入ってきた。
「む? キシワ=ゴミクズ、起きたのか」
「ああ」
「……説明はした方がよいか?」
もしかして首謀者ってこいつか?
「しろ」
「簡単に言うとじゃな。わらわの輿入れが早まって、向かうことになったのじゃがな……皆についてきてもらうことにしたのじゃ」
……問答無用ってのは問題があるよな。
せっかく仲直りしたのだが、また罰を与えなくっちゃ。
これは脱王都な物語
なんとゆうか、急な展開です。
しかもやたらはしょっちゃいました。
つーても面白い話もないし、なんかやるといつまでも王都にいることになるんで致し方ない処置だと思ってください。
気が向いたら王都編の番外編的なもので馬鹿貴族の報復とかシャル達の入院生活を書くかもしれません。