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ゼロの男の物語  作者:
31/32

ギルドランクアップの物語


ダークプラントとの一件から三日が過ぎた。

俺は今だ病院のベッドの上にいる。

とは言ってもそれも今日までのことだ。

他の三人よりもケガの軽い俺は先駆けて退院だ。

そして次の日にはオルトが、それから二日遅れてシャルが退院する。

ハゲに関しては俺との戦闘の傷も癒えていないというのにさらに追い打ちがかかり、シャルの退院から四日後に退院することになっている。

ちなみに抜け出さないように厳重に拘束するよう俺から希望を出しておいた。


そんな時一人の来訪者が来る。

ピンチに颯爽と駆け付けたあのおっさんだ。

おっさんは俺らを病院に運ぶとフラリと姿を消したため、こうして会うのは久しぶりだ。


「お姉さんいいケツしてんね」

「きゃっ!」


通りすがりに看護士の尻を撫でるというセクハラをかましながら俺の元に近寄ってくる。


「よっ、青年。明日退院だそうだな」


普通に話し掛けてきた。


「ああ」


俺も言葉少なく返す。


「そっか。んじゃ飲むか」


そう言っておっさんが取り出したのは酒だった。

自分勝手な野郎だ。

ここがどこだかわかって持ってきたのか?


「ほい、青年の分」


そう言って渡されたコップを受け取る。

まったく……ありがたい。

病院の味気ない飯や健康的な飲み物などには辟易していたのだ。

酒なんて久しぶりだ。

注がれていた液体を一気に飲み干す。

上物の米酒だ。

うまい。この一言に尽きる。


「やっぱ病院での生活なんて刺激がないよな。おっさんも白衣姿の女を見る以外では来たくないもん。健康的過ぎて逆に不健康になっちゃうよ」

「同感だ」


白衣の女云々以外だが。

やれ9時には消灯だの病院食以外は口にするななどやかましいことこの上ない。

まあ、一番やかましいのは病院関係者ではなく


「失礼しますわ」


ただ一人入院せずに済んだこの女。

リーラである。

当たり前ではあるがリーラは毎日見舞いにきているわけだが、これがまた母親の如く厳しい。

母親なんて覚えちゃいないが……


「あら、先客が……って何を飲んでるんですかっ!」

「酒」

「ここがどこでっ! あなたがどうしてここにいるのかっ! そういうものを弁えなさいと何度も言ってるじゃないですかっ!」


リーラの怒声が病室に響く。

ここは四人部屋で他の患者がいるというのに迷惑な奴だ。

ちなみに俺以外の三人は同室だったりする。


「病気なわけでもねえし、いいんだよ」


ケガで入院してんのに飲食に制限をつける方がどうかしている。


「そういう問題ではありませんでしょ!」

「まあまあ、そこまでにしなさいな。いいかい酒は百薬の長といってだな……」

「五月蝿いですわっ!少しは黙ってて……ってアルヴィス様っ!」


そこでリーラはやっと先客の存在に気づく。

とゆーか様付け?

前に聞いた時は分からないって言ってたんだが


「なんだ? このおっさんのこと分かったのか?」

「おっさんなんて無礼ですわよ。この方はギルドに三人しかいらっしゃらないSランクの冒険者ですのよ!」


その言葉を聞いて少し思考が止まる。

Sランクはギルドで付けられる最高ランク。

言動とか見てるとそうは見えないがあの実力だ。納得というものだろう。

だが


「おっさんはおっさんだ。現にこいつが自分でおっさんって言ってるだろ」

「そうよそうよ。少女も遠慮なくおっさんって呼んで。名前に様付けされるとムズムズしちゃうんだよ」

「でも、あの三人や他の方は……」

「あいつら言っても聞かないんだもん。おっさんという生き物は本当に譲れない物以外は諦めるの早いからね」

「いや、あの、しかし……」

「さあ、呼んでくれ。その可憐な口でおっさんって蔑んだ感じで」


今のはスルーするべき所か?

ツッコミ入れたらダメだよな?


「あ、えっと……ではおじ様と呼んでもよろしいですか?」

「はいきた。ズッキュン来ました。かつてない衝撃! なにその甘美な響き。様付け嫌なのにおじ様だと燃える(萌える)! 是非それでっ!」


リアクションがでかい。

そしてうるさい。


「と、病室だしこれくらいにしとこうか。今日は青年のお見舞いに来たんだからね」


その割には見舞いらしいことなんて酒の差し入れしかしていない。


「つーか聞いてよ青年。マキちゃんって子がね?」


それから何故かおっさんはマキって女とのノロケ話をしだす。

まったく意味がわからない。

視線でリーラになんとかしろと促すが奴は首を横に振り、無理だという意志を示す。

仕方なく片手間に聞くことにする。


おっさんの話を要約すればマキって女と付き合うことになって色んなとこにデートしに行って楽しかったということである。

これを実に30分ほど語っていた。

なぜ俺がそれをキレることなく最後まで聞いていたかというとわりと面白かったというのが理由だ。

すっげー退屈な日常を送ってたからな。

こんなくだらねえ話も真面目に聞けば普通に楽しめてしまった。


「つまりマキちゃんってそーゆー娘なのよ」

「そんじゃなんでここに来たんだよ。そのマキって奴とデートでもしてりゃ良かったじゃねーか」

「いや、彼女はさ、ほら何て言うの、特殊な職業でさ」


俺の皮肉混じりの茶化しに対するおっさんの返答は歯切れが悪い。


「どんな職業ですの?」


リーラの問いにおっさんは苦笑いをする。

なんだ?

そんなに言いたくない職業なのか?


「マキちゃんの職業はね……詐欺師ってやつ」


ギャグか?

これはまたクソ寒いのかましたな。

なんて返せばいいのやら。


「それは、えっと……やめさせるべきですわね」

「ははは……もし次会うことがあったらそうしようかな」


リーラの言葉におっさんは乾いた笑みを返す。

ん? 何? もしかしてギャグじゃねーの?


「もしかして……被害に遭われたのですか?」

「うん……お母さんの手術費用に三億R必要だっていうから渡しちゃった……それ以来連絡がつかないのよね。勤めてたお店も辞めちゃったし」


なんかおっさんの顔に縦の線が何本も見える。錯覚か?

つーか何こいつ詐欺師との作られた恋愛のノロケを俺らに披露してんの?

なんかいままでの時間がすっげー無駄な時間に思えてきた。


「時間を返せ」

「なんで? いいじゃん。彼女との楽しかった思い出を誰かに話して心の安定をはかりたかったんだよっ!」


何その独りよがりな思い。


「なんで俺んとこ来るんだよ……」

「あと話してないのは青年達くらいだから」


知り合い全員に言ったのか……

よほどショックだったみたいだな。

だけど


「お前もう帰れ」

「ひ、ひどい。傷ついたおっさんを慰めるどころか放り捨てるなんて……不法投棄で捕まっちゃってもしらないんだからね!」


すごく気持ち悪い喋り方で捨て台詞を吐いておっさんは病室を出ていった。

かと思ったらすぐに戻ってきて顔だけ病室の中に入れる。


「あ、そうそう。退院祝いとしてサプライズを用意しといたから。近いうちお目見えすると思います。そんじゃ!」


そう言っておっさんは去っていった。


「サプライズってなんでしょうか?」

「俺に聞くなよ。ところでレックスはどうした?」

「好みの女性の観察に忙しいそうで、置いてきましたわ」


レックスとはあのユニコーンの名前である。

あのあと俺らと共に行動すると言い出して一緒に行動することになった。

なんでもユニコーンは普通の馬の十倍は力があり、人と接するのは稀らしいのだが、レックスに関してはそれに当て嵌まらない。

まあ、基本的には女としか関わろうとしないがな。

それでも十分に珍しい。

それに特殊な力も有していてあいつは自分の大きさをある程度変えられるらしい。

限界まで大きくなると普通の馬よりも少し大きいくらいなのだが、小さくなると手に乗るくらいになる。

この能力もあってか餌代はそうかからないし、何より場所をとらず、便利であろうため飼うことにした。


「ふーん。ラキナは?」

「一緒に病院まで来てオルトさん達のところへ行ったんですけどね」

「ずいぶん経つんだがこっちには来ないのか?」


とゆーか入院中一回も来たことがない。


「フフ」


俺の発言にリーラが可笑しそうにほほ笑む。


「何が可笑しいんだよ」


別に寂しいわけではないんだぞ?


「いえ、ラキナ様ったらゼロさんに怒られると思って逃げてるんですよ」


なるほどな。

確かになんらかの罰は与えようと思っていたんだが、察しやがったな。


「明日みてろ……」

「ほどほどにしてあげてください。反省はしてますから」


そんなことを話ながら一日が過ぎていく。




そして翌日の早朝


「うし、やっと窮屈から解放された」


退院した俺は久しぶりに道を歩いている。

なんかリーラ達が迎えにくるとか言っていたのだが無視だ。

とりあえず退院祝いってことで旨いもんでも食おうかと思ったが先立つものがないことに気づく。


「とりあえずはギルドに行くか……」


預けている金を下ろしに行くことにしよう。


「あとは……」


そう言って取り出したのはダークプラントの討伐部位。

これを換金することにしよう。

Aランクの魔物のものだ、そこそこするだろ。それで豪華な飯でも食おう。

そう思ってギルドに入って受付に並ぶ列の最後尾に並んだ。


程なくして俺の番が来る。


「本日のご用件は?」

「こいつの換金」


受付の女の前にダークプラントの討伐部位を置く。


「こ、これは……少々お待ち下さい」


討伐部位を見た受付の女はそう言うと奥に行ってしまう。

いったいどうしたというのだろうか。


「お待たせしました」


程なくして女が戻ってくる。


「あちらの扉から中に入ってきて下さい」


そう言って女が指し示したのは受付より中へ入るための扉だ。


「換金しろよ」


なんで中に入ってこいとか言われなければならんのだ。

いつも通りギルドカードを受け取って本人確認をして必要であればポイントを入れて金を渡せば済むことだろうが。


「あの、大切なお話がありますので……」

「ちっ」


なんなんだよ。

めんどくせぇ……

そう思いながら扉の方へと向かい中に入る。


「ようこそいらっしゃいました」


出迎えたのは長い白ひげを生やしたの爺だ。


「誰だ」

「私はボルック。当ギルドでギルド長を勤めております」


そりゃまたお偉いさんが出たもんだ。


「何の用だよ」

「ほっほ、まずはおかけになってください」


そう言ってボルックは俺をソファへと促す。

俺は薦められるままにとりあえず座った。

テーブルを挟んで向かいにボルックが座る。


「まずはお茶でもどうですか?」

「いらん。用件を言え」

「別に用件と言うものでもありません。ただひとつ確認をしたいのですが、あなたのお名前は?」

「……ゼロだ」


呼びつけておいて俺の名前を知らないのか?

馬鹿にしてるんじゃ……


「やはりそうですか。アルヴィス様から聞いておりますよ。なんでもダークプラントを倒したのはあなただとか」


アルヴィスってのはおっさんのことだよな。


「そうだ」


正確に言うと微妙なところではあるが弱点を砕いたのは俺だから間違いではないだろう。


「やはりそうですか。ではギルドカードを渡してもらっていいですか?」

「……ああ」


少し訝しみながらギルドカードを渡す。


「それではこれを握って下さい」


ボルックが取り出したのは本人確認のための白い球。

言われた通りに握る。


「うむ、間違いなく本人ですな。おーい、あれを持ってきてくれ」


ボルックの声にギルド職員のひとりが何かを持ってくる。

それをボルックが受け取ると俺に渡す。


「こちらがこれからのあなたのギルドカードです」


差し出されたのは赤いカード。

これは……


「特例によりあなたのギルドランクはBとなります」

「特例?」

「はい。本来ならありえないのですが、あなたがダークプラントを倒したという事実とSランクであるアルヴィス様の推薦ということで」


なるほど……

おそらくこれがおっさんの言うサプライズなのだろう。

少しだけ驚いたが今までのランクが俺に合っていなかっただけだしな。

いずれは自力でここまで来ていただろう。

まあ、近道できたと思えばいいだろう。


「あと、あなたのパーティーの方もそれぞれひと階級ずつランクアップされます」

「そうか」

「まずはあなたからということでしたので、パーティーの他の方に退院したら一度ギルドに来るように言ってください」

「ああ」

「ではBランクになった特典の説明をさせていただきます」

「そうゆうのがあるんだったな、確か」

「はい、とは言ってもBランクの方はギルド直営の店全店がギルドカード提示で一割引になるぐらいですね」


なんだそのお得な割引券方式。

でも、ギルド直営の店と言えば装備品屋から宿など多岐にわたる。

あって損な物ではないだろう。


「それとこちらを」


そう言ってボルックはテーブルの上に布に包まれた何かをのせる。

開いてみると金板が二十枚はある。

総額二千万R

かなりの高額な金がそこにあった。


「これは?」

「討伐部位の報酬と依頼達成金です」

「依頼達成金?」


魔法植物のか?

いや、あれはリーラが受け取ったはずだ。


「今回のダークプラント討伐は特殊依頼に指定していましたから」

「ほう」


まあ金が入るのはいいことだな。

とりあえず金板を一枚手にとる。


「あとは預金しておいてくれ。あぁ、特殊依頼とやらの報酬は四等分してパーティーの奴に分けてくれ」

「わかりました。そのようにいたしましょう」


ボルックの言葉を聞いて席を立つ。

あとは任せておけば大丈夫だろう。

とりあえずは飯だ。

めちゃくちゃ贅沢できるな。


これはギルドランクアップの物語



ユニコーンを仲間?にすることはほぼ決定事項だったとはいえ名前をかなり迷いました。

レックスかタミオか……

さすがにタミオはネタに走り過ぎであかんやろってことでレックスに

しかし、馬にレックス……合わないかな?

でもこれでいきます。

あとはゼロのランクアップ

なんでAランクの魔物倒しておいてBランクなんだよと思われるかもしれませんが、いきなり三つも上がってること自体が異例ということでご納得ください。


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