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ゼロの男の物語  作者:
30/32

魔法植物採取依頼?の物語5

「……倒せましたの?」

「みたいだね〜」


二人の呆然とした声が聞こえる。

それを合図として膝立ちの状態から崩れ落ちる。

両足の太股を貫かれてるんだ、ある意味限界だ。


〔現在の魔力属性炎 総蓄積魔力量一パーセント未満 フェイズ1へ移行します〕


脳に声が響くと銃の色が紅から元の鉛色に戻った。


「大丈夫〜?」


近くにシャルが近寄って来ていた。

リーラはというと魔法や魔法薬などでオルトの治療を行っていた。

ダークプラントを倒したため、触手が沈黙し安全に作業が行えるようになったようだ。


「俺はまだ大丈夫だ。それよりハゲの方を頼む」


ダークプラントの死骸を指差す。

ぶっちゃけ今すぐにでも治療してもらいたい気分だがハゲの容態の方が心配だ。

魔法弾の爆発はダークプラント本体にはちょっとした熱と爆風くらいしか届いていないだろうが、助けようとした相手が俺のせいで死んでしまっていては寝覚めが悪い。


「わかった〜」


シャルは俺の言葉に頷くと足を引きずりながらダークプラントに近づいていく。

無理させちまったか?

でも俺に比べれば軽傷だし、いいよな?


「あっ!」


そこでリーラが大きな声をあげる。

なんだ?

もしかしてオルトのケガが思ったよりも悪かったとか言うんじゃ……


「ラスカウリですわ!これで依頼達成ですわね」


見れば白い花のついた草を摘んでいる。

そういや、そのために来たんだったな……

オルトの治療は終わったみたいだ。

でも、まだ重傷者である俺がいるわけなのだが、それをほっぽって草摘みとはどうなんだお前。

呆れる他ない。

この時俺はシャルから視線を外していた。

だから見逃していた。

ダークプラントがまだ生きていることを。

そもそも俺はきちんと魔核に銃弾をぶち込んだわけではあるが、ダークプラントの死を確認したわけではない。

まあ、弱点を撃ち抜いたと言うのに生きてるなんて思ってるわけない。

触手も大人しいもんだし、死んだと思っても不思議はない。

ようは俺が、いや、俺達がAランクに名を連ねる魔物を舐めてたってことだ。


「きゃあ〜!」


声のした方に視線を戻せば触手に捕まっているシャル。

いや、捕まってるわけではない。

地面に縫い付けられているのだ。

シャルは仰向けで倒れており、両手両足だけでなく腹部まで触手が貫いている。

一瞬で一番の重傷者になってしまった。

くそっ!なんで俺は目を離したんだ。

しかし、視線を外していなくても何か出来たかといえば疑問が残る。

ただひとつ真実はこのままだとシャルが殺されるかもしれないということと助ける手段がないということだけだ。

せめて時間を稼げればもう一発魔法弾をかましてやることができるのだが、無情にも触手の槍はシャルの胸部へと鋭く突かれる。


「やめろっー!」


銃を構えようとするが体を起こすことが出来ない。

リーラはどうだ?

目だけ動かして様子を見る。

魔法を撃つ体勢にはなっているがまだ魔力を集中している段階だ間に合わない。


クソッ……




その時、

風のような速さで何かが駆けていった。

目に映ったのは白い体の角の生えた馬。

誰かが背中に乗っていた。

そしてその誰かはシャルの胸に迫った触手を間一髪で握る。

誰だあれは?

リーラの突き並、いやそれ以上の速度の触手を掴むなんて離れ業をやってのけるなんてただ者じゃない。


「レディーには優しくするもんだよ」


現れた奴はそんなことを飄々と言った。

この声は聞いたことがある。

そこでやっと俺はそいつの存在をはっきりと認識できた。

肩ほどまである赤い髪に、両目を覆うような眼帯。重厚のある蒼の鎧に身を包み、背にはハルバードを背負う男。

それはいつかの酒場で出会ったおっさんだった。


「まったく、魔核を砕かれてるってのにしぶといねー。散り際は潔く逝くのが正しき雄の姿ってもんだろ。いや、そもそも雄なのか?」


そういいながらおっさんは背中のハルバードを手に取る。


「だけどまあ、おっさんはそうゆう足掻きってのはわりと好意的なのよね。でも、死んだふりして不意打ちってのはダンディじゃないね」


ハルバードを手にしたおっさんはそれを無造作に突く。

俺が砕いた魔核のあったところだ。

眼帯してるのに見えてるのか?


「特にこーんな美人で胸もでかい淑女に対する行為としては下劣だ」


おっさんは突き刺したハルバードをダークプラントに埋め込んでいく。

ダークプラントから低い唸り声のようなものが発せられる。


「あの世で大反省会でも開きなさい」


ハルバードの斧の部分が埋まった所でおっさんがハルバードを振り上げる。

縦に切り裂かれたダークプラントの体内にライル(ハゲ)の姿が見えた。


「おっ、頭を剃ってる青年はっけーん!」


そのままダークプラントの体内にいるライルをハルバードのピックの部分に引っ掛けて引っこ抜いた。


「救出完了〜。おや?」


まだダークプラントは微かに動いている。

あきれた生命力だ。


「このままほっといても死ぬだろうけど、とどめをさしてやるよ。青年がやるかい?」


そこで初めておっさんが俺に視線を向ける。

いや、眼帯をしているので本当にこちらを見ているとは限らない。

それでも俺を見ている気がした。


「見りゃわかるだろ。動くのは億劫だ」

「確かに痛そうだね。おっさんも最近腰が痛くて痛くて……」


左手でポンポンと腰を叩きながらおっさんが言う。

お前の腰痛と一緒にしないでほしい。


「んじゃあ、おっさんがやっちゃうね」


おっさんは腰を落とし、槍を限界まで引く。

そして突いた。

渾身の力をもって放たれたそれはダークプラントの体を貫通し、大きな穴を空けた。


「……すげ」


思わず感嘆の声が漏れる。

俺の目をしても突いたという結果しか見えなかった。

銃弾の軌跡すら追える俺の目でもだ。

恐ろしいまでの高速……いや、神速の突き。

このおっさんはいったい何者なのだろうか。


「いよっし!さすがにこれで生きてたらおっさんヒくわ〜」


おっさんはダークプラントの状態を確認する。


「うん、完全に死んでるね。さてと……」


おっさんはシャルに近づいていく。


「きついな……早く治療しなけりゃ危ない。こっちの頭を剃ってる青年も同様だ。とりあえずこれを飲みなさい」


おっさんは自身の懐から取り出した袋から青い液体の入った小瓶を二つ手に取ると問答無用で二人の口に突っ込む。

強引過ぎないか……


「体力を回復させるだけで治癒効果は薄いものだけど王都までは二人とももつだろう」

「あ、あなたはいったい……」


リーラの疑問も最もだ。

俺だってこいつのことは酒場であった馴れ馴れしいおっさんだということしか知らない。

一体何者なのか?


「おっさん?おっさんのことを知りたいというのか、そこな少女よ!」


おっさんが立ち上がる。

なんか芝居がかってねえか?

つーかリーラに対して大抵の人間は少女という印象は抱かないだろ。


「え、えっと……はい」


流されやがった。


「そうかそうか!だが生憎だがおっさんは名乗るほどの者じゃない…………くーっ!おっさん超かっこいい。とゆーか渋い。ちょーしぶぃ」


渋いおっさんはちょーとか使いません。

なんか色々台なしだ。

と、微かだが後方から何か来る気配を感じる。


「あっ、アルヴィス様ここにいましたか」

「うおっ、ダークプラント倒してる。さすがはアルヴィス様です」

「アルヴィス様すご〜い」


やって来たのは軽鎧に身を包んだ黒髪のチョビ髭中年にローブを纏った青髪の優男。あとは司祭服の取り留めて特徴のない緑の髪の女。

三人とも馬に乗っている。


「こらこら、おっさんがせっかくかっこよくキメた所なのに名前を呼びながら来るんじゃありません。台なしだよ」


すでに自分で台なしにしときながらおっさんは今来た三人注意をする。


「まあそれは置いておいて、スイはこの二人に応急処置を施しなさい。リュックはそこで俯せに倒れてる青年」

「わかりました」

「僕、女の子の方がいいんですけど……」


二人の元に女が向かい、俺の元に優男が馬から降りて近づいてくる。


「んじゃ回復魔法かけますんで動かないで下さい。とは言っても応急処置程度の腕前しかありませんけど」

「ちっ」

「なんで舌打ちするんですか?」

「さっさとやれよ」

「それが人に物を頼む態度なんですか?」

「いいからやれって」

「……アルヴィス様、僕こいつ嫌です」

「そーゆう生き物だと思って諦めなさいな」


なんか馬鹿にされてる気がするような……気のせいか?

おっさんの言葉に優男は俺に回復魔法をかけはじめる。

俺はその魔法が銃に触れないように注意しながらそれを受ける。

吸収されちゃたまらんしな。

思い出したと言っても銃の基本的な使い方といくつかの属性の魔法弾の効力くらいだ。

魔力を吸収すれば属性は上書きされる。

何かわからないものになるよりも今の方が楽だ。


程なくして優男の処置が終わる。

最初に言われた通りのあくまで出血しないように穴を塞いだだけの簡単な物で、まだ痛みがかなりある。

早く病院に行くべきなのだろう。


「んじゃ、怪我人つれてグランネイドルに戻りますか」


ダークプラントのそばで何かをしていたおっさんが声をかけると各々が準備を始める。


【女の子はワイが運んだる。さあ、その魅惑の尻をワイの背中に乗せるんや】


そういえばおっさんを運んできたのはコイツだったな。


「ラキナ達はどうした?」

【このおっちゃんらのお仲間に任せて来ましたわ】

「そうか」


ならいい。

俺達はそれぞれ馬に乗せられる。

ユニコーンにはおっさんとリーラ、シャルが、司祭服の女はオルトと、チョビ髭はハゲ、そして俺は優男の馬に乗っけられている。

乗っているのではなくて乗っけられているというのはあたかも荷物のように積まれているからに他ならない。

他の奴らは落ちないように工夫されたり抱き抱えられたりしているというのにあまりに無造作だ。

まあ、優男に抱き抱えられるなんて死んでも嫌なので文句などはない。


「おっ、忘れるとこだった」


そういっておっさんは俺に近づいてくる。

なんかユニコーンの顔が露骨に嫌そうだ。


【そりゃ、乙女たちやのうてこない加齢臭のするおっちゃんをまた乗せなあかんのですから、当たり前や】


なるほど。つーか心を読むなって。


「ほれっ」


そういっておっさんに投げて渡されたのは手の平に収まるほどの大きさの花の蕾のようなものだ。

とは言ってもその材質は宝石のように輝いており、また、額の部分は硬い。だというのに蕾の部分は絹のように滑らかで柔らかい。

なんとも不思議な物だった。


「なんだこれは」

「ダークプラントの討伐部位」


俺の疑問におっさんが即答する。


「なっ……!なぜ、こいつにそれを?」


先に反応したのは優男の方だった。


「なぜってそりゃ、ダークプラントを倒したのはおっさんじゃなくてその青年だからに決まってんでしょ」

「え……」


驚いた様子で俺を見る優男。

だけど俺にはおっさんの言葉で受け入れられないことがあった。


「倒したのはあんただろ?」

「違う違う。魔核を砕いた以上あいつは死んだも同然だった。あれはただの悪あがき。おっさんがしたのは美女を助けたことプラス妹思いの青年の救出だけさ。倒したのは青年」


だけどもとどめはおっさんなわけで……

でも、おっさんの言葉が本当ならばおっさんの言うこともその通りであることも否めない。


「とりあえず貰っとく」

「そうそう、若者が遠慮しないの!前に言ったろ?年長者の好意は余計だと感じつつも受けるもんだって」


とは言ってもおっさんが来たことで助かったのもまた事実だ。

いずれなんらかの形で礼をするのが礼儀というものだろう……シャルがな。





その後王都の病院に運ばれた俺らはリーラ以外は全員入院と相成った。

まあ、死人が出なかっただけ良かったな。

それにしてもこの銃、色々と確かめなきゃならんかもな。

あと、依頼の方はちゃんとリーラが報告をすませ、依頼達成となったみたいだ。


これは依頼以外のことが大きすぎた魔法植物採取依頼?の物語



とりあえず魔法植物採取依頼?の物語は終わりです。

前話後書きにて言った魔法弾ですが出てきていない属性の物ならばいつでも歓迎しますのでどうかよろしくお願いします。


とりあえず色々と消化してから王都編を終えたいと思います。


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