魔法植物採取依頼?の物語4
「加勢するって言っても、どうするおつもりですの?」
後ろからついて来たリーラが疑問の声をあげる。
「どうするって、あの植物を殺す」
簡潔に答えてやる。
「殺すって〜、ダークプラントを〜?」
「ああ」
シャルも疑問を投げ掛けてくるがそれも簡潔に返す。
「そんなの無理ですわっ!今の私達に勝てる相手とは思えません」
リーラの言葉を黙殺する。
勝てる可能性が低いのは理解している。
だが、ハゲを助けるには一番手っ取り早い。
……つーか殺すって決めたらテンション上がっちまって、もはやそれ以外の選択肢が浮かばない。
「……どうでもいいことかもしれないけど〜、オルちゃん追い越しちゃったよ〜?」
「うそ?」
振り返ると結構後ろにオルトがいる。
見るからに死にそうだ。
あの無表情がここまでってくらい……
足を止めてオルトを待つ。
やっと追いついたオルトは肩で息をしており、何十キロ走ったんだお前?な様子である。
「体力ないな」
「…………全部兄が奪た」
……ああ、あいつの身体能力だけは凄そうだもんな。
そのかわりに大事な何かを落としてきたんだろう。
それをオルトが回収したかは置いておいて。
「で?殺すってどうやるんですの?まさか、ノープランで突っ込むわけにもいきませんでしょ」
「なせばなるとか?」
「ならないよ〜」
「馬鹿かお前ら。とりあえず殺ると決めたことが重要なんだ。他ならない俺の決断だぞ?結果なんて後から付いてくんだよ」
「それとノープランは別です」
「たしかにね〜、オルちゃんは何かいいアイデアある〜?」
「…………オルトは兄を助けられればそれでいい」
オルトの眼には強い決意の色が浮かんでいる。
普段は冷たくしていてもやはりハゲのことは兄として思っているみたいだ。
「あれに弱点とかはないのか?」
ダメもとで聞いてみる。
そんな都合のいいものは……
「ありますわ」
あるのか……
いや、好都合だ。なら、そこを攻めるだけだ。
「魔物には魔核と呼ばれる力の源とも言えるものがあります。Bランク以上ともなれば視認することも可能です。そこが最大の弱点と言えるものです」
「とは言っても〜、当然相手もそこを重点的に守ってくるはず〜」
「当然のことですわ。だから私とオルトさんの魔法でダメージを与えて弱らせます。ダークプラントの属性は闇ですから光の魔法に弱いはずなのですが、あいにく私は使えませんから、次点で炎による攻撃を仕掛けますわ。あるいは届くかもしれません」
ダークプラントの方を見る。
巨大な花の蕾のような姿をした魔物の体の中央付近に一箇所だけ不自然に赤い部分が見える。
とは言っても大きさからいって1センチ四方あるかどうかくらいの大きさしかない。
普通ならこの距離では見えないだろう。
だが俺は見える。
それこそが真実。
とゆーか前に似たようなのを見たような……
忘れた。
つまりはどうでもいいことだろう。
つーか見えてるってことはチャンスじゃねーか?
俺はとりあえず赤い部分を撃った。
当たるという確信はあった。
なぜなら俺は狙った箇所を外したことはないからだ。
だがしかし狙った箇所を外したことはなくとも当たらなかったことはある。
それは相手が防いだ場合だ。
ダークプラントはその触手を器用に動かし俺の銃弾を防ぐ。
ちっ、オルトの魔法で大人しくなってたと思ったのにな。
それまで活動を静止していたダークプラントがまた動き出す。
オルトに焼かれた触手も再生しており、こちらに向かってきている。
「まだ、作戦会議の途中でしょうに。なんでこう人の話を聞かないんですか!」
「敵の目の前で作戦会議なんかやる奴の気がしれない」
「ちゃんと視界から隠れてたよ〜」
だとしても賽は投げられた時間というのは巻き戻したりできない。
あとはもう殺るだけだ。
「ああもう、先程言った通りに動きますわよ」
「りょうかい〜」
「…………おけ」
全員が武器を構える。
まあ、オルトは持ってないが、細かいことはいい。
リーラの手からは炎が生まれ、オルトの手からは光が溢れ出す。
二人が集中している間、それを触手たちから守るのはシャルだ。
鞭を振るい触手を一切近づけない。
間もなく二人の手の平に各々球を作り出す。
現代魔法、炎と光の二階級。
それがほぼ同時に放たれる。
俺とは違い、弱点が見えていないのだろう。放たれたそれらは魔核らしきもののある場所ではなく、それぞれ別の場所に向かって進む。しかしどちらも本体に当たるのは間違いなかった。
防がれなかったらの話だが。
「なっ……」
魔法ひとつに触手一本を犠牲にすることでダークプラントは二人の魔法を防ぐ。
「ちっ、おいオルト。さっき見たいに三階級の魔法でとばーっとやれよ。あれは空間を指定してやるんだから触手で防ぐなんて芸当できねーだろ」
「…………だめ」
「なんでだよ?」
「…………兄も巻き込まれる」
確かにあれは凄い威力だった。
下手すれば食われてるであろうハゲすら焼いてしまっているほどに。
知らずに放ったとはいえ、オルトにしてみれば兄を自分の手で仕留めてしまったかもしれないのだ。
それに生きていると仮定するならば追い打ちをかけるような真似をするのはそれこそ無理だろう。
つまり、ちまちまやらないとだめってことか……
俺の都合ではあるが兄を犠牲にして放てって言ってみるか?
いやいや無理無理。
それは空気読めない子ですから。
ん?でもダークプラントを殺すって言った時点で空気読めてないのか?
違う。
オルトの気持ちを汲んだんだ。
まあ、俺の気持ちも結構入ってるが。
ハゲを見捨ててもらうのは最後の最後だ。
牽制のために一発銃を撃つが動じることもなく触手に阻まれる。
あれ、邪魔だな。
と思ったその時、ダークプラントの触手が増える。
その数、一、二、三……襲われて数える暇がない。
とにかくたくさんだ。
およそ百としとこう。
当然シャル一人で捌けるものではない。
「くっ……しまった〜っ!」
何本も自身の後ろへの進入を許してしまう。
「きゃあっ」
リーラは弾き飛ばされ、
「…………う」
オルトは捕まってしまう。
「ちっ」
オルトを捕まえる触手に向かって撃つ。
三本あるからひとつにつき、一発。
それでオルトの拘束は解けた。
俺はそれを確認せず、その場から離れる。
銃から空の薬莢を捨て、リロードをする。
「こっちだ、ボケ!」
大声を張り上げる。
これでこっちに注意を払ってくれれば重畳。
だが現実はそううまくいくものではない。
触手の幾本かはこちらに向かってくるが大半は女共だ。
でも、それならそれでいい。
ダークプラントの弱点に向けて撃つ。
それは簡単に防がれてしまうが、それによって奴は俺を1番危険とみなしたらしい。
半分以上の触手が俺に向かってくる。
ちらりとリーラ達を見る。
リーラはすでに起き上がってレイピアを抜いている。そしてシャルと共にオルトを触手から守っていた。
あいつの剣は斬ることではなく突くことに特化しているものだから触手相手では相性が悪そうだ。
目が合う。
視線が今、援護しに行きますとでも言いたげだが、まあ無理だろう。
幾分かの劣勢の中の膠着状態が続いた。
しかし、
事態は急激に変わる。
触手の先が鋭く尖ったのだ。
ヤバい……
あんなのに当たったら痛いで済まない。
俺は何もずっとヒラリと軽やかに触手の攻撃をかわしているわけではない。
何度か棒で突かれたような衝撃をこの身に受けながら進んでいるに過ぎない。
そう、触手の攻撃は当たっているのだ。
左足に激痛が走る。
見れば太股が貫かれている。
洒落になってない。
さすがはAランクの魔物。
魔物ごときにこうも危機感を覚えたのは初めてだ。
続いて左腕にも激痛が走る。
おいおい、やっとこさ完治したんですけど……
右足もダークプラントの触手が貫く。
一思いに殺さないのは俺を嬲っているのか、はたまたこいつは人間の踊り食いが好きなのか。
さらに一つの触手が俺の右腕に狙いを定めているのが見える。
前方から触手が迫る。
「右腕だけはやらせねえよ」
激痛を無視して左の手の平で受け止めた。
当然、手の平に穴が空いた。
「ゼロさんっ!」
「ゼーちゃんっ!」
叫びのような悲鳴のようなそんな声が聞こえた。
首を動かして声の方に目を向けると、傷だらけの三人が見えた。
所々自身のものであろう血に汚れ、リーラは左腕が不自然にダラリとし、シャルは右足を庇っている。
オルトも外傷こそ目立っていないが顔色が悪く、額には玉の汗が浮かんでいる。
これは魔導師の陥る魔力の損耗による疲労だと聞いたことがある。
それでもなお、オルトは魔法を放つ。
そしてこちらに目を向けると光球を生み出す。
いや……光球は消えた。
魔力切れ?
違う。
次が来るのだ。
どこに?
まさか……
「オルトっ!それでいいのかよ!?」
口から出たのはなぜか否定的な言葉。
確かに劣勢だ。
いや、正直ヤバい。
でも、だからってハゲを殺してしまってもいいのかよ!?
まだ大丈夫なはずだ。
誰も死にかけてないし、俺の右腕も問題ない。
諦めるには早いはずだ。
「…………問題ない」
小さくだが確かに聞こえた。
「…………オルトはまだ諦めてない」
その言葉と共に放たれた魔法。
現代魔法光の三階級。
それが俺の目の前……いや、
周りで発現した。
「おいっ〜!」
なにこれ?
周り光っててよく見えないんだけど!
と、俺を刺し貫いていた触手の根本が
俺に追撃をかけようとじわじわ迫っていた別の触手たちが消えた。
光が消えた時には俺の周りに触手の姿はなかった。
「…………ゼロがあれ殺すから問題なし」
そうオルトが言った瞬間。
背後からオルトが触手に刺し貫かれる。
場所は腹部。
空気が止まった。
「オルトっ!」
「くっ、このっ!」
すぐさまリーラがその触手を断ち切る。
「大丈夫ですっ!致命傷ではありません」
傷を見て大きく声を張り上げて言うリーラの言葉に安堵した。
だが触手の数は減らない。
今もシャルが一人で捌いている。
俺はいつでもどうとでも出来ると思われているのかダークプラントは無視している。
「このっ……おい、ハゲっ!お前の愛しの妹が大変なことになってんだぞ。お前なにしてんだよっ!」
ダークプラントに向けて怒鳴る。
いや、正確にはダークプラントの中にだ。
その瞬間
ダークプラントの体から何かが出てきた。
ちょうどダークプラントの体の中心の辺り。
よく見ればそれは人の指だ。
それがどんどん出てくるとそのまま穴をこじ開けた。
見えたのは怒気に染まったブラウンの瞳。
間違いなくあいつだ。
「あぁぁあ……オ、ル、ト……」
ハッキリとは言葉を発せないらしい。
死ぬんじゃねえか?
だがまあ……
しぶといな。
それでこそ俺を追い詰めただけあるってことだ。
やはりまだ、お前が俺の戦った中では1番だ。
自然と腕に力が篭る。
そうだ、お前に比べればこいつごときなんでもねえ!
〔仕手の魔力を確認 現在の魔力属性炎 総蓄積魔力量三パーセント フェイズ2への移行不可〕
何かが聞こえた。
これは前に聞いたことがある。
脳髄に響く感じはユニコーンと同じだがこちらはなんか無機質な感じがする。
〔現在の魔力属性炎 総蓄積魔力量四パーセント フェイズ2への移行不可〕
また聞こえた。
なんだこれは……いや、なんだではない。
分かる。
これはお前なのか相棒。
視線を銃に移す。
鉛色の装飾銃。
俺の意識が目覚めてからずっと共にあった存在。
ユニコーンは言った。
この銃には加護があると
オルトは教えてくれた。
この銃にある加護を
何と言った。
不壊
壊れないのはいいことだ。
幸運プラス
運ってのは重要なファクターではある。
魔力吸収
そう、魔力吸収。
リーラの魔法を掻き消した、加護。
しかし、消したのではない。
オルトの話を信じるならば吸収したのだ。
どこに?
こいつは言った。
総蓄積魔力量と
つまりはこの銃は魔力を溜めることができるんだ。
だが、遅い。
いくら溜めればいいのか知らんがこれでは全滅の恐れかある。
ならばどうする?
簡単だ。
また、この身に魔法を撃たせればいい。
「リーラっ!俺に向かって魔法を撃てっ!」
「えっ?何を言ってますの!?」
「いいから撃て」
「……回復魔法ですか?それなら近づかなければ」
「そっから撃てる最速最強のものだ」
「ええっ……自殺願望ですか?」
うっせえなこいつ……
いや、そういえばリーラ達は銃の加護のこと知らないんだったな。
それならば仕方ねえのか?
ってそんなこと考えてる場合じゃねえ。
「いいからやれよ。早くしねーとお前の私物適当に売っぱらうぞ!」
男共の視線や思考を考えればよく売れることだろう。
……とっさに言ったがいい商売になるかも
「イマイチ意味がわかりませんが、死んでも怨まないで成仏してください」
リーラが手に魔力を込める。
それは炎となり、次に塊となる。
それが俺に向かって放たれる。
ダークプラントにそれを防ぐ義理はない。
球は真っ直ぐ俺に向かってくる。
俺はそれを銃で受け止めた。
〔魔法による吸収を確認 現在の魔力属性炎 総蓄積魔力量十三パーセント フェイズ2への移行可能〕
なんかわからんがフェイズ2とやらに移行可能となった。
…………でどうすればいいんだ?
ヤベー、百パーセントまでいかないといけないのか?
でもなんかが可能になってるわけで
どうすればいいんだ!?
誰か教えてくれ
―その銃はきっと、人類の切り札だね―
懐かしい誰かの声が聞こえた気がした。
この世で一番嫌いで
一番好きで
一番信頼できる声
そしてその声の終わりと同時に理解した。
いや、そうじゃない。
思い出したんだ。
この銃の使い方を
「フェイズ2移行」
〔仕手の認証を確認 フェイズ2へ移行します〕
手にする銃が光を発する。
それが収まると手の中の銃はその色を紅く染め上げていた。
〔フェイズ2への移行完了 弾丸の魔法弾への変換完了 現在の魔力属性炎 残り魔法弾数1〕
充分だ。
現在ダークプラントの触手はほとんどリーラ達に向けられている。
しかし自身の守りのためなのか十本ほどはそばに置いている。
でも関係ない。
これでお前はおしまいだ。
「死ね」
銃を撃つ。
放たれたのは魔力の付加された魔法の弾丸。
ただこれでは足りない。
少し遅れてもう一発撃つ。
放たれた二発の弾丸がダークプラントに迫る。
狙ったのはやはりダークプラントの魔核。
弱点を狙うのは戦いにおける常道。容赦なんかしない。
ダークプラントの反応は迅速だった。
十本の触手でもって銃弾の進路を塞ぐ。
しかし、最初の弾丸は着弾すると同時に爆発を起こした。
これこそが魔力礼装・爆炎弾の効力。
爆発により、触手がちぎれ飛ぶ。
普通の弾丸ですら一発で壊せる触手ごときたった十本束になったところで魔法弾は防げない。
だが着弾した以上弾丸の役目はそこでおしまいだ。
だからこそもう一発撃ったのだ。
その弾丸は爆発の影響を受けないように計算して撃った我ながらにしてえらく満足できる出来だった。
爆発の後を抜けダークプラントの本体、その弱点の魔核へと向かう。
ダークプラントに抗う術はなかった。
俺の弾丸が魔核にきっちりと当たったのを確認して俺はほくそ笑んだ。
そういえばハゲは無事だろうか?
これは魔法植物採取依頼?の物語
魔法植物採取依頼?の物語完結できませんでした。
次回で完結させます。
それでその後何話か挟んで王都編はおしまいです。
んでは本文について触れたいと思います。
いやー、何と言うかいつにも増してくどい感じがします。
まあ、私の味ってことでなにとぞ。
んで、色々ツッコミたくなる部分があるかもですが批判などは甘んじて受け入れます。
ところで魔法弾。
今回は炎ですが他にも考えてあります。
とゆーか現代魔法の属性は回復魔法以外は考えてるんですがこうゆう属性はどう?とかこんな効力はどう?みたいなのがありましたら意見下さい。もしかしたら使わせていただくやも知れませぬ……
あくまで強制ではなく、あったらですのでなければ無視して下さい。
ちなみに一属性にひとつの効力にしますので炎以外でお願いします。