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ゼロの男の物語  作者:
26/32

魔法植物採取依頼?の物語1


リーラ達がケガをして病院に担ぎ込まれたと聞いて幾分か時間が経っているが俺は未だに宿にいる。

いや、それどころか併設された食堂にて軽い食事と酒を注文して今まさに食べているところだ。

オルトやラキナは女店主に何処の病院に担ぎ込まれたのか聞いてすぐに出ていった。

俺はと言うと若干動揺っぽいものを感じはしたが、自分の今のこの落ち着きようから考えれば心の底から別段気にしていないみたいだ。ま、最悪死んでなきゃいいや……


「貧乏揺すりやめな」


女店主が俺に声をかけてくる。

無意識にひざのあたりが小刻みに揺り動いていたみたいだ。


「そんなに気になるならあんたも病院にいきゃあいいじゃないか」

「別に気になってねえよ。それよりも味付け薄いぞ」


朝と同じ料理を食っているのだが味が感じられない。塩をちゃんと使ってんのか?

むしろこれを作った奴はクビにすべきだな。


「薄いもなにもあたしゃいつも通りちゃーんと作ったよ」

「お前が作ったのか。馬鹿が……味見くらいはしろ」

「いや、したから。三回くらいしたから」


なぜ三回も味見を……

もはやつまみ食いの範疇ではないか。


「平静を装ってはいても、やっぱ内心はめちゃくちゃ動揺してんだねぇ……」


私わかってます的な声音で話す女店主。

俺が動揺?

それは少し認める。

でもそれは話を聞いた当初のみだ。もう治まっている。


「いきおくれすぎてボケたか、ババア」

「いきおくれるもなにもあたしゃ結婚28年目で普段から旦那とはラブラブだよ」


すっげーどうでもいいことだ。


「おっ、帰ってきたみたいだね」


なにっ!?

顔を上げて入り口付近を見るが入ってきたのは醜悪な面の三流戦士と同じく顔の作りの残念な女で、全然知らない奴だ。


「やっぱり気にしてるじゃないか」

「ハメやがったな……」

「ハメるもなにもあいつらはうちに宿泊しているお客さんだよ。だから帰ってきたという表現は間違っちゃいないさ。それにいつあたしがあんたのお仲間が帰ってきたって言ったんだい?」


ナメた真似してくれやがる。

こうやって人の揚げ足を取るような輩はろくな死に方しないでほしい。

むしろ俺が執行者となるか?


「今度は本当に帰ってきたよ」


三度目の正直と言うから二度目の今回は無視だ。

何度も騙されてやるほど俺はお人よしではない。

味のしない料理を口に運ぶ。


「……心配するそぶりもなく食事してるなんてあんまりよ〜」

「ちょっと神経を疑いますわね」


声のした方に目を向けると所々に包帯を巻くなどの治療跡のあるリーラとシャルが立っていた。

リーラは呆れるような目を俺に向け、シャルは半泣きで俺を見ている。

つーか元気そうだな……


「大した事なかったみたいじゃねーか」

「ええ、話がちょっと大袈裟になったみたいですけど別に死にかけるほどの大怪我をしたわけではありませんわ」

「でもでも〜、オルちゃん達は息を切らしながら駆け付けてくれたのにゼーちゃんひどい〜」

「なんだ?お前らのケガごときで俺が取り乱すことを期待してたのか?」


この俺がリーラ達のことをそんなに気にするわけが……


「こんな風に言ってるけど結構あんたらのこと気にしてたんだよ?カッコつけてイキがってるけどさ」


……ババア。

根も葉も無いこと言いやがって!

俺のどこがカッコつけてイキがってるんだよ!


「さっさと消えろ」

「あははははっ!少しは素直になりな!そうすりゃもうちょっとモテるよ」


そう言い残すとババアは仕事に戻っていった。


「ふ〜ん、気にしてましたの?」

「ゼーちゃん……やっぱりお姉ちゃんのことを!」


ニヤニヤしながら俺を見るリーラと抱き着いてくるシャル。

なんかどう言おうと本当は心配してたけど素直になれない男が言い訳している構図にしかならないなコレは……


「んで?確かお前ら今日は仕事してたんだろ?なんかあったのか?」

「…………話題のすり替え」

「すり替えたのじゃ!」


うるせーよ。

すり替えたのではなく本題に入ったんだ。


「単刀直入に言えば今回の依頼は失敗してしまいましたわ」


なんだと?

リーラとシャルはひいき目に見てもそこそこの実力をもつ冒険者で無理な依頼を受けるとも思い難い。

一体何が……


「どんな依頼なのじゃ?」

「依頼自体は魔法植物の採取で簡単なものなのよ〜。ただ……」

「ただ?」

「その魔法植物の群生地に強力な魔物がいましたの」

「どんな魔物だ?」

「あれはおそらくダークプラント……木々を司るAランクの魔物ですわ」


Aランクの魔物だと!?

そりゃまた大物のご登場だな。


「そいつに襲われてケガをしたわけだ」

「さすがにAランクの魔物相手にシャルさんと二人きりで勝てるとも思いませんでしたので……」


なるほどね。


「でも、ゼロさん達も加われば依頼をこなすこと自体は可能です」

「は?依頼は失敗したんだろ?」

「いいえ!便宜上さっきはそう言いましたが、本当の意味で依頼は失敗していません。なぜなら期限はあと三日あります。その間に魔法植物の採取を出来れば問題ありませんわ」


なんか熱弁しだしたぞ。


「依頼失敗のペナルティはご存知ですわよね」

「ああ」


10ポイントの減点と報酬の一割程度の罰金だが、俺には関係ない話だ。

自分達の力で乗り切ってほしいものだ。


「自分は関係ないような顔をしていますが、依頼失敗の際はゼロさんのポイントも減点されますわよ」

「なんでだよ」

「パーティー依頼ですもの。連帯責任ですわ」


はあ?依頼を受けたのはリーラとシャルだろうが!


「パーティー依頼は受けたときに原則としてパーティー登録をしている全員が受諾したことになります。ですからゼロさんもこの依頼を受けていることになります」


そんな規則だったけな……

完全にとばっちりじゃねえかよ。


「ゼロさんのケガも完治したことですし、ご協力お願いします。オルトさんも巻き添えにしてしまいましたわね、ごめんなさい」

「…………いい」


俺への謝罪はないわけだ。

もっとボロクソにやられればよかったのに……


「と言うわけで今日はゆっくり休んで明日の早朝から依頼達成のために魔法植物の採取に向かいましょう」

「おいおい、ダークプラントとやらはどーすんだよ?」


すっげー重要なことじゃねえのか?


「基本方針は逃げることにします」

「戦わねーのか?」

「う〜ん……勝てる見込みは薄いかな〜。Aランクの魔物は町ひとつ簡単に滅ぼしちゃうからね〜。ギルドに報告したから近いうちに討伐隊が組まれるよ〜」


確かに王都ならば人材も集まるだろうし、わざわざ戦う必要もないな。

だからと言ってその魔物が討伐されないうちにテリトリーに向かうのもどうかと思うが……


「よくわからんが大変だということなのじゃな!わらわも行くぞ!」

「ダメです」

「ダメよ〜」

「…………ダメ」


ラキナの提案というか思いつきは即座に却下される。

メイドが沈黙を保っているのは何故なのだろうか。

まあ、ラキナがついてきても足手まといになるだけだしな。

明日は王都へ留守番してもらおう。


「いやじゃいやじゃいやじゃ!わらわも行くんじゃ!」

「わがまま言わないで下さいませ。一国のお姫様を危険なところに連れていくことは無理だということを分かってください」

「むぅ〜〜……」


不服そうなラキナは置いておいて他の面々も席について食事を注文する。

俺も追加で注文をした。

いつのまにやら食事の味が元通りになっているしな。




明けて翌朝の早朝。

装備を整えて俺とリーラ、シャル、オルトの四人は宿の前に集まっていた。

いやぁ〜眠い。

最近は自然に目が覚めるまで寝てたからこんなに早く起きるのなんて久しぶりのことだ。


今回初めて一緒に仕事をすることになるオルトの恰好をみる。

紺色のローブを着たいかにも魔導師然とした姿になんか分厚い本を持っている。


「読書なら戻ってからしろよ」

「…………これは魔導書」


魔導書?

なんだそりゃ……


「すごく珍しいものをお持ちになられていますのね」

「知ってるなら魔導書がどういうものなのか俺に説明しろ」


オルトの答えにリーラが反応する。

オルトだときちんと説明してくれるか不安だから困った時の説明係であるリーラに聞く。


「魔導書はその名の通り魔導に関する書ですわ。いくつもの古代魔法が書かれているもので複製不可のすっごくレアな代物ですわ……うらやましい」


よくわかんねーんだけどとにかく凄い物なんだな。

ん?でも……


「書かれている古代魔法を暗記したらいらねえだろソレ」

「…………無理」

「なんでだよ」

「古代魔法は魔法陣の構成式が複雑な物が多いんです。ですからこのように魔導書による補助が必要になるんです」


つまりはカンニングペーパーみたいなものか……


「我が愛しき天使の実力をもってしてもきちんと習得できた古代魔法は8つだからな。それでもすげーんだからな?」


魔導師の事情なんて知ったことではない。

俺は魔法を使うセンスがないのだから。

まあ、すげーならそれでいいんじゃね?


「つーかハゲ、お前おとなしく寝てろ。一応は怪我人なんだからな」


相変わらずのはいつくばった姿勢のハゲに声をかける。


「何を言う!妹が危険なお仕事に赴くというのにおめおめと寝てなどいられるか!あとハゲじゃないから」

「…………寝てろ」

「了解さ。お休みマイスイートエンジェル……気をつけて行くんだよ?」


オルトのいうことだけはちゃんと聞くんだよな。


「…………ついてくんなよ?」

「ギクッ…お、お兄ちゃんは別におとなしく寝たふりをしてあとあとついていくつもりはこれっぽっちもないよ!」


ついてくる気だったのか……

まあハゲなら当然の選択といったところか。


「オルトさんもライルさんを心配してこう言っているのですからおとなしくしていてくださいな」

「そうそう〜、オルちゃんにはケガのないように注意をするから〜」

「絶対だぞ?親友もオルトの命だけは守ってくれ!それ以外の奴らの命はどうなってもいいから。あとこれも重要なことなんだがオルトになるべく触れないようにな」


なんて自己中心的……いや、オルト中心的な発言だ。


「…………黙て消えろ」


その言葉とともにオルトはハゲに唾を吐く。


「ありがとうございます!」


へ?ありがとうって言ったのかコイツ……唾を吐かれてありがとうって……変態も変態、ど変態じゃねえかよ。


「気持ちわりぃよお前……」


格別のキモさだ。

視界に入れないようにしよう。


「さて、出発すっか」

「え、ええ……そうですわね」

「ゼーちゃん、手繋ごっか〜」


俺と同じように二人もハゲを視界に入れないようにしている。

ちなみにガキじゃねえんだから手なんか繋ぐわけないだろ。


ハゲを無視して歩いて王都の入り口である門まで来た。ここから二時間ほどのところに目指すべき場所がある。

ずいぶんとまた近い。

俺達は目的地の森へと進む。


しかし、その後ろを少女と目を引く恰好をした女。

そして若くしてハゲている男の三人がついてきていることは今のところ気づいていなかった。


これは魔法植物採取依頼?の物語の一幕



魔法植物採取依頼?の物語は3〜4話くらいの予定です。


あともう少しで王都編も終わりかなぁ……

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