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ゼロの男の物語  作者:
23/32

取り調べの物語

視点は騎士団団長です。


<ゼロへの騎士襲来三日前>


「うはははは!それでどうなったのじゃ?」


少女の快活な笑いが周囲に響き渡る。

その声は透き通るように私の体の中に入っていく。

しかしここは騎士団総本部の団長室で、本来ならこの声の持ち主はここにいてはいけない人物だ。


「それで、その男は男達をちぎっては投げちぎっては投げる。そして動けなくなった男達の爪を剥ぐ!」

「ひいっ……」

「その度に悪魔の笑い声が大きくなっていくんです。」

「ホントに悪魔じゃ……」


騎士団副団長であるヴァン=テンホーが少女に聞かせているのは巷を騒がせている男の武勇伝というか起こした騒ぎの話。

あまりに非道でありながら倒したのはこの王都グランネイドルでも評判が悪く、悪どい商売を行っていたやつらだった……

それに男は我々騎士が駆け付ける前に姿を消すためなかなか捕まえることができなかった。

まあ、捕まえる気があまりないというのが現状ではある。

今のところは我が国に損害を与えるようなことはしていないどころか害虫を駆除してくれたのだ。


「その白の悪魔はどんな人物なんじゃろうな?」

「きっと人間の内臓が好物なんでしょうね。」

「…………」

「……冗談です、多分。」

「ど、どっちじゃ?いや、べ、別に怖いわけではないのじゃ。」

「そこまでにしておきなさい。姫様もご自分のお部屋にお戻り下さい。」


少女、このグレイセス王国の第三王女ラキナ=グレイセス=グランネイドル様が怯えだした時点で話はおしまい。これが最近の日常になりつつある。

怯えるのにも関わらず姫様は件の男、白の悪魔と呼ばれる男の話に夢中だ。

毎日姫様がここへと足を運ぶのは新情報は必ずここへと集まるからだ。


「うーむ……一度そやつに会ってみたいのぅ。」

「えっ……白の悪魔にですか?」

「そうじゃ!」


だが今日に限って姫様の話は止まらない。


「なりません。」


思わずきつい言い方になってしまった。


「どうしてじゃ?」

「危険だからです。」

「お主がついていれば問題なかろ?」


まったくどうしてこう、王侯貴族というものはわがままなのか……

でも自分の言ったことになんの疑いも持っていない純真無垢な瞳で見つめられると、自分に対する信頼が感じられ誇らしい気分になる。


「わかりました。かの男を適当な罪でも着せてしょっぴきます。」

「冤罪はいかんじゃろ……」

「とんでもないです。見逃していただけで白の悪魔にはいくつもの罪があります。」


被害届こそ出ていないが傷害とか傷害とか傷害とか……

ん?傷害しかないな。

まあ、それでもしょっぴくための罪としては充分か。


「団長!港湾区中央公園噴水広場で騒動が起こりました!」


一人の騎士が部屋に駆け込んでくる。


「どんな騒動だ?」

「喧嘩です。」

「そんな小さな案件はお前達で処理しろ!いちいち団長室まできて報告する必要はない!」


ヴァンの意見ももっともだ。

喧嘩なんて毎日町のどこかで行われている。

喧嘩両成敗で両者を一晩拘置所に入れておけば済む話だ。


「そ、それが喧嘩している一方は白い髪で銃を使っていると……」

「白の悪魔か!?」

「……おそらく。」


噂をすればなんとやらか……

しかし都合がいい。

これで現行犯として捕まえることができる。


「ヴァン。騎士一個小隊を率いて騒動を鎮圧し、白の悪魔を捕らえてこい。」

「はっ。」

「お〜〜!白の悪魔とやらに会えるのじゃな!」


黒い鎧に身を包んだヴァンが部屋から出ていく。

そしてそれを見て姫様がはしゃいでいる。

なんでそこまで会いたがっているのかわからないが姫様の願いを叶えてやるのもまた騎士の仕事だ。





「既にいなかっただと?」


帰還してきたヴァンから報告を聞いて唖然とする。


「はい。我々が駆け付けた時には既に騒動は静まっており、戦いのあととして石畳が壊れていることが確認できたのみです。白の悪魔のその後の動向は相手と共に近くの病院に行ったらしいのですが、既に病院から去ったあとでした。」

「喧嘩の相手もか?」

「いえ、そちらは重傷らしく眠ったままです。一応見張らせています。」

「そうか……とりあえず相手が目覚めたら事情を聞いて被害届を……」

「ご報告します!」


私の話の途中で慌てた様子の騎士が駆け込んでくる。


「お前は病院で張り込みをさせていたはずだ。一体どうした?」

「それが……白の悪魔の喧嘩の相手の男が忽然と消えてしまいました。」


……うまくいかないものだな。



<騎士襲来二日前>


調べによれば白の悪魔の喧嘩相手の男はライル=シリアと言う名でなんとギルドランクBの手練れだ。

そいつを倒した白の悪魔の実力は相当だろう。

ライルが消えたのには驚いたが彼は王都に住居を構えているから見つけだすのは用意だと思っていたのだが……


「帰ってこない?」

「はい。」


一向に帰ってくる気配がないのだ。

さて、どうするべきか……


「白の悪魔の所在は掴めているのか?」

「目下捜索中ですが、じきに見つかります。」


だとしても王都は広大だ。

港湾区のみに絞ったとしてももう少しかかるだろう。

さて、どうやって白の悪魔を引っ張るか……


「そういえば港湾区の中央公園の石畳が破損していたな。」

「はい。」

「じゃあ器物損壊で引っ張ってくるか。」

「少し弱いです。」

「ならばライル=シリアの殺人未遂もつけよう。」

「被害届は出ていませんが?」

「目撃者多数だからどうとでもなる。」


ライルを押さえることができなかったのはちょっと痛いが問題はない。


「ヴァン。白の悪魔の所在が掴め次第。連行してこい。」

「了解しました。」


これで理由はできた。

姫様喜ぶかな?



<騎士襲来当日>


ついに白の悪魔の所在を掴んだ。

今頃ヴァンが身柄を押さえているだろう。


「ホントに白の悪魔と会えるのじゃな?」

「ええ、ですが先程も言ったように半径三メートル以内には近づかないこと。あとは私の指示に従うこと。これらはきちんと守って下さい。」

「わかっておる。」


姫様の喜ぶ顔がみれて不思議と私の顔も綻ぶ。


それから3時間が経ったころにヴァンが帰還してきた。

いくらなんでも遅すぎる。

あれ?なんか泣いてないか?


「………何があった?」

「団長〜……俺らって能無しの役立たずの給金泥棒のゴミ屑なんですか?」


ホントに何があったんだ?

とゆーか


「白の悪魔は?」

「………うわ〜ん、団長〜。」


ヴァンが抱き着いてくる。

男である私に同じく男に抱き着かれて喜ぶ趣味はないがなぜか引きはがせなかった。

ヴァンは若く、ヘタレではあるが優秀であり、最年少で騎士団の副団長まで上り詰めた男だぞ。

なんでこんなんになってんだ?


理由を聞けば、白の悪魔の食事(普通の朝食)を邪魔したとかでいきなり説教をしだしたらしい。

自分を捕まえにきた騎士を説教するのもいささか非常識ではあるが、それを聞くこいつらは非常識を通りこしてもはや馬鹿だ。呆れるほかない。

さらにはそのまま帰ってきやがる始末だ。


「減俸は覚悟しておけ。」

「どうせ俺らは給金泥棒なんです……」


聞いてないし…


「つまりは、白の悪魔には会えないということじゃな?」


そういえば姫様がいた。


「いや、あの、これは」

「よい。わらわは部屋に戻るとしよう。」


ガッカリした様子で騎士団長室を出ていく姫様。

くそっ、失態だ。

私達の仕事は姫様を悲しませることではないというのに。


「今度は私自らが出向こう。」


決意を新たにする。

部下に任せたのがそもそもの間違いだったのだ。


「ご報告します!」


一人の騎士が部屋へ駆け込んでくる。

……最近このパターンが多いな。


「白の悪魔と思わしき男が出頭してきました。」


この報告は少し予想外だった……



尋問室。尋問とは聞こえが悪いが要は取り調べのための部屋だ。

部屋の大きさはさして大きくなく、大人三人入れば息苦しさを感じる。

そこで私と白の悪魔はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている。


「なぜ出頭してきた。」

「行けってやかましい女がいるんでな。」


ふてぶてしく答える白の悪魔。


「貴様の名前は?」

「ライル=シリア。」


ラ、イ、ル……って!


「それは貴様の名前じゃないだろう!」


俺は調書に書いていたペンを投げ出して思わず叫んだ。

なんで真顔で嘘を即答でついてんだ?


「お前の、いいか?お、ま、えの名前を言え。」

「キシワ=ゴミクズ」

「………お前舐めてんのか?」

「なんで?」


あれ?すごい普通に返されたぞ?

もしかして本当にキシワ=ゴミクズが名前なのか?


「もう一度確認する。貴様の名前は?」

「そんなことよりそろそろ昼飯時じゃね?」

「…………………」

「おい、なんか用意しろ。」


胸糞が悪くなるような犯罪者などいろいろと見てきたが、こいつは違う意味でムカつく。


「貴様がちゃんと名前を教えるなら飯を出してやらんこともない。」

「そうか。」


白の悪魔は胸元から何か取り出す。

あれはギルドカードか。

と、床に投げ捨てる。


「拾って確認しろ。」


殴る。

いや、むしろ殺す。

かつてここまで侮辱されたことがあっただろうか?

我慢しながら拾い上げたギルドカードにはゼロ、Eランクとかかれている。


「ゼロ君。君の罪状なんだけどね、港湾区中央公園の器物損壊とライル=シリアの殺人未遂が容疑としてかかっている。」

「ふーん……」


優しく懇切丁寧に説明してやるが白の悪魔、もといゼロは特に興味もなさそうな反応を返す。


「容疑を認めるんだね?」

「つーか容疑ってそれだけ?」

「………今のところは。」

「なら、帰っていい?あっ、その前に飯を用意しろ。あんたの奢りで。」

「帰るのを認めるわけにはいかない。」


あえて昼食の要求を無視する。

そもそも用意する気などさらさらない。


「いーや。あんたらの言う俺の容疑とやらがそれだけなら俺を裁けない。」

「どういう意味だ?」


ゼロの自信満々な態度を訝しみながらも問いかける。


「どうもこうも、公園壊したのはハゲだ。目撃者多数だ、調べればすぐにわかる。あと、ハゲの殺人未遂?そんなの戦いの結果だ。俺だってこの通り。」


ゼロは首からつるされた左腕を上げて見せる。


「第一あれは、依頼でもあったんだ。半殺しは依頼者の希望だ。そもそもやられた本人が気にしていない。」

「し、しかし君がやったことには……」

「黙れよ、盛りすぎ筋肉。よく調べもしねえで人を犯罪者扱いしやがって。賠償金よこせ。」


……だってお前犯罪者じゃん。

町中で男数名の爪を爆笑しながら剥いでるじゃん……

危険人物じゃん。

と言うか盛りすぎ筋肉って何?

確かに人よりは鍛えているから筋肉発達してるけれども。


「と、とりあえずお前の話を確認するまでは牢に入ってもらう。」

「筋肉。飯はまだか?」


なんで聞いてないの?

二人しかいないし、雑音もないだろうが!

こんな自分勝手な奴初めてだ……

姫様のわがままとは全然違う。


「腹持ちがいいのを寄越せ。」

「……牢で臭い飯でも食ってろ。」

「飯が臭いのか?ある意味楽しみだ。」


ゼロがニヤリと笑う。

どこまでも馬鹿にしやがって……

本当に殴ってやろうか?

私とゼロは睨み合う。いや、ゼロの視線は睨むというより、観察しているといったほうが近いかもしれない。

その金色の瞳を見ているとなにもかも見透かされる感覚がして思わず視線を逸らしてしまった。

ちょっとした静寂が訪れる。

しかし、その静寂も新たに登場した人物により破られる。


「ここに白の悪魔がいるそうじゃな!」


現れたのは姫様だ。


そこでゼロの視線が私から姫様に移る。


奴は一言。


「なんだ?あのガキ。」


と発した。


姫様に対してなんと無礼な。


これはゼロの取り調べの物語。



この世界というか国では殺人は別として他は被害届がでていないと現行犯以外では捕まえることができません。


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