とある依頼の結果の物語
〜SIDE ???〜
今日も今日とて俺様は愛しい妹を陰から日なたから見守る。
ああ……なんて罪な女なんだ。
お前が笑いかけてくれるだけでお兄ちゃんは、お兄ちゃんは……!
いかん、鼻血が止まらない。
とりあえず妹観察日記に今の気持ちを綴っておこう。
それはそうとオルトがギルドに依頼を提出した。
なんでもストーカーに悩んでいるらしい……
一生の不覚だ!
俺様はそんな妹の思いを察する事が出来なかった。
それにいつも基本的にはそばにいたのにそんな気配を感じなかった。
敵は何者だ?
まさか暗殺を生業とするような奴がオルトのあまりの可憐さにストーカー行為をしているのか!
よし、殺そう。
誰であろうと妹を困らせるような輩は万死に値する。
ということで、妹と共に依頼を受けてくれた冒険者を待つ。
場所は待ち合わせ場所としてよく使われる噴水広場。
そこの一角にオルトは立っている。
俺様?
噴水の池の中ですけど何か?
過保護過ぎるのもよくないからな。俺様は遠くから見守るだけなのだ。
程なくして依頼を受諾したであろう冒険者達がやって来た。
女二人組だ。
金髪と赤みがかったピンクの髪の女たち。
まあ、そこそこの美人だろうか。
オルトの魅力を一億ポイントとしたら7、80ポイントはいくんじゃねえか?
おっ…とゆーことは高得点だな。
しかしまあ、オルトと並ぶと俄然引き立て役にしかならないのは可哀相というほかない。
ん?よく見たら何かでかい荷物が……
あ、人だよあれ……
何?どうかしたのかあれ。
やたらマニアックな縛り方されてんだけど……変態か?
! つーかあれ、親友じゃん!
親友とは二回しか会ったことないがもはや長年連れ添ったかのような感覚をもった。
きっと親友もそう思っていることだろう。
なぜここに……
おや?オルトが近づいていくぞ。
ダメだよ、知らない男の人に近づくなんてお兄ちゃん許しません。
でも、果たして親友にまで目くじらをたてていいものなのか?
それは妹の自立を妨げる要因にはならないのか?
いや、やっぱり自立しなくていいや。俺様が一生養う。
つーか親友っ!
オルトが握手求めてんだろうがっ!
何断ってんの?馬鹿なの?
あ、いや、でも……触れてほしくないしな……つまりは、グッジョブ親友!
その後もわりと和やかな談笑がされている。
と、オルトがいきなり手招きをしだす。
もしかして俺様を呼んでいるのか?
でも違ってたら恥ずかしいしな……
あれ?なんかまたしても親友の方に近づいていってないか?
!! 手をとった……
あまつさえそれを肩の上においた。
な、なにを……
そういった戸惑いは次のオルトの言葉で吹き飛んだ。
水中なのでよく聞こえなかったが確かに妹はお兄ちゃん助けてと言ったのだ。
「貴様ぁ〜〜!俺様の天使から手を離せぇ〜〜〜!!」
オルトの方から手をとって、自ら肩の上にのせたように見えたがそんなの関係ない。
妹天使が助けてと言ったのだ。
助けない理由がない。
なんか女共がなんか言ってるが俺様の視界には入らない。
見つめるのはただ一点。
「クッ……仲良く談笑してるかと思いきや、こんな青空の下、衆人環境の中で堂々と強姦しようとするとは……それにそうやって妹を人質にとったつもりか!見損なったぞ親友!」
未だに妹を離すそぶりを見せない親友と思っている男。
裏切られた気分だ。
俺様の中では目の前の男は親友から敵へと認識がシフトされつつある。
それは親友も同じ気持ちなのか、麗しの我が妹のかっこいい最愛のお兄ちゃんの知り合いだったの?という問いに親友は
「人違いだ。」
と答えた。
そうだ。俺様たちはもはや親友などという間柄ではない。
上等だ。
これで貴様は敵だ。
妹に手を出そうとした罪を悔いながら死ね。
俺様は愛剣である白夜叉を構えた。
〜SIDE ゼロ〜
ハゲが背中から馬鹿でかい剣を抜いて構える。
両刃の剣の刀身は真っ白で美しいと言わざるをえない。
また、抜き放っただけでその威圧感が増す。
何よりハゲの殺気がビリビリ来やがる。
本能のままに襲ってくる魔物どもとは違い明確にこちらに向けられた殺意。
知らず知らずのうちに俺の口元に笑みが浮かぶ。
いいぞ。
これがいいんだ。
こうゆう奴を叩き潰すのがたまらなく楽しいんだ。
「お前ら手を出すな。こいつは俺一人で殺る」
「しかし……この方強いですわ。ゼロさんお一人だともしものことが……」
「黙れ。人の楽しみを邪魔するなよ。めんどくさいと思った仕事をやってやると言ってんだろうが。」
「……はぁ〜〜、わかりましたわ。お好きになさい。」
「いいの〜?」
「だって、邪魔したら私が殺されそうですもの。」
その通りだ。
「そっか〜、ゼーちゃん?相手の間合いに入っちゃダメだよ〜?」
五月蝿い。余計なお世話だ。
間合いに入るも何も一発で終わる。
「死ね。」
ハゲの額に向けて銃を放つ。
狙いは寸分違わず、銃弾は額に向けて進む。
「おらぁっ!」
しかし、その銃弾がハゲに当たることはなかった。
斬られた。
そう、斬られたのだ。
普通では目で捕らえる事が出来ない速度で飛んでくる銃弾を斬ったのだ。
まぐれではない。
こんなことがまぐれでできるはずがない。
「面白い。」
こんな奴がいるとは……
殺しがいがある。
「どうでもいいですけど、殺すのはダメですわよ。」
「…………半殺し希望。」
知るかよ。
殺す気で戦って結果的に半殺しですんだらラッキーとでも思ってろ。
「次はこっちから行くぜ。」
「何言ってんだハゲ。まだ俺のターンだ。」
言葉と同時に銃を撃つ。
額と腹部の二点にほぼ同時に放たれた銃弾をハゲは右側にかわす。
銃口の向きと引き金の指の動きからそう判断したんだろう。
素直にすげぇよ。
だが狙い通りだ。
てめぇがそっちに避けるようにわざわざ正中線から少し左側を狙ったんだ。
そしてすでにその逃げ道に銃弾を放っている。
一息での三発の早撃ちが俺の限界だ。
「くっ、このっ!」
しかしその俺の限界の力でさえこいつは跳ね返した。
二発の弾丸をかわした後に迫ったもう一発の弾丸を斬った。
間に合うはずはない。
奴がそれを認識出来たとすれば放たれた後なのだから……
なんて剣速。
そしてそれを可能とした膂力と銃弾を斬った技量。
間違いなく、今まで会った中で一番強い。
少なくとも銃を持った俺とまともに戦える奴なんていなかった。
「ふぅ、危ねえ。もう少しでやられるところだった。んで、今度こそ俺様の番でいいか?」
ハゲは悠然と構える。
……舐めやがって。
「行くぜっ。」
ただただ真っ直ぐ俺に直進してくる。
策もなにもない。
その額に向けて一発弾丸を撃つ。しかしそれもまた斬られる。
「クソッ!」
ハゲの間合いに入ってしまった。
大剣が俺を左から袈裟斬りにするべく迫る。
間に合え。
俺は咄嗟に左手でダガーを引き抜きハゲの剣に合わせる。
ゴキッ
嫌な音が左腕からした。
それと同時に視界が右から左へ流れる。
ハゲの攻撃により吹っ飛ばされたのだ。
着地の衝撃は肺からの空気と肋骨を二、三本もっていった。
苦しい……息が出来ない。
うっすらと目を向けた先には追撃をかけるべく迫ってくるハゲがいる。
たった一撃でこれか……
情けねぇ……
見ればダガーの姿も無惨なものになっている。
結構長い付き合いで愛着あったんだけどな。
でも、よくやった。
まだ俺は生きている。
お前がなかったら斬られてお陀仏だった。
正直駄目元だったんだが……
さて、思ったより吹っ飛ばされたな。
まだハゲはこちらに来れてねえ。
いや、シャルの鞭に捕まって来たくても来れないだけか。
「邪魔すんじゃねえ!」
立ち上がってシャルを怒鳴りつける。
左腕はダメだな。使い物にならねえ。とゆーことはリロードはなしだ。
残弾は三発。
これで決めなきゃマジで死ぬかも……
「こい、ハゲ。」
「これは剃ってるだけだ!」
シャルの拘束が解かれてハゲが俺に迫ってくる。
まずはその足を止めてやる。
そう思って足に向けて撃ったが、かわされてしまう。
また、撃った衝撃で左腕と肋骨に痛みが走る。
ちっ、残り二発。
ハゲは間合いの一歩外まで迫って来ている。
額に向けて撃つ。
しかし、それは振り上げられた剣により斬られてしまう。
くそっ、くそっ!
なんで当たんねえんだよ!
「終わりだ。」
「終わんねえっ!」
剣を振り下ろそうとしたハゲに自分から近づく。
ハゲは俺に近づく勢いそのままに斬り掛かろうとしていたから必然的に距離はハゲの想定よりも近づく。
「なっ!」
避けるでもなく近づいてきた俺にハゲはびっくりしている。
だが体の動きはもはや制止することは出来ない。
俺は首を右側に傾ける。
頭から真っ二つはごめんだ。
最初からこいつの動きは見切っている。
だからこそ最初の攻撃では死んでいない。
でもできることはこんな小さなことくらいだ。
もう少し身体能力が高けりゃ軽くかわして頭に風穴開けてやるのに。
剣が振り下ろされる。
根本が左肩に食い込む。
俺が近づいたことでハゲは剣を振り切る事が出来なかった。
左肩が少し裂けているがどうでもいい。
痛い。
痛いがそれ以上に
嬉しい。
だってやっと
「捕まえた。」
銃をハゲの体に押し付けながら撃つ。
ゼロ距離で放たれたそれはかわすことも剣で斬ることも出来ない。
「ぐわっ!」
ハゲは堪らず後退した。
その時に剣が引かれ、左肩に激痛が走ったが、どうでもいい。
好機だ。
銃で剣を押し上げるとともにハゲに蹴りを放つ。
無論狙いは手で押さえている銃傷。
「があっ……」
奴の苦痛の声が俺の痛みを忘れさせてくれる。
いいぞ、もっとだ。もっと鳴け!
右手のみでリロードを行う。
左手が使えた場合の実に三倍以上の時間を費やした。
しかし、その間ハゲからの攻撃はない。
当然だ。
俺が撃ったのは左股関節だ。
痛みでまともに立てん。
「はははっ!いい様だ。」
ハゲに向けて言い放つ。
まだそんな殺気の篭る目で俺を見れるのか。
やはり面白い。
俺はハゲの左腕を撃つ。
一発、二発、三発。
当たる度に苦悶の声が上がる。
「俺の左腕をこんなんにしてくれた礼だ。」
剣によって切り裂かれた左肩から血を流している左腕を見せる。
痛み以外の感覚はなく、動かそうと思ってもピクリとも反応しない。
「まあ、俺はそれ以上を貰っていくが……」
右腕に一発。ハゲが剣を落とす。
さらにもう一発。これで剣は持てまい。
「ほれ、次だ。」
右足の太股に一発撃つ。
「あぁっ……!」
「あははははははっ!」
笑いが止まらない。
楽しい。
今までで一番楽しい。
左足の太股も撃つ。
また、上がる苦悶の声。
愉快だ。
……さて、最後の一発だ。
ハゲの頭に銃口を当てる。
「死ねよ。」
―――――俺が撃った銃弾は天空に放たれた。
俺の意志ではない。
それをさせたのは俺の腕に絡まる鞭だ。
「なぜ邪魔をする?」
「殺しは依頼に入ってないわ〜。」
いつもの優しい笑みが引っ込んで堅い顔をしたシャルがそこにいた。
リーラも同様の顔をしている。
なんでそんな顔してんだよ。
「……シラけた。」
殺意を納める。
同時にシャルの鞭が腕から離れる。
「…………とりあえずびょーいん。」
「そうですわね。」
俺はそのまま自力で歩いて、ハゲはたまたま近くを通った男二人によって病院に行った。
「全治四日程度でよかったですわね。」
俺の隣に座ったリーラが言う。
「ほんと、ほんと〜。血がドバっと出てるからもう少しかかるかも〜って思ってたよ〜。」
シャルもいつも通りの笑顔を浮かべている。
病院は各区に何カ所かあり、そのうち一番近いところに来ている。
病院とは回復魔導師による治療が行えるところで、怪我であるなら長くても10日程度で完治させることができる。
「…………ほんとはオルトが全部治療するつもりだた。」
なぜかオルトもここにいる。
ちなみに俺の治療はこいつがすることになった。
まあ、治療代も馬鹿にならないところをただでいいというので都合がいい。
だがしかしハゲの方は体内に銃弾が残っているため、まずはそれを摘出する手術からはじめている。
「お兄さんがこんなことになってしまって、ほんとにごめんなさい。」
リーラがオルトに頭を下げる。
実はあのハゲはシャルのような自称兄ではなく、正真正銘血のつながった兄であった。
まあでも、あいつが依頼にあったストーカーで間違いないらしい。
妹にストーカーって……
気持ち悪い。
ハゲでどがつくシスコン。……人として可哀相だ。
「…………問題なし。…………約束通り半殺し。」
そして、兄がほんとに半殺しにあったというのにオルトには動揺した様子はない。
「でもでも〜、やりすぎた感が〜。」
「…………いい。」
「それでも、さすがにあれは……」
リーラが俺をちらりと見る。
なんだ?
「…………好い気味。」
「妹にそれ言われるって、どんだけ嫌われてますの……」
「…………嫌いではない。…………ウザいだけ。」
まあ、兄弟関係なんてそれぞれだ。
「きちんと仕事をやったんだ。あんまり、自分達を卑下するな。」
「………殺そうとしたくせに。」
「お姉ちゃんいなかったらヤバかったよね〜。」
二人からの非難の視線を浴びる。
居心地が悪い。
俺、悪くねえのに……
「いや、あなたが悪いですから。」
「心を読むな。」
お前も乙女の嗜みを会得しているのか?
「顔に書いてあるんだよ〜。」
ああそうかい。
そうこうやり取りをしているうちにハゲが手術室から出てくる。
そしてそのまま全身包帯姿で回復魔法をかけられながら病室に連れていかれた。
「ご家族ですかな?」
そこへ手術を担当していた医師が声をかけてくる。
「…………オルトがそう。」
「手術は無事に終わりました。しかし、股関節の損傷が酷いため、ライルさんの退院には7日ほどかかります。」
「…………おけ」
なぜか敬礼をするオルト。
得体がしれん……
「…………じゃあ行く。」
俺の右腕を掴んでオルトが病院を出ようとする。
「え、あの、お見舞いとかしないんですか?」
「…………勝手に治る。…………あと頼んだ。」
医者にそう告げるとそのまま俺を伴い外に出た。リーラとシャルも後に続いている。
「ほんとによろしいんですの?」
「…………いい。」
「それじゃ〜、どうしよっか〜。」
「…………うち来る。」
「ああん?お前の家にか?」
「…………ゼロの腕の治療する。」
確かにそれは必要だが……
めんどくさいな……
「お前が俺達の泊まってる宿にこい。」
「…………おけ。」
ピースで了承の意を示すオルト。
軽いな〜、コイツ。
まあ、いいか。
途中で水をさされたとはいえ
楽しかった。
そういえば結局朝飯食ってないな。
もう、昼過ぎか………
なに食おう……
これはとある依頼の結果の物語
戦いってやっぱ難しいですね〜。
つーか書いてて改めて主人公イカレてんなぁ〜ってビックリしました。
書いてんの自分なのに……
何の説明もなく微妙に出てきたハゲの名前。
これじゃいかん……
ちゃんとした機会を作らねば!