とある依頼の物語
「今回はこの依頼を受けましょう。」
夕食の席でリーラが依頼書をたたき付けるようにして置く。
そんなことされても読めないものを見る気はさらさらない。
とゆーか
「また勝手に決めてきたのか。」
「いえ、今回の依頼はシャルさんと二人で決めてきました。」
「だからそれを勝手に決めてきたと言うんだ。」
俺に断ってねえだろうが。
「あら、それはすいません。でももう決まってしまったので諦めて下さい。」
「ゼーちゃん、ごめんね〜。」
なんか蔑ろにされてるな。
いや、リーラの恋路がうまくいっているということか……
だとしても蔑ろにされるのは面白くないものだな。
「俺はこの依頼をおりる。」
めんどくさいし、何よりいっつも勝手に決められてる。
それに毎回付き合っていた今までの俺は偉いな。
「………あなたはこの依頼を見ても何とも思わないんですか?」
そうは言われても読んでねえしな……
「そうだよ〜、かわいそうだよ〜。」
シャルまで……
どんな依頼なんだ?
「依頼を具体的に説明しろ。」
「読めばわかりますでしょ。」
リーラは依頼書を俺の手前に移動させる。
適当に読む振りでもしとくか…
どうせやる気ないし。
「ね〜、大変でしょ〜?」
「これはなんとしても助けてあげないといけませんわ。」
二人がここまで言うなんて初めてだな。
一体何をそこまで……
「こんなんじゃ夜も眠れませんわ。」
「お姉ちゃんも嫌だな〜、気持ち悪いし…」
夜も眠れなくて、気持ちが悪くなおかつ大変……
不眠症?二日酔い?
……違うな。
こんなんがギルドの依頼に出るわけがない。出してたらそいつは馬鹿だ。二重の意味で病院に行け。
だとしたらなんの依頼なんだ?
魔物関係か?
……きっとそうだな。
夜も眠れないというのは騒音のことで、気持ち悪いのはその音のことだろう。
そんな事態が起こっているのなら大変なのだろう。
ということはその原因たる魔物の駆除が今回の依頼か。
リーラが憤っているのは大方依頼主が女なんだろう。
「勝手にやれ。俺は部屋に戻る。」
馬鹿らしい。
勝手に受けた依頼なら自分達でやればいい。
俺は飯もそこそこに切り上げて部屋に戻った。
翌朝、いつもの時間に目を覚ました。
俺が起きる時間はいつ寝たとしてもだいたい一緒だ。
眠ってから起きる時間まではなにが起ころうと基本的に起きることはない。
それが徒になった。
朝起きると俺は縄で縛られていた。
「……なんのつもりだ。」
「だってゼロさんこのままだと依頼受けてくれなそうでしたし。」
「とゆーことなの〜。」
なんなんだよ……
つーかこの縛り方マニアックすぎないか?
多分縛ったのはシャルだな。
さすが嗜虐趣味の女王様だ。
体の自由を奪いつつ苦しくはない。
俺には出来ない縛り方だ。
「あれ〜?久しぶりに嫌な感じがする〜。」
「……どうしましたの?行きますわよ。」
「あ、うん〜。せーのっ!」
二人に持ち上げられる。
なんか複雑だ……
まあ、逃げられないっぽいからおとなしくすっか。
でもひとつ言っておかなければならないことがある。
「朝飯は?」
「ばっちり用意してる〜。」
「ならキリキリ運べ。」
「………ご自分で歩こうとか思いませんの?」
「別に解放してもいいぞ。俺の足がお前たちの望む方向に進むことはないと思うが。」
「…このまま連行しますわ。ずっと持ち上げるのも疲れますし引きずっていきましょう。」
リーラがその手を離す。
ちなみにリーラが持っていたのは頭側だ。
つまりどうなるかというと、
「痛っ!いや、熱い熱い熱いっ!リーラお前っ!俺の機嫌損ねたらどうなるかわかってんのかっ!つーかシャルも足を止めろっ!」
「あはは〜、ごめんごめん〜。」
誠意が感じられない。
「で、怒らせるとどうなりますの?」
俺を見下ろすような形でリーラが立つ。
くそっ、リーラごときに見下ろされるとは屈辱だ。
「少なくともお前の下着の色くらいはわかる。」
位置の都合上まる見えだ。
白とはまた、清純ぶってやがる。
「っ!!」
目が踏み潰された。
「ぉぉぉおぉあっっ………」
「言わなきゃもう少し眺めを楽しめたのに〜……」
「ふんっ!」
まじでいてえ……
いや〜でも眼球に直接じゃなくてよかった。
すぐに回復すんだろ。
それにしても躊躇なしだったな。
見たくもないものを見せられたのは俺だというのに……
完全に被害者だろ。
くそっ、リーラには最近優しくしすぎたな。
久しくいじめてねえから自分の立場を忘れているらしい。
結局二人に持ち上げられたまま連行された。
……ぜってぇ泣かしてやる。特にリーラ。
「とゆーことでご依頼されたオルト=シリアさんでよろしいですか?」
「…………いい。」
「お姉ちゃんはシャルロットって言うの〜。シャルって呼んで〜。」
「…………そう。」
「私はリーラ=フラウンですわ。よろしくお願いします。」
「…………よろ。」
「こっちの男の方はゼロさんですわ。」
「…………ども。」
未だ視界は戻って来ない。
それにしても言葉に感情を感じない奴だ。
ずっと喋りが平坦だ。
「…………悲しい?」
「ああん?」
「…………泣いてる。」
「体の防衛本能からだ。どこぞの馬鹿女に目を攻撃されてな。」
「…………じゃあ」
そこでなんか顔辺りが温かくなって痛みが消えていく。
目を開けると手が翳されているのが見える。
その手が淡い光を放っていることから魔法によって癒してくれたのだろう。
「もう、大丈夫だ。」
「…………そう。」
手の平が下ろされる。
そこで初めて俺は依頼者の姿を見た。
長いブラウンの髪をうなじのところで二つ結っている。
またその瞳は髪と同じくブラウンであり、顔は若干幼さを持っているがその造形はいいのではないだろうか。いわゆる美少女だ。
ローブ姿でよくわからないが胸は若干乏しい……
「…………趣味?」
俺を指さして女が言う。俺の姿といえば宿からずっと同じで、縄で縛られている。
「……忘れてたな。おい、ほどけ。」
「…………おけ」
リーラ達に言ったつもりなのだがなぜか女がほどきはじめる。
いや、どっちにしろ問題ないのか。
ようやく自由になれた。
「…………ゼロ?」
「そうだ。」
俺を指さして言うので肯定してやった。
「…………オルト。」
今度は自らを指さして女、オルトが言う。
「ふ〜ん。」
だからどうしたと言うんだ。
「…………よろ。」
手を差し出される。
どうやら握手を催促されているようだ。
「結構です。」
会ったばかりで友好的過ぎるだろ。
それに何考えてるんだかわからない感じが少し不気味だ。
「ゼーちゃんそれはどうかと思うわ〜。」
「助けてもらっておいてお礼を言わない所か、握手を求めた相手を断るなんて、人として最低限のこともできませんのね。」
「助けられる原因はお前らにあるだろうが。」
目の治療も縄をほどいたのもどっちもお前らのせいだ。
礼と言うのならお前らに御礼参りという名の礼をしてもいいんだぞ。
「…………気にしてない。」
オルトはそういってベンチに腰掛ける。
よく見るとここは港湾区中央にある公園内みたいだ。
そこにある噴水広場は待ち合わせ場所として有名で、カップルも多い。
ここには一回だけ来たことがあるだけだが印象に残っている。
とゆーのもここに来た時、たまたまカップルの女の方にぶつかってしまったのだ。
とは言ってもその女が好みだったとかそういうわけではない。
女の顔なんてモザイク処理されていて思い出せない。
印象に残った理由とは彼氏のほうが女の前で格好をつけたかったのか、謝罪と慰謝料を要求してきたからだ。
どうなったのかは想像に任せるが、俺の財布が潤ったと共に一組の恋人が別れたという事実だけは知ってもらいたい。
「…………お仕事。」
そういやそのためにきてんだよな。
結局なんなんだ?
「お任せ下さい。絶対にそのストーカーさんを改心させてみせますわ。」
……………はい?
なんて言った?
「そうだよ〜。ストーカーなんて許せない〜。」
あっ、空耳じゃなかった。
つーかストーカー……
確かに気持ち悪いし、大変だな。
眠れないというのはよくわからないが、脆弱な精神の輩ではそうなのかも知れない。
しかし、わざわざ依頼するようなことか?
「…………無理なら半殺し。」
改心が無理ならって意味か?
しかし半殺しもオッケーとは物騒だ。少し依頼に興味が湧いてきた。
でも……
「どうせなら殺しちまった方が早いだろ。」
改心すると言って本当に改心するとは限らない。
ならばいっそいなくなったほうがあとあと安心出来る。
「…………殺すの不可。」
殺すのは不許可ということか?
それとも殺すことが不可能という意味だったり。
「…………どっちも。」
「うぉっ、……心を読んだのか?」
「…………乙女の嗜み。…………フフフ。」
やっぱ不気味だよコイツ。
「まあ、暗殺の類はギルドの仕事として認可されてませんから。とにかく!そのストーカーさんの改心、もしくは半殺しということでよろしいですか?」
「…………おけ」
オルトはピースをしてリーラの問いに了承の意を示す。
「それじゃあ〜、そのストーカーの特徴を知ってたら教えて〜。」
シャルの問いにオルトは顎に手を当てて考えるそぶりを見せる。
「………頭が寂しい?」
「馬鹿ということか?」
「いえ、この場合頭髪の量のことを言うのでは?」
「………フフフ。」
どっちだよ。
いや、ストーカーの特徴というからにはリーラの言うことの方が正しいのか?
「他には〜?」
「………オルトのこと何でも知ってる。」
「お前の一人称自分の名前かよ。」
「そこは個人の自由でしょうに……でもそれは特徴とは言えませんわね。」
「そうでもないよ〜。」
「どういうことですの?」
「だって〜、何でも知ってる〜ってことはオルちゃんが今ここにいるってことも知ってる〜ってことだよね〜。それじゃあ今もどこかで見てるかも〜。」
「…………オルちゃん?」
「うん〜。そう呼んじゃダメ〜?」
「…………いい。」
「ありがと〜。」
確かにシャルの言うことももっともだ。
ストーカーという一方的な愛を押し付けてくる奴は神出鬼没。
どっかからこの光景を見ている可能性が高い。
「ではこの辺りを見回って、頭髪の残念な方を探してみましょう。」
リーラの声によりシャルも動きだそうとする。
……俺?
動かないに決まってんだろ。
すでにおいしい所だけ掻っ攫う気満々なんだから。
精々俺のために働け。
そしてストーカーめ、待ってろ。
リーラへの前哨戦として痛ぶってやる。
「…………探す必要なし。」
とそこで制止の声がかかる。
言うまでもなく発したのは依頼者であるオルト自身だ。
「どういうことですの?」
リーラの疑問も当然だろう。
ストーカーを探し出さないことにはどうすることもできない。
もしかして今更怖じけづいたのか?
「…………呼べば来る。」
そう言うとオルトは手招きをする。
それでくるのか。
軽いなストーカー……
「…………ゼロ。」
「はっ?俺を呼んでんの?」
「…………イエス。」
なんのつもりだ。
つーか人に指図されるのあんまり好きじゃないんだけどな。
会って間もない奴ならなおさらだ。
「行きなさい。」
やっぱ調子乗ってんなコイツ。
とりあえず事が済んだら泣かせるか。
まずはシャルと二人きりになるのを妨害して、シャルと四六時中くっつく。
……………この計画はなしだ。
シャルを付け上がらせてしまう。
ならば直接的に?
撃つか?撃っちゃうか?
ん?
いつのまにかオルトが目の前にいるぞ。
「…………こっちからきた。…………手。」
オルトは俺の両腕を持ち上げ、そのまま自分の両肩の上に置く。
なにがしたいんだ……
「…………助けて。…………犯される。」
相変わらずの平坦な声音で声量なく発せられたその言葉はあまりにリアリティーがない。
こんなんで来るわけ……
「貴様ぁ〜〜!俺様の天使から手を離せぇ〜〜〜!!」
あ、来るんだ。
やっぱ寂しいのは頭の中身だったな。
…………訂正。頭の中身も寂しい、だ。
現れたのはハゲ上がった青年だ。
出現場所は噴水の池の中だったのだろう、ビチョビチョだ。
……しかし、どっかで見たような?
「現れましたわね。女の敵!」
「お姉ちゃんもお仕置きする〜。」
お前ら簡単に受け入れるんだな。
俺はこんなんお約束だとしてもヒいてるんだけど。
「クッ……仲良く談笑してるかと思いきや、こんな青空の下、衆人環境の中で堂々と強姦しようとするとは……それにそうやって妹を人質にとったつもりか!見損なったぞ親友!」
俺に向かって指を突き付けるハゲ。効果音がつくのならズビシッ!といったところか……
つーか思い出した!
あいつ多分この前一緒に飲んだ奴だ。
顔は覚えてねえけどあのハゲ頭とウザい感じは間違いないだろう。
「妹〜?」
「それよりもあの方ゼロさんを指さして親友って言いましたわよ?」
「…………知り合い?」
さてどう説明するべきか……
でもとりあえず決まっていることは
「人違いだ。」
だって、親友になった覚えはねえもん。
つーかこいつがストーカーの正体か?
妹って言ってたけどストーカー扱いされてるってことはシャルの男版か?
俺はオルトから手を離し銃を構える。
とりあえずハゲの半殺しショーでもやるか。
これはとある依頼の物語
ストーカーへの解釈は作者自身が部屋に幽霊がいるとふと思ったときに感じた気持ちを基に捏造してますので実際に被害にあっている方の思いとは違うでしょう。
この場を借りてお詫び申し上げたいと思います。
(別に作者には霊感はありません)
とりあえず出したかったキャラを出してます。
少し急ぎすぎですか?
ハゲの名前は次回にでも……