王都での初日の物語
「…ぐすっ、ふぇっ…」
泣かれている。
誰に?
ベリーだ。
王都に着いたことで依頼は完了した。
つまりジオレンたちとはここでお別れなわけだが…
「ベリーちゃん泣かないでくださいませ。絶対にまた会えますから。」
「そうよ〜。今度会う時はもっと大きくなっててね〜。」
「……うん、ベリー大きくなる。」
ベリーの涙に触発されたのか、なんかリーラの目にも光るものがある。
…しっかしまあ、そんな泣くようなことあんのか?
「なんで泣いてんだ?ガキ。」
「な、泣いてねえよ。」
そう、ルアップもまた泣いてる一人だ。
「いや、泣いてるし。とゆーか汚いから鼻水は拭え。」
「ずずっ…泣いてねえもん。」
「そうかよ。」
本人がそう言い張るのならそれで納得してやろう。
なんか会話のループに陥りそうだしな。
「兄ちゃん…オレのこと忘れんなよな……ぐすっ。」
完全に泣いてるじゃねえか…
そこまでの仲良くなった覚えはないのだが、子供は感受性が豊かだな。
「お前には貸しがあるからな、返すまでは忘れてやらねえ。」
「貸し?そんなのあったっけ…?」
「ブルーテの飲食代は出世払いなんだろ?」
「あ…うん。絶対返すから。」
さてそろそろ行きたいのだがまだお別れは終わらんのか?
とゆーか……
「そもそもルアップたちもしばらく王都にいるんだから明日にでもまた会えるだろうに。」
「ベリーは子供なんだし仕方ないだろ?それに、離れることに変わりはないだろ。」
そんなものなのだろうか?
まあいいや。
「そろそろ行こうぜ。」
「………そう、ですわね…」
「じゃあベリーちゃんバイバイ〜」
俺の声に二人がベリーに手を振りながらこちらに歩いてくる。
ベリーもそれに手を振りかえしている。
「ありがとうございました。」
ジオレンとプグレー夫妻は俺達にペコペコと頭を下げている。
依頼なのだから当然のことしかしていないがここで謙遜するのも何だしな。
「それじゃあな。」
そう一言だけ告げて歩きだす。
そして俺に追従する二つの気配を感じる。
「またな。」
一回だけ振り返ってルアップに
いや、ジオレン達全員に向けて言った。
「…うん、またな。兄ちゃん達!」
答えたのはルアップだったが、全員同じ気持ちだったかもしれない。
ジオレンたちはそのまま王都の商業区に向かった。
俺達は港湾区に向かっている。
というのもギルドも冒険者用の宿も港湾区にあるからだ。
この王都は大きく分けて商店などが建ち並ぶ商業区と旅行者、冒険者などが使用する施設のある港湾区。王侯貴族の住む上流区と一般市民の住む居住区に分かれている。
他にもあるらしいが聞かされたのはここまでだ。
つまり、俺達がその中で真っ先に港湾区に向かうのは当然と言えるだろう。
まずは依頼完遂の報告とシャルのパーティー登録をすることが優先だ。
港湾区のギルドに到着したのだが感想は一言、広いという言葉に限られる。
アーガルドのギルドの倍以上はあるだろうか。
その中に装備品を売っている店や回復薬などを売っている道具屋などが併設されている。
ざっと見た限りでも品揃えは豊富だ。
「銃弾がないか見てくる。」
二人にそう告げると装備品を売っている店に向かう。
どうせ、依頼の報告もパーティー登録も二人だけで事足りる。
「わかりましたわ。いいですか!そこから勝手に移動しないようにしてください。」
「あ、じゃあお姉ちゃんもゼーちゃんと一緒に…
「あなたがいないとパーティー登録できません。それでもいいのならご勝手にどうぞ。」
「リーちゃんのいじわる〜」
二人してそのまま受付に向かっていった。
さて、俺も移動するか。
装備品は剣や槍、鎧など多種多様なものが置いてあったが、俺の目当てのものは見当たらない。
仕方なく奥にいる上半身裸で筋骨隆々の店主らしき男に話しかけることにした
「銃の弾が欲しいんだが置いてるか?」
「うん?あんた銃使いか。珍しいな。」
「俺が珍しいかどうかは聞いていない。」
「ん?ああ、悪いな。銃弾は置いてねえのよ。昨今の風潮で銃は飾るものってなっててな〜。銃弾を扱う意味が薄れちまったんだよ。俺だって銃を使ってるやつなんて20年ぶりくらいに見たぜ。」
王都でも置いてないのか…
ちっ、宝の持ち腐れってやつじゃねえか…
「悲観すんなよ。表にはねえが裏なら可能性はある。」
「裏?」
「ああ、その前にこれな。」
店主は手の平を上に向けて俺に差し出す。
「なんだよ?」
「情報科。」
「いくらだ。」
「一万Rでいいぞ。」
俺は店主に銀板を一枚渡した。
こういうとこで出し渋ると後々後悔することもあるかもしれんしな。
ま、元がとれなきゃなにをするかわからんがな。
「毎度。んで、裏ってのは市民権を持ってねえ連中の住み処だ。」
「市民権?」
「王都の民だと認められるには市民権を持たないとダメなんだ。そいつを持ってねえ連中の住み処がここにある。」
そういって店主は下を指さす。
「ギルドにか?」
「いや、違う。下だよ、下。地下にあるんだ。」
「どこに行けばいいんだ?」
「地下への入口は至るところにある。そして、あんたの求めるものがあるとすればガスカルって奴のとこだろうな。」
「そこにいけば銃弾が手に入るのか。」
「可能性があるってだけだ。ガスカルってやつは昔は鍛治師でな。でも、銃の魅力に取り憑かれちまって破産するまで蒐集に明け暮れて、今じゃ裏の住人ってわけさ。だから銃弾を持っている確率が高い。」
「そこしかないのか?以前王都で銃弾を購入したという男がいたんだが…」
「…ああ、それは多分別の国の商隊から買ったんだろ。時々銃と共に売られてることがある。最近はそんな話は聞かねえから探すだけ無駄だと思うぞ。」
ということは基本的にはガスカルというやつのところに行くという方針でいいだろう。
さて、場所も聞いたし移動するか。
リーラが勝手に移動するなといっていたが、聞く理由もない。
でも一応保険はかけておくか、
「ここに金髪かピンクの髪の女が来たらゼロは裏のガスカルってやつのところに行ったと伝えろ。」
「おう、承知した。言伝はサービスにしておいてやる。」
俺は店主によろしく頼むと伝えると店をあとにした。
店主から聞いたとおり裏への入口はいたるところにあった。
とはいってもそこらにいた奴を捕まえて案内させた結果わかったことだ。
裏への入口は知っていれば何のことはなく、知らなければ素通りしてしまうような場所にあった。
中は薄暗く、壁に囲まれた非常に狭い空間だ。それが迷路のようにどこまでも続いているらしい。
俺はそこを案内させている男の後ろから眺めている格好だ。
ちなみに今案内させている奴は入口まで案内させた奴とは別だ。
「しかし、もう少し寂れているというか殺伐としているかと思ってたんだが…」
そう言いながら周りを見ると、子供達や大人達に笑顔が見える。
「最初はみんなそう思ってるんでさ。ま、そういう区画もあるにはありますが、そういうのは一部の無法者だけで、だいたいはこんな感じでさ。」
「それにしても……だ。ここは市民権を持っていない、つまりは厳密には王都の民ではないのだろ?王都の政策などの恩恵は受けられないはずだ。」
「政策による恩恵なんてあってもないもんでさ。とゆーか大体の政策は貴族のためのものですからね。俺達はそんなもんとは関係ない。つまりは自由なんでさ。」
そういう考え方もありなのか。
とは言っても彼らに対する国の政策をみれば自由以上に不自由だ。
俺達冒険者や旅行者などは一月ごとに更新の必要な仮の市民権を王都にはいる時に渡されているらしい(とさっきの案内させた奴に聞いた)が、それすらないとどうなるか。
簡単だ。
市民権を持たないものにはなにをしても許される。
具体的には殺したとしても罪には問われないのだ。
ただ、暗黙の了解として裏へ侵入しての暴挙は禁止されているらしい。
しかし、それが守られているのかどうかは怪しいものだ。
「ここでさ。」
考え込んでいるうちについたようだ。
薄暗い通路にいくつかの扉が連なっている。
案内してきた男はその一室を指差している。
「ご苦労。」
そういって男に銀貨を5枚握らせる。
「へへっ、ではあっしはこれで。」
そういって男は去っていった。
今気づいたが、帰りどうしよう。
それは置いておいて早速部屋の中に入った。
部屋の中には誰もいなかった。しかし、部屋はそこそこ広いがかなり散らかっているな。足の踏み場もない。そして部屋に飾られている銃器に言葉を失った。何丁あるんだ?1、2、3…………37。37丁もあるのか。また、種類も様々で手の平に隠れてしまうような小さなものから8歳くらいの子供くらいの大きなものもある。そして、それら全てがピカピカに磨かれている。紛れもなくマニアだな。これなら期待できる。
「誰だ。」
とそのとき奥にあった扉が開き、黒いボサボサの髪に無精髭を生やした眼鏡の小汚い格好をした男が出てきた。どうやら他にも部屋があったようだ。
「誰だと聞いて
「黙れ。」
えぇぇ………」
「お前がガスカルか?」
「は、はい。僕がガスカルです。」
「用件を話す。」
「人の家に無断で入ったのになんで偉そうなんだこの人…」
「この銃の弾が欲しいんだが」
俺は銃を腰から引き抜くと丁度目の前にあったテーブルの上に置く。
「ん?……こ、これはっ!」
なんかすんごい勢いで近づいてきやがった。
そのままいろいろベタベタと触りながらまじまじと見ている。
「これをどこで?」
「俺が聞いたのはこいつの弾を持っているかどうかだ。」
「残念だがこの銃は見たところがらくただ。」
「は?」
俺の言葉を無視したことにイラッとしたが、それよりも!
腕がよかったとはいえBランクの魔物を一撃で屠った銃ががらくただと?
「そう、がらくただ。だけど芸術品としての価値はある。そして僕が持つコレクションはどれも実用性がある。つまり、何が言いたいのかというとこの部屋にあるものと、君の銃を交換しないふべっ!」
殴ったがそれがどうした?
「あ、いや…えっと、どれでもいいから僕のコレクションと交換ふべっ!」
「もう一回言ってみろ。下手なこと言うなら殴るだけじゃすまさないが。」
ダガーをガスカルの頬にペタペタと当てながらドスを効かせて語りかける。
「じょ、冗談じゃないか。いやだな〜。この銃にあった弾だろ?あるよ、ありますとも!今持ってくるから待っててくれ!」
そういってガスカルは後ずさりするように奥の部屋に入っていった。
しばらくすると10センチ四方の箱を持って戻ってきた。
「今、手元にあるのはこの56発だね。」
そういって開いた箱の中には紛れもなく銃弾が入っていた。
「よし、よこせ。」
「いや、ただってわけには…」
「いくらだ?」
「そうだね…一発につき二万Rでどう?」
高い…以前買ったときの倍だと?
足元見やがって…
…………………殺すか。
「なんか僕、危険感じるんですけど。」
「そうか。」
「……なんで刃物持ちながら近づいてくるの?」
「別に」
「僕いつのまに死亡フラグ立ててたんだろう。」
うーん……
別に本気で殺そうとしてるわけじゃないが、なんかどうでもよくなってきたな。
「た、確かに少し高いとは思うけどこっちも精魂込めて作ったものなんだから、少しくらい欲張ったって…」
今、こいつはなんて言った?
作ったと、そう言ったのか!
「お前は銃弾を作れるのか?」
「へ?ああ、うん。作れるよ。昔のツテで型を手に入れてね。」
「そいつをよこせ。あと作り方も教えろ。」
「む、無理だよ。あれは自分の命より価値があるんだ。」
…ふむ、そりゃそうかもしれん。とは言ったもののどうするべきか。
いや、簡単な手がある。
全てを手に入れることができる最善の手が
すなわち
「殺して奪うか…」
「こちらをどうぞ!」
俺のつぶやきにガスカルは手に持った箱をノータイムで差し出してくる。正直びっくりした。
「くれるのか。」
「はい!」
「なんでだ?」
「死にたくありませんし、型を渡すのが嫌だからです!」
妙に声を張るんだな…
でも、好都合かもしれん。
「なら、ありがたく貰っておこう。ちなみに今から新しく作ればどれくらいかかる?」
「新しく?まだいるのかい。すまないけど材料がないんだ。あっ、そうだ!材料持ってきてくれれば作ってあげるよ。」
そいつはありがたいが話がうますぎる気がする。
「何が望みだ?」
「話が早いね。とはいっても単純だよ。次回からは金を払ってくれ。」
「それで値段はどうなる?」
「材料は君が持ってきてくれるなら…………そうだな。一発五千Rでどうだろ?」
「まだ高い。とゆーか材料を俺が出すならそんな高くならねえだろ。」
「う〜ん……でも、僕の生活のためにそこは譲りたくないなぁ。だけど、一発ニ千五百Rでどうだ!」
いきなり半分か。
しかしどうなんだろう。高いのか?
最初に購入した弾から考えるなら安い。
しかし、あれが適正価格ではないだろう。
だとすればこの価格でもいいのか怪しいところだ。
「正直に言え。材料を俺が出したとして、作るにはいくらかかるんだ?」
「……………そんなには」
「い、く、ら、なんだ?」
「一発千Rでお願いします…」
なんか粘ればもう少し安くなりそうだがガスカルの姿が憐れに思えてきた…
「仕方ない。それで許してやる。」
「ありがとうございます!………なんでお礼を言ってんだろ?」
ともかくだ。
銃弾を手に入れることができたわけだ。
「んじゃ、次は材料を持ってくりゃいいんだな。ところで何が必要なんだ?」
「持ってきてもらいたいのは鉄鉱石と火炎草か火炎石だよ。まあ、どちらかと言えば火炎石の方がいいんだけどね。あっ、空の薬莢を持ってきてくれれば再利用出来るから取っておいたほうがいいかも。」
「わかった。じやあまたくる。」
ガスカルの部屋から出る。
さて、戻るとするか。
と、元来た道に向き直って進むと薄暗い中こちらに向かってくる奴らがいる。
特に気にしていなかったが近づくと姿がはっきりと見えてきた。
かなり不機嫌なリーラだ。その後ろにはシャルもいる。もうひとり先ほど俺が道案内させていた男もいるがどうでもいい。
ありゃ怒られるな。
めんどくさいと思いつつ近づいていく。
俺に向けて放ったリーラの第一声は裏の道によく響いた。
これはそんな王都での初日の物語
やっと銃弾確保できました。
作中では一発千円の価値でしたが、調べたところリアルでは一発数十円らしいです。
やっす…、そして材料も出してるのにぼられすぎでしょ主人公!
まあ、滅多にないという付加価値がついたということで……