王都への物語 [脱アーガルド編]
「アーガルドを出ますわ。」
発言者はリーラ。
アーガルドに来てから一ヶ月と半分が過ぎた頃だった。
これまでの間にこなした依頼や討伐した魔物で俺のランクもEクラスに上がっている。
また、つい先日ユリから俺が以前着ていた服の修復が終わったからと受け取ったばかりであった。
しかしそれにしても急だな。
「なんでまた…」
「なんでもなにもそういう依頼を受けたからですわ。」
また無断で依頼を受諾したらしい。とは言っても俺の実力に合ったものを選んではいるらしい。
「どんな依頼だ?」
「商隊の護衛で王都まで行くことになりますわ。」
「商隊だと?」
アーガルドに来るまでの道中を共にしたあいつらのことなのか?
悪いわけじゃないが、Cがなにかしたら間違って殺しそうだな…
「今回の依頼は前の方達とは別の商隊の方達ですわよ。」
俺の意図を察したのかリーラが補足する。
「いつ、発つんだ?」
「明日の朝ですわ。」
だから急すぎるだろ。
整える荷物なんかは特にないがアーガルドという町でやりたいことはまだある。
屋台の飯とか食ってないのがあるんだぞ?
「不満そうですわね…確かに急だったかもしれませんが、ゼロさんのためでもありますのよ?」
「どういう意味だ?」
「これまででダガーの扱いはそこそこまともになってきましたが、あなたの本質は銃技にあります。王都なら多分ですが確実に銃弾を手に入れることができますわ。」
そういえばそうだった…
最近ダガーばっかり使い過ぎて忘れかけていた。
アーガルドに来た当初暇を見つけては町にある武具屋に赴いたのだが、どこの店にも銃弾はなかった。
てゆーかアーガルドって王都の次に栄えているとか聞いた気がするんだが、それでこれなのかと呆れた記憶がある。
「うん、そうだな。王都に行くのも悪くない。」
「それは結構ですわ。でもまあ、依頼は受けてしまっていますから、あなたがどう言おうと行くことにかわりありませんけど。」
なんか水をさされた気分だ。
「では、各自で明日の準備をしましょう。」
リーラはそう言って席を立った。
つられる様に俺も席を立つ。
やることはひとつ。
今日中に屋台の料理を制覇してやる。
一夜明けてリーラと共に商隊との待ち合わせ場所に向かっているのだが俺の気分は重い。
なぜなら
「まったく…食べ過ぎで体調不良なんて情けなさ過ぎですわ。」
ということだからだ。
そしてここまでやったにも関わらず結局屋台の料理を制覇することはできなかった。
二つの意味で気が重い。
「はい、お薬ですわ。」
リーラに差し出された錠剤を飲み込む。
味はわからん。
「お水で飲み込むものなんですけど…必要ありませんわね。」
リーラは俺に渡そうとしていた水の入った瓶を引っ込める。
「依頼者に会う前に少しはしゃっきりしておいて下さいな。」
そのまま歩きだす。
もう少し労りの心が欲しいものだ。
それから程なくして待ち合わせ場所である北門に着く。
薬が効いてきたのか気分は大分楽になってきた。
「相手の方が先に着いていたみたいですわね。」
リーラの声の通り前方にはこれから護衛することになるであろう幌馬車が停まっており、横にはいかにもお人よしっぽい人相の男が立っている。
「君達が私達の護衛をしてくれる冒険者さん達かな?」
男が声をかけてくる。
ひ弱そうな声だな。
「ええ、そうですわ。私がリーラ。そしてこっちがゼロと言います。」
リーラがギルドカードを見せながら自己紹介をする。
「では、こちらも紹介しましょう。みんな出てきなさい。」
男の声に姿を現したのは女が一人に男女の子供が二人だ。
「私達は家族で商売をしていてね。私がジオレン、こっちが妻のプグレー。あと、息子のルアップに娘のベリーだ。」
次々に紹介される。
家族か…
俺の家族はどんなんだろうな…
そんな感慨に耽っていると息子…ルアップだったかが俺の顔をじっと見ている。
「なんだ?」
「お前ホントに冒険者か?オレでも倒せそうだぞ。」
失礼なガキだ。教育に失敗してるな。
俺は腰の横にくくり付けているダガーを引き抜きルアップの首に寸止めする。
「あれ?俺を倒せるんだったら今のくらいはかわすそぶりを見せろよ。俺の気分次第でお前の頭と体をさよならさせることぶしっ!」
殴られた。
犯人はリーラだ。
「大人気なさすぎますわ!すいません、この人馬鹿なんですの。」
「いえいえ、今のは息子が悪いですから…」
そこからリーラとジオレンの謝罪合戦。
俺は世の中の厳しさを教えてやっただけなのだがなぜ殴られる。
というか最近リーラの態度がでかくなってないか?
「女に負けてんのかよ…」
ルアップの呟きは無視してもいいが…
大人として伝えなければならないこともある。
「世の中というのは正しいものが淘汰されるんだ。覚えておけ、ガキ。」
つねに正しいはずの俺の意見が通らないことなんてこの一月半の間に何度も経験した。
正しいことをやるためには力がいる。
銃という力を失っている俺はまさに翼を奪われた鳥だ。
とりあえずリーラには銃弾を手に入れたら今一度どちらの立場が上なのかわからせてやる。
「意味わかんねえし…」
ガキには高尚すぎたか。
アーガイルを出てから数時間。
御者は基本的にジオレンが担っている。
リーラは周囲を警戒しながらプグレーと娘の話相手になっている。
そして俺はと言うと
「なあ、強くなる方法教えてくれよ!」
なぜかルアップに懐かれていた。
「なあってば!」
旅立ってからずっとこの調子だ。めんどくさいことこの上ない。
いや、ウザい。
「オレ、強くなりてえんだよ。母ちゃんやベリーを守れるくらいに。」
父親は含まれないらしい。
というかこのしつこさは前に体験したことがある。
会ったばかりのリーラがこんな調子だったな。
とゆーかこいつ何良さそうな御託並べてやがる。
母親や妹を守りたいだと?
それを聞いて『なんていいやつなんだ!こいつに俺の知る全てを教えてやらなければ!』とかなるとでも思ってんのか?
しかし、このままではこいつの追求は止むことはないだろう。
だったらあの時のように適当に答えてやるのが俺のためになる。
「歳をとっていきゃ自然に強くなる。」
「オレは今強くなりてえんだよ。それに父ちゃんは弱いじゃねえか。」
確かに強そうには見えない。
とゆーか弱いだろうな。
「いや、お前の親父は普段は力を隠してるんだ。それにあと三段階の変身を残している。」
「いや、明らかに嘘だろそれ。兄ちゃんオレが子供だからって馬鹿にしすぎだ。」
ガキは大人の言うことを素直に聞いてりゃいいというのに可愛くねーな。
ま、たとえ可愛くてもウザいものはウザいわけだが。
「んじゃ、一回死んでみろ。うまくいきゃ今度は強い生物に生まれ変わることができる。」
「今強くなりてえっていってんのに…てゆーか兄ちゃん中身色々と腐ってんね。」
憐れみを含めた目で見られた。
つーかなんで10歳かそこらの色んな毛の生えそろってないガキに憐れまなければならん。
こいつには教育的指導が必要だな。
死なない程度に痛め付けるなら言い訳もたつだろ。
「ゼロさん、自重して下さい。」
殺気が漏れたみたいだ。
リーラから制止がかかる。
あいつ、周囲を警戒しながら女同士で話もしてさらにこちらに注意を払っていたらしい。
器用なことだ。
そうだ。なぜ気づかなかった。
これを言えば邪魔なルアップをリーラに押し付けることができる。
「俺よりもそこの女の方が(接近戦は)強い。教わるならあいつに教われ。」
「女に教わるなんてカッコ悪くて嫌だよ。だから兄ちゃんに聞いてるんじゃん。」
馬鹿だなー。とかガキがのたまってる。
なにかが切れそうだ。
とゆーか…
「強くなりたいというのに格好を気にしているようじゃ強くなんてなれねえよ。その程度なら二度と声かけんな。不快だ。」
リーラにダガーを教わった俺を否定された気がした。
自分より優れた者なら女も男もない。
事実俺の師匠は男だが他のメンバーの女達のことも尊敬していた。
……俺は何を言っている。
師匠とは誰のことだ?
メンバー?なんのこと…
うっ、頭が割れるように痛い。
こんなことはじめてだ……
そのまま俺の意識は闇の中へと沈んでいった………
目を覚ました時に見えたのは建物の天井。
俺はベッドの上にいた。
「どれくらい気を失っていたんだ。まさか、もう王都に着いたのか?」
起き上がって辺りを見回す。
情報を集めようにも周りにはこれといったものはない。
その時ドアが開いて部屋に入ってきたのはルアップだった。
「お、兄ちゃんやっと起きたのか!待ってろ、今姉ちゃんたちよんで来るから。」
そう言ってまたドアの外に出ていってしまう。
色々と説明してほしかったがリーラたちの方がいいだろうと思い待つ。
程なくしてドアが開かれる。
入ってきたのはルアップとベリー兄妹とリーラだ。
「ジオレンさんたちはお仕事中でしたので来ませんわ。それにしても随分長いことお休みだったようで。仕事もせずに眠るなんて本当にどうしようもないですわね。」
顔が心配していたと物語ってるんだが触れないでやるほうがいいか。
「お姉ちゃんはこう言ってるけどお兄ちゃんが倒れてすごく心配してたんだよ。」
ベリーが俺に耳打ちするように話す。声的にはリーラにも聞こえているのだろう。顔が赤くなっていっている。
まったく、空気の読めない奴とは恐ろしいな。
「どれくらい寝てたんだ。」
触れないでやるのが大人だ。
リーラも触れてほしくはないだろう。
「5日ほどですわ。ここは王都とアーガルドの中間地点にあるブルーテという町の宿屋ですわ。」
そんなに寝ていたとは…
「ここで10日間ほど商売や仕入れをするそうですからゆっくりと休みなさいということですわ。」
「俺のせいで予定が狂ったのか?」
「いえ、もともとそのつもりだったみたいですわ。ですからしっかりと養生して後半の道のりは前半の汚名を返上なさい。」
確かに倒れたのは失態だ。
汚名と言われても仕方ない。
「ごめんな、兄ちゃん…オレのせいで倒れたんだろ?」
このガキは何を言ってんだ?
……ああ、こいつとの会話中に倒れたんだったな。
まったく、変なとこで素直な奴だ。
「お前のせいなんかじゃない。単に俺の体調管理不足だ。それよりお前の親父さんに迷惑かけてしまったな。少し手伝ってやるとしよう。」
そう言って立ち上がる。
今回は完全に俺の失態だ。なにかしないと申し訳ない。
「まだ寝てたほうが…」
「もう充分寝てたんだろ?眠気覚ましの運動だ。」
そう言って外に出ると荷物の積み降ろしをしているジオレン夫妻が見えた。
近づいていき、それを手伝う。
二人は俺のことをとても心配してくれていた。
後にリーラも含めた全員が合流し、全員で仕事をした。
しかし、俺は知らなかった。
そんな俺達を遠くから見つめる視線があったことに
これはそんな王都への物語の一幕
「やっとみつけた〜!」
よくある記憶の断片が戻るお話です。
主人公食いしん坊キャラになっている印象ですね。
彼は記憶喪失というか欠如しているので知識としては知っていてもどんなものかはわからないものばかり。
その中で食べるということがものを知る上で一番の楽しみであるという設定です。
食べることも好きですが、知識の収集なんですよ。
そう思ってくれれば幸いです。
ちなみに王都への物語は今回もいれて3〜4話になる予定です。
次回は新キャラ登場です。
(商隊の家族は行きずりの関係なんで厳密にはキャラとしていれてません。)