表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/17

第3話:名前の侵食

言葉が通じない相手と、どうやって会話するか。

たぶん普通の方法は使いません。

“やりすぎたかもしれない”。


 


 そう思ったのは、ほんの一瞬だ。


 



 兵士の一人が、僕を睨んでいる。


 


 恐怖ではない。


 


 敵意だ。


 


 


「お前……何者だ」


 


 


 さっきも聞いたな、それ。


 


 


 だが今回は少し違う。


 


 


 これは確認じゃない。


 


 排除の前段階だ。


 


 



「仲間を、助けたんだぞ……!」


 


 


 別の兵士が叫ぶ。


 


 


「でも……あれは……人間の力じゃ……」


 


 


 意見が割れている。


 


 


 いい状態だ。


 


 


 分断は観察しやすい。


 


 



 問題の個体は、前に出てくる。


 


 


「……王都に連行する」


 


 


 ああ、なるほど。


 


 


 理解した。


 


 


 これは“処理対象の再分類”だ。


 


 


 僕は今、


 


 “味方”から“管理対象”に変わった。


 


 



 面白くない。


 


 


 非常に面白くない。


 


 


 だから僕は、少しだけ調整することにした。


 


 


「やめた方がいい」


 


 


 軽く言う。


 


 


 だが、もちろん止まらない。


 


 


 人間はそういうものだ。


 


 



 なら。


 


 


 仕方ない。


 


 


 僕は一歩、近づく。


 


 


 そして。


 


 


 言葉を選ぶ。


 


 


 


 人間に使うのは、初めてだ。


 


 


 どこまで通るか。


 


 


 どこで壊れるか。


 


 


 


 ――試す価値はある。


 


 



「止まれ」


 


 


 兵士の動きが、一瞬だけ鈍る。


 


 


 だが、止まらない。


 


 


 抵抗している。


 


 


 いいね。


 


 


 やはり魔物とは違う。


 


 



 なら、精度を上げる。


 


 


 曖昧さを削る。


 


 


 対象を限定する。


 


 


 


 そのために必要なのは――


 


 


 識別。


 


 



 僕は、その男を見る。


 


 


 視線。


 


 呼吸。


 


 身体の癖。


 


 


 そして――


 


 


 “内側の構造”。


 


 


 


 そこで、気づく。


 


 


 


 ああ。


 


 


 


 そういうことか。


 


 



「……セレナ」


 


 


 


 思わず、口に出ていた。


 


 



 空気が止まる。


 


 


 兵士ではない。


 


 


 後ろにいる少女――


 


 


 彼女の方が、完全に止まった。


 


 



 視線が突き刺さる。


 


 


 理解できない、という顔。


 


 


 当然だ。


 


 


 僕も今、理解したところだから。


 


 



 これは“音”じゃない。


 


 


 これは“名前”だ。


 


 


 彼女の中にある、


 


 自己を識別するための構造。


 


 


 


 それが――


 


 


 “読めた”。


 


 



「……なるほど」


 


 


 これは想定外だ。


 


 


 だが、非常に興味深い。


 


 



「なんで……今……」


 


 


 セレナの指が、乱れる。


 


 


 初めて見る、崩れた言語。


 


 


 


 いい。


 


 


 非常にいい。


 


 



 だが今は、それより先だ。


 


 


 目の前の問題を処理する。


 


 



 僕は再び、兵士を見る。


 


 


 今度は、明確に。


 


 


 対象を固定する。


 


 



「お前は、ここで止まる」


 


 


 


 言葉を、落とす。


 


 


 


 瞬間。


 


 


 


 男の身体が、止まった。


 


 


 


 完全に。


 


 


 


 まるで、


 


 


 最初から“動かない存在”だったかのように。


 


 



「……っ!?」


 


 


 周囲がざわつく。


 


 


 だが、どうでもいい。


 


 



 問題は、もう一つだ。


 


 



 ゆっくりと、振り返る。


 


 


 


 セレナが、こちらを見ている。


 


 


 


 さっきまでとは違う。


 


 


 


 明確な“恐怖”。


 


 


 


 そして――


 


 


 


 理解。


 


 



 彼女は気づいた。


 


 


 


 僕が何をしたのか。


 


 


 


 そして。


 


 


 


 何ができてしまうのか。


 


 



 指が、震えながら動く。


 


 


 


 「……あなたは、触れた」


 


 


 


 ああ。


 


 


 いい表現だ。


 


 



「そうだね」


 


 


 僕は答える。


 


 


 


「少しだけ、君の中に」


 


 



 その瞬間。


 


 


 セレナの表情が、はっきりと変わった。


 


 



 拒絶。


 


 


 恐怖。


 


 


 そして――


 


 


 


 “決意”。


 


 



 いいね。


 


 


 本当にいい。


 


 



「さて」


 


 


 僕は、少しだけ笑う。


 


 


 


「どこまで壊れるのか、試してみようか」


 


 



 その言葉に。


 


 


 セレナは、はっきりと首を振った。


 


 


 


 初めての“否定”。


 


 



 そして。


 


 


 


 彼女は、僕を止める側に回る。

ここで出てきた“指の動き”、全部意味があります。

ただし、まだ全部は明かしません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ