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正和時代の大日本帝国の現状

 夏の深夜。

 大日本帝国帝都を突如として襲った「敵国」からの大空襲は、帝国民にとってはそれこそ謂れのない不意打ちの暴挙でしかなく、誰もが喉もとに苦いものを、腸が煮えくりかえるものを感じていた。


 ――どうしてっ。

 ――どうして帝都が煉獄と化さなければならないのだ……っ。


 誰もがなぜと疑問に思うが、――それはちがう。

 あの大空襲は不意打ちでも奇襲でもない。

 あれは国際的、政治的、軍事的に再三非難を浴びようと自国の利権利益の保護と主張、明治維新後よりつづく中国大陸への領域拡大の妄執。

 先の世界大恐慌では経済産業が大打撃を受けたため、その影響から自国のすべてを立て直す活路政策として強硬に推し進めたために、自分たちにとっては良かれの事柄も帝国陸軍主体による中国大陸への事実上の進軍、目に余るその実態、それらの姿勢が国際社会を憤怒させ、大日本帝国に最終警告――制裁を加えたのが帝都大空襲というかたちになったのだ。


 ――そう、これは制裁。


 長きにわたる幕府時代に終止符を打ち、鎖国から開国を迫られ文明開化、明治維新を成し遂げ、そのまま欧米列強国にけっして取り込まれぬよう産業増強、軍備増強の大国主義を国策としてすすめ、その目覚ましい成長ぶりから驕りが目につくようになってきた大日本帝国に対する最終警告。

 あとになって思えば、それは一面正しい事柄でもあったが、見方によってはすでに強国としてある彼らの自国が最初の発展を遂げようと、富国強兵と歩んだ歩調と何ら変わりのない事柄でもあったが、彼らはとうに過去となった自分たちの出だしよりも他国の勇み足のほうがよほど目に余るらしい。

 とくに開国からわずか数十年で五大強国にまでのし上がった大日本帝国の未知なる発展が読めず、恐ろしくさえ思えていた。

 だが大日本帝国としても、列強国にどう思われようと神代よりつづく清廉な国土に対し、他の大東亜地域がすでに従属、植民地支配によって歴史も文化も蹂躙されているさまに置かれることだけはぜったいに阻止せねばならぬことであったし、まさに皇国の興廃がかかっていた日露戦争は国土に直截の戦火はなかったものの、つねにこのような列強国の領土拡張の脅威に怯えるわけにもいかず、ゆえに産業増強、軍備増強の富国強兵の歩みが国の最善策であり、永年平和の道であると信念を置いた。

 表面的にはそれも一面正しい事柄にも思えたが、そこにはどうしたって理想を現実にするための……現実的資源が乏しい島国ゆえの問題もあり、内実は日露戦争後膨張する利権や資源確保を求めて中国大陸への進軍支配に妄執する帝国陸軍、その強固な利権主張、つられて貪欲になる政策が国際的非難の対象となり、


「これ以上の強硬姿勢は世界を敵にまわすことになる。考えをあらためなければ、つぎは事実上の国際的孤立を覚悟せよ」


 というところにまで捻じれてしまい、大日本帝国が第一次欧州大戦後の軍縮会議の内容に眉間にしわを寄せれば名指しで非難され、国際会議で議題に難色を示せば輸出を制限するぞと脅され――国際連合議会が下した最終警告が帝都大空襲。


 ――だが、それほどまでに他国に疎まれていたなどと知る国民はほとんどいない。


 そして、その国際的非難を代弁行動に移したのが、米国――米国海軍大太洋艦隊。

 奇しくも、この時期すでに大日本帝国と米国は国際情勢の悪化がすすむなかで急速に外交関係にも険悪さが増し、どちらかが砲撃に有利な物事をひとつでもつかめば……という軍事的にも一触即発の気配さえ漂わせていた。


 ――それだけに……。


 かねてより帝国陸軍は日露戦争以降敵国をロシアと位置づけ、それに対して帝国海軍も仮想敵国として米国と極秘に定めていたため、じつのところ、帝国海軍はこの米国海軍大太洋艦隊による帝都大空襲計画を事前に察知することができてはいた。

 ただし。

 それは結論として「大空襲」を受けたかたちになったが、当初は「大襲撃」という意味合いで捉えていたため、近海沖合からの戦艦による砲撃戦法なのだろうと帝国海軍軍令部、聯合艦隊司令部はそう読んでいた。

 とはいえ、大太洋艦隊の計画実行日の一週間前ほどのことなので、情報を知ることはできても迎撃するにも綿密な作戦を立てる暇がなく、ましてや情報錯そうによる帝都混乱を回避するため極秘迎撃に向けた出航をしたくとも航路も日程も定まらず、下した決断もほとんど出たとこ勝負という運頼み。

 軍令部も聯合艦隊司令部もこれが現状なのかと自身の情けなさに極まったが、何があろうと帝都大空襲の事態だけはぜったいに阻止しなければならない。

 この状況は日露戦争時、黒海にあった当時最強の艦隊と謳われたロシアのバルチック艦隊が日本海側の極東軍港ウラジオストックを目指したときに、どの海路で日本に接近するのかを読み解くのに困難を極めた「対馬論」「宗谷論」に酷使しており、結果、大勝利を収めた日本海海戦の威光――のちに亡霊とも呼ばれるようになったが――が当時の帝国海軍の根底でもあったため、


「現在動かせる艦艇はただちに大太洋へと進路をとれ!」

「進軍する大太洋艦隊を海洋にて迎撃、艦隊決戦に持ちこみ、刺しちがえてでも全艦撃破せよ!」


 ――きっと、日本海海戦のように艦隊決戦になるはず。


 それを唯一の会敵方法として誰も疑わず、聯合艦隊は艦隊を三部隊に分け、大太洋艦隊の重要基地であるハワイ諸島はオアフ島にある黒真珠湾をすでに出航している敵艦隊を迎撃せんと向かった。


 ――その外洋部隊の長が、聯合艦隊司令長官。


 一二三(ひふみ)たち兄弟の父親である本山(もとやま)大将も聯合艦隊司令部旗艦《長門》に座乗し、自らを囮艦隊として大太洋を渡ったのだが……。


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