表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目目目  作者: 祇光瞭咲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/17

***

 夢を見た。

 それが夢の中で夢だとわかっていたのは、考えてみれば奇妙なことだ。それだけ不可思議な映像だったということもあるけれど、つまりは明晰夢だったのだろう。明晰夢とは、思考や記憶を司る前頭葉が半覚醒の状態で見る夢のことで、夢を夢だと自覚していることが特徴だ、とどこかで聞いたことがある。

 その夢の中で、史郎は真っ暗な道を歩いていた。

 目が慣れてくると、それは近所の住宅街だということがわかった。いつもの駅からの帰り道。昨日も歩いた馴染みの道だ。

 一目でそうと気が付かなかったのは、街にあるはずのすべての明かりが消えていたからだった。街灯はおろか、自販機の明かりひとつない。車は通っておらず、建ち並ぶアパートの数々も、ひっそりと闇に身を沈めている。

 史郎は歩く。

 スニーカーがアスファルトを踏み締める、軋んだ足音が響いている。

小石を踏めば、足の裏にその凹凸を感じた。夢にしては細部までリアルだなあなどと、呑気なことを考えた。

 ふと、史郎は何かの気配を感じた。

 振り返る。

 誰もいない。

 けれども前を見ると、再びその気配が蘇る。

 視線だ、と史郎は気付いた。

 何者かに見られている。それは史郎が歩くたびに同じように前進し、こちらが立ち止まると立ち止まる。

 気味の悪さから自ずと速足になった。それでも視線は振り切れない。終いには駆け足になり、史郎は無我夢中で暗い住宅街を走った。

 角を曲がる。

 視界が開けた。

 本来なら、そこにはスーパーマーケットがあるはずだった。がらんとした駐車場と照明を落とした店舗。空のカート置き場に、屋外で孤立したATM施設。そんな見慣れた光景が広がっているはずだった。

 ところが、夢の中のその場所は、ぼっかり空いてしまっていた。

 断崖だ。目の前には何もない。

 暗い淵が視界を横断するように横たわり、それまでに続いていた住宅街も、街路樹も、電線も、自販機も、何もかもを呑み込んでいる。

 史郎は恐る恐る崖に近づき、深淵を覗き込んだ。生温い風が吹き上がっていた。恵山寺で嗅いだあの香の匂いが、ほんのりと鼻先を撫で去った。

 シャン、と涼やかな音を聞いた。

 春祭りの行列で聞いたことがある、錫杖を突いた音だ。

 視界の右手に白く細長いものが映る。それは子犬ほどの大きさしかないのだが、淡く光り輝いていて、宙に足を着くたびに黄金の花が咲いた。

 龍だ。

 綺麗だ、と思う。

 手を伸ばしたいけれど、手を離したら転がり落ちてしまいそうで怖かった。史郎は龍が去るのを焦がれる想いで見届ける。やがてそれは筋となって消えた。

 龍がいなくなってしばらくすると、今度は左手から巨大な手が生えてきた。ぶくぶくと肉を帯びて醜く、黒々とした体毛を生やしている。それは闇の底から昇ってきて、史郎のすぐ目の前を通過した。間近で見て気が付いたことだが、体毛だと思ったものは餓鬼であった。

 史郎はその場に座り込んだ。天を見上げれば、真っ暗な世界を見下ろす者が在る。巨大な瞳がひとつ、この世界を監視していた。


「あ」


 急激な喉の渇き。

 眉間が痛む。

 何も見ない。見たくない。見てはいけない。

 御方は、目を開いて。


「あ、あ」


 史郎は。

 目を覚ました。


 暗い自分の部屋。窓の向こうを車のヘッドライトが過ぎていく。遠くでバイクが走る音がした。スマートフォンを見る。眩しい。時刻は午前三時五分。

 現実に戻ってきた。夢を見ていただけなのだから当たり前のことなのに、史郎は目を覚ましたという事実にむしろ驚いていた。

 額に触れる。

 傷が治りかけているような、こそばゆさが眉間のすぐ上に残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ