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目目目  作者: 祇光瞭咲


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12/17

6話中 亞慈那導会

 薄暗いリノリウムの廊下を進み、応接室というプレートが付いた部屋へと通される。然程広さはない中で、合皮のソファーが一式、無理矢理詰め込まれていた。


「こちらで少々お待ちください」


 そう言って小山は出て行った。

 足音が遠ざかるのを確認し、史郎はぐるりと部屋を見回した。

 建物に新しさはないから、何かの施設を居抜きで使っているのだろう。建物の材質や置いてあるものの古臭さは、自身が遥か昔に通っていた小学校を思い起こさせた。

 ぐるりと部屋を見渡した表紙に、扉の上に掛けられた額に気付いてギョッとする。そこには半紙に墨で黒々と目が描かれていた。紡錘形の中に塗り潰した黒丸を描いただけのシンプルな図案にもかかわらず、一度意識してしまうと見られているようで気味が悪くなる。


「なんだか……すごいところに来ちゃったな……」


 弥奈子は無表情なりに落ち着かない様子で、頻りに髪を耳に掛けていた。


「見た目は普通そうですけど」

「普通かなぁ? あの額縁はちょっと不気味じゃない?」

「縁起物なんじゃないですか。知りませんけど。でもとにかく、人はみんな親切に感じましたよ」

「詐欺師はみんな親切だって言うぞ」

「詐欺師って……。史郎さん。それ、宗教に対する偏見ですよ」

「偏見かなぁ。でもさあ、あの塀はなんかヤバい感じがしなかった?」


 弥奈子が答えなかったのは、つまり同意ということだろう。

 しばらく待っていると、小山が女性を連れて戻ってきた。

 女性はやはり文字の入ったポロシャツ姿で、白髪交じりの髪を肩口で切り揃えている。歳は五十を過ぎていると思われるが、キビキビした所作には年齢以上の若々しさがあった。顔のすべてのパーツが大きく、赤い口紅が印象的だ。


「こんにちは。遠くからお越しくださりありがとうございます。泉谷(いずみや)と申します」

「安宅です。よろしくお願いいたします」

「弥奈子です」


 史郎に倣い、弥奈子も小さく頭を下げる。あえて下の名前を名乗ったのは、史郎の血縁だと思ってもらいたかったのだろうか。泉谷は一瞬好奇心の混じった目で二人を見たが、すぐに感じのいい笑顔を浮かべた。


「どうぞお掛けになって。小山さん、お茶を」

「はい」


 小山が出て行く。彼が戻ってくるまでの間、泉谷は世間話を持ち掛けてきた。


「遠くからいらしたんですってね。お疲れさまでございました。今年は暑い日が続いておりますから、道中大変だったでしょう?」

「いえいえ。電車に乗っているだけなので、そんなでもありませんよ」


 史郎は汗を拭う仕草をする。


「ここは涼しいですね。空気もいいし」

「ええ、ええ。都会に比べたらねぇ。過ごしやすいと思いますよ」


 小山はペットボトルのお茶と紙コップを持ってすぐに戻ってきた。彼も泉谷の隣に腰を下ろす。


「では、わたくしからはまず、わたくし共がどのような集まりなのかをご説明させていただきますね」

「お願いします」


 泉谷は例のパンフレットを取り出した。広げて中のページを見せる。そこに描かれているのは観音像に似た神々しいイラストだ。


「わたくしどもは亞慈那様という神様をお祀りしております。亞慈那様とは、すべてを見渡し、真理を見据えるお方のこと。この会は、舞原(まいばら)というわたくしたちの導師が亞慈那様に見出されたことに始まります」


 続けて彼女は、ローテーブルの下段から分厚い書物を取り出した。赤い布の表紙には目を模したマークが刻印されており、小口は金で染められている。おそらく彼らの聖典なのだろう。


「亞慈那様は舞原を通してわたくしたちにこの世界の理を説き、やがて訪れる終焉について警告をくださいました。この本にはその警告の数々が収められてございます。この書に従い、わたくしたちは来るべき終焉の日に備え、修行によって日々精神を高めているのでございます」


 泉谷は言葉を止め、史郎の反応を待った。大きな瞳は何かを期待するように輝いている。史郎はやっとのことで言葉を吐き出した。


「……はあ」


 他に答えようもない。真理だか終焉だか知らないが、自分たちはそんな話を聞くためにここに来たわけではないのだから、そこにリアクションを求められても困る。


「つまり亞慈那様というのは……えっと、仏教の神様? になるんですか?」


 すると泉谷は首を傾げる。隣の小山も不思議そうな顔をしていた。


「いいえ? どうしてそうお思いになりました?」

「え……いやぁ、なんだかこの絵が観音様に似てるなぁと思いまして……」

「ああ」


 彼女は心得顔で頷いた。


「それは、一般の人々にわかりやすくするためでございます。亞慈那様自身は肉体を持ちませんから。見慣れたお姿として描いた方が、どなた様も親しみやすいでございましょう?」

「……なるほど。そう、ですか」

「ええ。亞慈那様は亞慈那様でございます」


 つまり様々な宗教のモチーフを繋ぎ合わせて、独自の教義を構築しているのだろう。詳しいことはわからないが、新興宗教なんてそんなものか、と史郎は思った。

 呆れていることを気取られまいとする一方で、ここに来たのは失敗だったという後悔が押し寄せる。史郎は申し訳ない気持ちで弥奈子を盗み見た。彼女は無感動な目で泉谷を見ている。

 これ以上宗教的な話題に触れる前に、さっさと本題に入ってしまおう。史郎は居住まいを正して切り出した。


「それで、その。俺たちは呪い……えっと、超常的な体調不良に困っているんですが。こちらで治していただけるというのは本当ですか?」


 泉谷はにっこりと微笑んだ。


「はい! その通りでございます」


 彼女の積極的な様子に、史郎はいささか気後れした。


「あの、それはどのように?」

「導師舞原の神通力でございます」


 胡散臭い。

 史郎は咄嗟に顰めてしまった顔を無理矢理崩し、ぎこちなく笑顔を取り繕った。


「それはすごいですね」

「ええ、ええ! 舞原の力は本物ですよ。何しろ亞慈那様に直接見出されたのですから。過去にも同様のご不幸を抱えた方を何人もお救いしております」

「え。何人も」


 それは少し心強いかもしれない。史郎は眉根を寄せて訊ねた。


「そんなに前例があるんですか?」

「もちろん。そりゃあ、わたくし共のところまで辿り着いてくださる方は限られてきますけれども。十は下らないと思いますよ」

「失礼ですが、こちらは何年ごろに創立されたんですか?」

「四年前でございます」


 それなら多い方なのだろうか。史郎には判断がつかなかった。

 しかし、大事なことはそれで実際に助かった人がいるということだ。はじめて解呪のための明確な手掛かりを得て、史郎は少しだけ元気を取り戻した。

 だが、事前に聞いておくべきことがある。史郎は咳払いをして口を開いた。


「大変申し上げにくいのですが、持ち合わせがあまりなくて……。費用はおいくらくらい掛かるものなのでしょうか?」

「費用だなんて、そんなそんな!」


 泉谷は大袈裟に両手を振ってみせた。


「困っている方を救うのは、神通力を授かった舞原の使命でございます。改めてお金を頂戴するなんてことは――」


 と言いかけて、彼女はにっこりと付け加える。白い大きな歯が虫のようだった。


「お気持ち程度で結構でございます」


 その「お気持ち」の金額が知りたかったのだが。

 史郎は苦虫を噛み潰したような顔を隠し切れなかった。


「まあまあ、詳しいことは直接舞原から聞いていただいて」


 泉谷は史郎の態度を気にする風もなく、場を仕切り直すように手を叩いた。


「本当はすぐにご案内差し上げたいのですけれど、ただいま舞原は瞑想の時間でございまして。夜には面会の時間を設けますから、それまでお待ちいただけますか?」


 それから彼女は弥奈子に微笑み掛ける。


「お腹も空いたでしょう? ぜひお昼ご飯を召し上がってらして」

「あ、ありがとうございます」


 答える弥奈子は膝の上で落ち着きなく指を動かしていた。

 泉谷の合図で小山が立ち上がる。彼は史郎と弥奈子にも付いて来るように言い、部屋を出た。史郎はソファーから見送る泉谷に会釈をし、部屋を出た。

 廊下はやはり薄暗い。節電のためか電気を点けていないのだ。窓から差し込む陽光が柔らかくリノリウムの床に反射していた。


「今日はお泊りになるでしょう? 先に荷物を……と思いましたが、お二人ともほぼ手ぶらですね」


 小山がこちらを振り返る。史郎は驚いて彼を見た。


「え、泊まる?」

「そうですよ?」


 小山はきょとんとして言った。


「導師様との面会は夕方ですし、そこからお祓いをしたら真夜中になってしまいますから。この辺りは終電が早いんですよ」

「あ、ああ……なるほど……」


 彼らは厚意でそう言ってくれているのだろうが、得体の知れない宗教施設で一夜を明かすのは恐ろしい。史郎はレンタカーで来なかったことを後悔した。


「ご心配には及びませんよ。宿泊設備は整っておりますから。宿泊費を請求したりもしませんしね」


 史郎の警戒心を読み取ったのだろう。小山は優しく笑い掛ける。


「それはどうも……」

「……史郎さん」


 つ、と弥奈子が袖を引く。彼女は史郎に身を屈めるよう要求し、耳打ちした。


「信じていいと思います。私は、この人たちを信用します」

「え? 本気か?」

「だって、ここに着いてから頭痛がまったくしないんですよ。史郎さんもそうなんじゃないですか?」

「ああ、まあ」


 確かにここの敷地に足を踏み入れてから、割れるような頭痛も額の違和感も消えている。このところ体を蝕んでいた重怠いものがなくなって、解放感すら覚えていた。

 史郎はてっきり山の清涼な空気のおかげかと思っていたが、弥奈子はそうは考えていないようだ。弥奈子は決意と期待の中に僅かに不安を滲ませて、ゆっくりと頷いた。


「神通力がどんなものかはわかりませんけど。頼ってみましょう」


 史郎は躊躇ったが、弥奈子がさらに付け加える。


「いいじゃないですか。呪いを解いてもらえるかは一旦脇に置いておいて、休ませてもらえるだけでも有難いです。頭痛のせいでずっと体が強張ってましたから」

「それはそうだな」


 史郎は不承不承頷いた。


「……わかった。他に手もないし、泊まらせてもらおう」


 小山が声を掛けてくる。


「話は纏まりました?」

「あ、すみません」


 聞かれていた。史郎は気まずさに頭を下げたが、小山は一切気にしていないようだった。朗らかに笑っている。


「不審に思うのは当然ですよ。あなた方は私たちがどのような集団かご存知ないわけですし、つまり初対面みたいなものですからね」

「すみません」

「いえいえ。それでは、先に本部棟からご案内しましょうね」


 小山は先に立って歩き始めた。

 本部棟と呼ばれるこの建物では、主に信者たちの集会や修行の実践が行われているらしい。二人はいくつかの部屋を見学させてもらった。

 とある部屋では信者たちが椅子を円形に並べ、皆で声を揃えて経らしきものを唱えていた。彼らの経には独特のリズムがあり、ゆったりと流れる調べはもはや音楽と言っていいだろう。特筆すべきは全員が目を閉じて暗唱していることで、彼らの集中力の高さが窺えると共に、声の波に身を委ねる姿は非常に心地よさそうに見えた。

 また別のある部屋では、一人ひとりマットを敷いて、ヨーガのようなことをしていた。バランス感覚が試されるような難易度の高いポーズもあれば、座るポーズにも様々なバリエーションがあるらしい。一部屋につきインストラクターが二人いて、信者たちに低い声で指導を囁いていた。

 どの部屋にも必ず例の墨で描いた目の絵が飾られており、また正面には簡易の祭壇が設えられていた。祭壇の細部までは確認できなかったが、小さな像を囲むように沢山の花が供えられているようだ。

 一際異様な雰囲気を醸し出していたのは、礼拝堂と呼ばれる場所だった。五十人ほどが収容できる長方形の部屋で、木製の長椅子が何列も並ぶ様はキリスト教の教会を思わせる。

 しかし、その部屋はあまりに物がありすぎた。出自不明の異国の神の像が列をなし、眷属らしき動物たちが足元に侍っている。それらはすべて様々な天然石でできており、また大小の造花が隙間を埋め尽くしているため、ありとあらゆる色が混ざり合ってモザイクのようになっていた。

 その雑多な中に、紡錘形のシンボルが散りばめられている。統一されたデザインはなかったが、それらすべてが目を模していることは瞭然だ。丁寧に色をのせられたもの、墨で描いただけのもの、点描、切り絵、彫刻、折り紙など、ありとあらゆる方法で目を形作っている。

 祭壇には、高さ二メートルはあろうかという亞慈那の坐像が安置されていた。ゆったりした衣と宝石を纏い、二対の赤い腕を躍らせる亞慈那像は、インドの神々からの影響を色濃く残していた。材質は木だろうか。ところどころ原色で塗られているため、神々しさよりも安物っぽい感じが強く出てしまっている。坐像の上部には、左右で対になるように巨大な目を描いた垂れ幕が掛けられていた。

 改めて亞慈那像を前にして、史郎が注目したのは、亞慈那の額に開いた第三の目だった。どうやら水晶玉が埋め込まれているらしく、目玉の中には奥行きがあった。亞慈那は目を閉じて薄い微笑みを浮かべているが、額の瞳だけは大きく見開いてこちらを凝視している。それはあたかもこの世の悪事をすべて見透かさんとしているかのようであった。


「何か気になることでもありますか」


 しげしげと亞慈那像を見上げる史郎の隣に、小山が立った。


「ああ、いや……亞慈那様には目が三つあるんだなと思いまして」


 すると小山は嬉しそうに答えた。


「そうなんです。それこそが真理を見つめる第三の目。慧眼と呼ばれるものですよ」

「慧眼?」


 慧眼といえば、仏教用語ではなかったか。

 史郎が怪訝な顔をしていることを見て取ると、小山は熱心に頷いた。


「人知を超えた世界を見るための目です」

「それは……」


 宗教的に失礼に当たらないか躊躇いながら、史郎は自身の眉間に手を触れた。


「俺たちが悩まされているこれと何か関係があるんですか?」

「そうですね。詳しいことをお知りになりたければ、ぜひ舞原導師にお訊ねになってください。その方が、私がご説明するより深くご理解いただけると思いますよ」

「はあ……。わかりました。そうします」


 史郎は礼拝堂の中ほどで立ち止まっている弥奈子に呼び掛けた。


「弥奈子ちゃん? なんだ、その絵が気に入ったのかい」


 彼女が見ていたのは水彩画だった。空の部分に人の目が大きく描かれている点を除けば、おかしなところはないように見える。中央に泉があり、水連が咲いている。大きな角のある鹿が水を飲みに来ている。周囲の木々も多種多様な花を付けており、蛍や蝶が飛んでいる。写実的というよりは幻想的な世界を描いたもののようだ。


「私、この絵の景色を夢で見ました」


 そう言う弥奈子は自分でも確信が持てないようで、眉間に皺を寄せている。


「夢で? それは――」

「呪われてからずっと見ている、あの明晰夢で」


 史郎は驚いて水彩画に向き直った。言われてみれば、この独特な世界観は史郎が見てきた夢に通じるところがあるかもしれない。


「ああ。それは舞原導師がお描きになったものなんですよ」


 小山が二人の肩越しに覗き込んだ。


「この絵は舞原導師がご覧になった超常の世界を描いたものだそうです。導師曰く、この泉の先に境界があって、亞慈那様のおわす地に繋がっているのだとか」

「……へえ」


 史郎と弥奈子は目を見合わせる。これは舞原という人物に詳しく話を聞いてみなければ、と思った。

 本部棟の裏手には渡り廊下があった。廊下は途中で二手に分かれており、それぞれ男子寮と女子寮に繋がっている。また、渡り廊下からは裏庭が望め、小さな畑と、滝行をする信者たちの姿を見ることができた。


「すごい。滝がある」


 史郎が呟くと、小山が照れくさそうに言う。


「あの滝は人工ですけどね」

「あ、そうですか」

「ですが、裏山から神聖な清水を引いてきています。毎日あの水を飲み続ければ、簡単な病気なら立ちどころに治ってしまうんですよ」


 史郎は返答に詰まり、とりあえず「はあ」と答えておいた。

 本部棟の見学が終わったので、二人は今晩泊まる部屋へと案内された。それぞれ男子寮は小山が、女子寮は石井と名乗る女性が案内を務める。石井は小山と共に松坂家を訪問していたうちのひとりだ。


「えっ。別室ですか」


 弥奈子と棟が分かれると知り、史郎は思わず声を上げた。途端に石井から疑うような視線が突き刺さる。史郎は自分が酷い勘違いをされていることに気付き、大慌てで首を振った。


「誤解です、誤解です! ただ、未成年を見知らぬ場所でひとりにしたくないと思って……。せめて隣室にしていただくことはできませんか?」


 石井は理解を示しつつ、困った顔で首を傾ける。


「ご心配されるお気持ちはわかりますが、異性を寮に入れることは風紀の乱れに繋がりますので……」

「大丈夫ですよ、史郎さん」


 弥奈子は珍しく愉快そうにくすくすと笑っていた。


「何かあったらすぐに連絡しますから」

「うぅん……まあそれなら……」

「ああ。それなんですけれども」


 言いにくそうに小山が切り出す。


「こちらにお泊りいただく間は、スマートフォンなどの記録が可能な電子機器をお預かりさせていただいているんです」

「えっ! どうしてですか」

「過去に盗撮されたことがありまして」


 どうやらオカルトライターだか動画配信者だかの人間が入信希望と偽って侵入し、勝手に施設内の情報をネットで公開しようとしたことがあったらしい。

事情はわからないでもなかったが、外部との連絡手段を奪われるのは、はっきり言って不安だった。


「お渡しいただけますか」


 小山が手を差し出す。弥奈子は素直にスマートフォンを渡していた。史郎はしばらく渋って見せた挙句、仕事用のスマートフォンを渡した。


「ご協力ありがとうございます。他にはお持ちではありませんか」

「それだけです」

「ありがとうございます。では、お部屋にご案内いたします」


 史郎は小山に付いて行った。

 宛がわれたのはユニットバス付きの個室だった。狭い部屋にベッドと書き物机が押し込められており、まるでビジネスホテルのようだ。寮に居住している信者たちは風呂もトイレも共用だそうだが、この部屋は来客のために特別に備え付けられていた。


「お食事をお持ちしてもよろしいですか?」

「お願いします」


 部屋で待っていると、小山はすぐに食事を運んできてくれた。千切りキャベツが添えられた生姜焼きに、味噌汁と白米。シンプルだが、手料理らしい安心感のある味わいだった。

 腹を満たすと、途端に睡魔に襲われた。昨晩はほとんど眠れなかったし、なんだかんだと疲れが溜まっている。こんなところで寝てはならないと思いながらも、瞼を閉じずにはいられなかった。




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