第2話:新しい居場所と、最初の一歩
翌朝。
ギルドの掲示板前で、俺は少し落ち着かない気持ちのまま立っていた。
「緊張してる?」
隣から、低く澄んだ声がする。
セリスティア――セリスは、剣を背負ったまま、いつもと変わらない表情だった。
「まあ……少しだけな」
本音を言えば、かなりだ。
追放されてから一夜明けて、頭では理解しているつもりでも、心はまだ追いついていない。
「無理に気負わなくていい。今日は軽めの依頼だから」
そう言って、セリスは掲示板から一枚の依頼書を剥がした。
――《薬草採取と周辺魔物の討伐》。
単純で、安全度も高い。
新しく組んだパーティの“様子見”には、ちょうどいい内容だった。
「他のメンバーは?」
「すぐ来る」
言葉通り、少し遅れて柔らかな足音が近づいてきた。
「おはようございます……!」
控えめに頭を下げた少女は、淡い金髪に白を基調としたローブ姿。
胸元には聖印が下げられている。
「この子が、回復担当のミレイナ。少し人見知りだけど、腕は確か」
「み、ミレイナ・フェルシアです……よろしくお願いします」
緊張で肩が強張っているのが、はっきり分かる。
「カイゼルだ。こちらこそ、よろしく」
できるだけ柔らかく返すと、ミレイナはほっとしたように息をついた。
……なるほど。
この子も、たぶん“強くはあるけど、扱いが雑だった側”だ。
⸻
依頼地は、街の外れにある小さな森だった。
「陣形は……」
「前は私。後衛はミレイナ。カイゼルは中央で」
セリスが即座に指示を出す。
だが、その配置に、俺は小さく首を振った。
「少し変えたい」
二人の視線が集まる。
「この森、地形が緩やかに傾いてる。魔物が出るなら左側が多い。
セリスは少し左寄り、ミレイナは岩陰を使って」
一瞬の沈黙。
「……分かった」
セリスは理由を聞かず、配置を変えた。
その判断の早さに、胸の奥が少しだけ温かくなる。
数分後。
「――来る」
俺の言葉とほぼ同時に、茂みから魔物が姿を現した。
「数は三。右一、左二。左奥が少し遅い」
自分でも驚くほど、口が自然に動いていた。
セリスは無駄のない動きで左へ踏み込み、
ミレイナは指示通り、魔力を温存したまま待機する。
戦闘は、驚くほどあっさり終わった。
「……楽だった」
剣を納めながら、セリスがぽつりと言う。
「いつもより、疲れてない……」
ミレイナも、目を丸くしていた。
「無理をさせてないだけだ」
そう答えると、二人は顔を見合わせ、
それから――俺を見た。
「……カイゼル」
セリスが、ほんの一瞬だけ視線を逸らす。
「これからも、その……指示、頼んでいい?」
その言い方が、妙に慎重で。
胸の奥が、また少しだけ揺れた。
「もちろん。できる範囲で」
ミレイナが、そっと近づいてくる。
「あの……さっきの戦闘のあと、魔力の流れがすごく楽で……
こんなの、初めてです」
距離が、近い。
気づけば、肩が触れそうなほどだった。
「それは……よかった」
少しだけ視線を逸らすと、
ミレイナは照れたように微笑んだ。
――追放されたはずなのに。
不思議と、今の方が呼吸がしやすい。
このパーティで、
もう少しだけ、やってみてもいいのかもしれない。
そんな考えが、
胸の奥に、静かに根を下ろし始めていた。




