第1話 私は、三日後に断罪される
私は、三日後に断罪される。
だから今日も、王宮の執務室で帳簿を整理していた。
「……ここ、税率が間違っていますわね」
赤字で修正を入れ、静かにため息をつく。
これで今月分の赤字は、ぎりぎり表に出ない。
――本来なら、褒められてもいい仕事だ。
けれど私は、悪役令嬢。
公爵家の娘で、王太子の婚約者。
そして物語の中では、必ず断罪される役割を与えられている。
「アリアンナ様、また残っていらしたのですか」
心配そうに声をかけてきたのは、若い文官だった。
「ええ。これを終わらせてから帰りますわ」
「ですが……」
「大丈夫。慣れていますから」
そう言って微笑むと、彼はそれ以上何も言えなくなる。
皆、知っているのだ。
私がどれだけ働いても、
どれだけ王国のために尽くしても、
評価されないことを。
***
ヒロイン――リュシアは、今日も人気者だった。
「まあ、リュシア様は本当にお優しいのね」
「殿下と並ぶと、とてもお似合いだわ」
廊下の向こうから、楽しげな声が聞こえる。
彼女は善意の人だ。
少なくとも、本人はそう信じている。
けれど彼女の「優しさ」は、
いつも後始末を誰かに押し付ける。
無計画な施し。
感情だけの約束。
責任を取らない理想論。
それらを黙って修正し、
現実に落とし込んできたのが――私だった。
(……でも、それも終わり)
三日後、私は断罪される。
理由は決まっている。
ヒロインをいじめた。
嫉妬した。
悪役だった。
どれも、物語としては正しい。
だから私は、抗弁しない。
泣かないし、縋らないし、
「本当は違う」なんて言わない。
***
帳簿を閉じ、立ち上がる。
窓の外では、夕陽が王都を照らしていた。
(この国は、私がいなくても回ると思っているのでしょう)
それなら、それでいい。
私はすでに、
“断罪された後”の準備を終えている。
三日後。
王太子は気づくだろう。
ヒロインも、貴族たちも、官僚たちも。
――誰が、本当に国を支えていたのかを。
私は、悪役令嬢。
でも。
間違っていたつもりは、一度もない。




