84 話題にすることではなかった
昼休み、学生食堂。
教職員専用席と札の置かれた席もあるが、たいていは先客がいる。
学生と同席することも多いが、今日は入り口近くの一人ないし二人用の丸テーブルに、チキンカレーのプレートを置いた。
会釈する学生もあれば、わざわざ声をかけてくれる学生もいる。もちろん、無視して通り過ぎる学生も多い。
長身の大男が前に座った。
「よう」
大学の企画部、部長職のヨウドウ(酔う堂)。高校時代からの親友だ。
この男の紹介でこの大学で教えることになった、いわば恩人。
「どうだ、調子は」
友はC定食のプレートをテーブルに置くと、早速、白身魚のフライにかぶりついた。
「まあ、ぼちぼちかな」
「授業がか? それとも本業の方か?」
「両方。ついでに競馬もな」
大学の給料だけでは食っていけるはずもないし、つもりもない。
独身で、持っているものといえば事務所兼自宅のマンション一室のみ、とはいえ、他の稼ぎがなければ生きていけない。
「競馬でバンと当たれば、ここともおさらば、そうよく言ってたな」
「まあ、ありえないことではないさ。が、今も昔も、夢のまた夢」
「で、内装デザインの方は?」
友は気遣ってくれる。
長い不況のせいで、個人事務所は干上がってしまっている。
「ところで、おまえの娘な。アイボリー」
話題を変えよう。
景気や業界の話をしても、愚痴になるだけ。
「どうかしたか?」
この呑み助でちゃらんぽらんな男によくあんなできた娘が、とは言わない。
実際、ヨウドウには自慢の娘なのだ。
「どうもしない。よく励んでいる」
「いつもすまないな。気遣ってくれて」
「いや、気遣いなんて、なにもしてないさ」
言い出しておいて、何を話せばよいのか、迷った。
本当は話題にすることではなかった。
たとえ、アイボリーがあの事故、いや、今や殺人事件に昇格となったノーウェの死に、わずかとはいえ関わりがあることなど。
しかし、あえて友に聞いた。




