7 胸騒ぎがする
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妖にとっても雨はおっくう
身体が濡れる
気は滅入る
妖力は薄れる
雨に打たれてまどろみもできやせぬ
教室に入っておってもよいが、中には、ワレを厳しい目で見る女子が何人もいる
ミリッサという男の見張り
このお役目の意味が、少しだがわかってきた
ワレラと同類になるときを見逃すな、というわけだ
そして異常な行動をせぬかどうか、見ておれというわけだ
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三限、四限と、いつも通り進む。
雨のため、裏山行きは中止。
誰からもブーイングはない。
唯一、ミャー・ランががっかりした顔を見せただけ。
メイメイと目が合うと、つい一昨日、あの神社で聞かされた話が蘇ってくる。
だが今、メイメイは何食わぬ顔でデザイン演習に取り組んでいる。
彼女は彼女なりの取り組み方で、頭をひねりペンを動かす。ただそれだけ。
あくまでいつも通り。
一緒に下校する約束のあるミャー・ランも同じ。
ただ、今日のミャー・ランとの下校。
単に、一緒に帰ろうね、というシンプルなプチ・アトラクションではないだろう。
きっと、とんでもない話を仕掛けてくるに違いない。
なにしろ、いつもと趣が違う。
黒装束。まるでくのいち。
いつも黒っぽい服を好んで着る学生だが、今日、それは徹底されている。
首元から足首まで、しかも靴まで黒ずくめ。
フェアリーカラーの髪に似合っているのかどうか。
胸騒ぎがする。
だが、今は授業中。
集中しよう。
いずれも、論という名が授業名についているが、デザイン演習要素を含んでいる。
学生たちがプチ演習に取り組んでいる机の間を歩き回り、その場でアドバイスを与えていく。
時には、自ら学生たちの演習用紙に書き込んでいく。
例えば、こういう形状はどうだい、こういう構成の方がよくないかい、ほら、こうやって描くとテクスチャーが、というわけだ。
前から横から後ろから、年頃の娘さんに接近するわけだから、身体に触れないよう、いらぬ方向に目がいかぬよう、気をつかう。
胸元を押さえる学生もいるが、概して無頓着だ。
四限終了のチャイムが鳴った。
デザイン演習のプリントを回収し、教室を出ていく学生たちに挨拶を返し、少しずつ後片付けを始めながら、教室に居残る学生たちを眺めた。
演習は決められた時間内に終わること。
これがモットーであるし、それが実社会に出た時にも役に立つ。
しかし、あと少しだけやらせて、もう少しで完成するから、と言う学生からプリントを奪い取るわけにもいかない。
テストであれば別だが、日々の訓練なのである。
メイメイとランはさっさと出ていってしまい、残るは一人。
彼女が一緒に下校を、と思っているなら、ランとバッティングする。気まずいことにならねばいいが。
が、そこそこのところで満足したのか、ものの十分もしないうちに提出して出て行った。
後は、一人で教室の整理整頓。
窓の外は雨。
しかも土砂降り。
誰かに見られているような気がして、ブラインドも閉めた。




