54 歳の差なんて関係ないんだから
フウカはいつものように予想紙は持たず、レーシングプログラムとパドックの馬とを見比べている。
フェンスに頬杖をついていたジンが、フウカを振り返った。
「フウカ、アイボリーの実家、どうだった?」
この週末、金曜土曜と、ミニ合宿だった。
サークルの秋シーズンの始まりに先立つ懇親のための旅行。
北陸の温泉宿に一泊二日。
今朝早く、用があるというフウカとホテルの前で別れ、始発列車で帰京し、競馬場に直行してきたのだ。
しかし、フウカはパドックから目を離さない。
「実家じゃない。住んだことないんだって。昨日、言ったじゃない」
どことなくつれない返事。
「ねえ、用はなんだった?」
「興味ある?」
「ない」
「でしょ。それよりジン、パドックはもういいの? もう決めた?」
ジンが突き出したプログラムには、◎○▲などと乱暴に書いては消し、されてあった。
「買い目は?」
「これ」
ページの下に、大きな文字で3-5Wなどと書かれてあった。
「ね、フウカ、でなにか、発見は?」
「また? だから、興味ある?」
「ない」
フウカは四回生。
ひとつ下の学年のアイボリーと仲が良い。
前もって約束してあったようで、彼女の用事に付き合ってやったらしい。
アイボリーの祖母が住んでいた古い家に向かうと聞いていた。
「アイボリーはもうとっくに競馬場に来てるし。フウカ先輩、何してたんです? 着替えて遅くなったとか?」
ジンはしつこい。
「先輩って呼ばないで。競馬じゃ、歳の差、関係ないんだから。私は私で、ちょっと寄り道。いい? パドックに集中させて」
フウカが言うように、先輩後輩の関係をサークルに持ち込むことを禁じている。
三回生と四回生のみのこんな小さな所帯。
いかなる形でも上下関係が生まれることは好ましくない。
しかも、競馬。誰が勝者となるか、その日の運次第。
フラットな関係でいるに越したことはない。
ジンもそれはよく理解している。
フウカはサークルの部長。率い、まとめる立場だ。貫禄もある。
つい「先輩」と呼んでしまうのも、しかたのないこと。
と、渋い声がした。
「警察が来ている」




