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52 おばあちゃん子

「さあな。そんな感じはないぞ。もう、気にしてないだろ」

「なら、いいんや」

「ん? 何か、あるのか?」

「いや」


 警察が再捜査を始めたことも、競馬サークルで「ケイキちゃん殺人事件」なるものの調査を始めたことなど、この友に話すことではない。

 もし、アイボリーに再度の事情聴取が行われることになっても、きっと彼女には、改めて話すことなど何もないだろう。

 ただ、彼女の気持ちに波風がまた立つかもしれない。ただ、それだけ。



「そんなことより」と、友は言う。

「実はな」

 娘が最近、時々言うのだという。

「悔しがってるようなんだ」

「ほう。何を?」


 俺の母親、アイボリーの祖母が自殺したんだ。

 昨年のことだ。

 それを思い出して落ち込むことがあるようなんだ。

 お祖母ちゃん子でな。

 たまにしか会わなかったのに。


「おまえには昔、話したことがあると思う」


 ヨウドウの家系には小さな秘密がある。

 そんな話を学生時代に聞いたことがある。


「おまえのお母さん、はその、離縁された、って話か?」


 ヨウドウは言い出しておきながら、話すべきかどうか、迷ったようだ。

 いつも大きなガラガラ声で話す男だが、声を潜めようとしている。

「そう……、それなんだが……」

 箸を置き、髭剃り跡も青黒い、いかつい顎をさすった。



 昔のことだ。今更、なにが言いたいのだろう。

 何十年も前に離縁された母親が、昨年、自殺した。こんな話を聞いたところで、楽しい話ではないし、もちろんなにか力になれる類のことではない。

 大の大人の愚痴、なのだろう。


「自殺の理由が分かったというんだ」

 と言われても、頷くよりほかない。


「アイボリーが、か?」

「ああ」




 ここ数年、高齢者の自殺死が急激に増えている。

 世間は無関心であるばかりか、好感する風潮さえある。

 社会を構成する人口ピラミッドが極端に歪な形となり、社会経済における高齢者福祉の負担があまりに膨れ上がっているからである。



「娘を気にかけてくれて、俺は感謝している。娘の様子に、もし何か、変わったことがあるなら、そういうことじゃないかな」


 結局、ヨウドウは母親の死について、それ以上は語らず、いつになく口数少なく食べ終えると、プレートを持って立ち上がった。

「なにかあったら、また話すよ」


 箸やフォークは再利用の専用箱に、食器は流水で洗ってベルトコンベアーに、プレートはそれ用のテーブルに。


「ありがとう。次回の同窓会なんだが」

「それはまた今度。今から、部活がある」

「そうだったな」


 友は話し足りなさそうだったが、すでに、広い食堂の奥にフウカのワンピースが見えていた。

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