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49 いわゆる顔パスというやつ

「具体的な行動を決めた方がいいかなと。その方が、意見が出やすいかなって」

「そうだね」


 と言っているうちに、大学に到着した。

 フウカは、さっさと車を降り、振り返りもせずに歩き去っていく。

 これでいい。

 先生と学生が一緒のタクシーで登校した図は、どう見ても褒められたものではない。

 特別な関係が、などと妙な噂が立たないとも限らない。


 おはよう、という声があちらこちらから聞こえてくる。

 ちょうど、学生でぎゅうぎゅう詰のバスも到着した。

 フウカはその群れにたちまち紛れ込んでいった。

 守衛の老人が、ちらと目を向けてきて、遠くからでもはっきりわかる会釈をよこしてきた。



「振りますなあ」

 守衛が手招きをしている。

「先生、ちょっと見て欲しいものが」


 大学構内に入る場所はこの正門のみ。

 裏山からも入れないことはないかもしれないが、そんな物好きはいない。

 当然、この筋肉質でメタボ気味の守衛に見られず構内に入ることはできない。

 女子大である。

 特に男性には厳しい目が向けられるし、教師陣であっても、入構時に身分証の提示と全身スキャンが求められる。

 とはいえ、スキャンは守衛室手前のエリアで自動的に行われ、身分証提示は、守衛との親密度によって対応は異なる。

 旧知となれば、いわゆる顔パスというやつだ。



「お急ぎでなければ」

 誘われて、守衛室に入った。


 二限の授業開始のチャイムまでもうあまり時間がないことも分っていながら、守衛はデスクの引き出しを開けて何かを取り出してくる。


 ライトウェイ(灯路)。

 六十は過ぎていようが、洒落た名をつけたものだ。


「見ていただこうと思って」

 ノートパソコン。

 立ち上がるのがもどかしい。

「帰りに寄りますよ」


 心惜しげな目線を送ってきたが、あっさり引き下がった。

「紅焔山で見つけたんですよ。アケビの実。まだ口は開いてないけど、来週には」


 植物好きの守衛である。

 教えている科目の中に植物を扱う授業があり、それを知ったこの男と親しくなったのだった。


「じゃ、後ほど」

「今日のシフトは五時までなので」

 守衛はそれまでに来て欲しいと付け加えた。

「じゃ、その頃までには」




 六甲の山麓、住宅街の北端。

 この先は入り組んだ山肌に様々な動植物が棲むエリア。


 その境界線上、等高線に沿って東西に延びる校舎群。

 その中央に口を開ける正門をくぐっていった。

 駆けだしている学生たちに混じって。


 東西には広いが南北に奥行きのないキャンパス。

 いつものように色とりどりの花が咲き、レンガ色の世界に彩りを与えていた。

 雨に濡れ、さらに彩度を際立たせて。

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