47 縁起でもない
あれから三ケ月か。
そんな言葉が口から出かかったが、そのバイトをずっと続けているアイボリーに言っていいことではない。
「朝早くから大変だな」
「でも、仕事ですから」
屈託なく、
「学部の先生」と、同僚らしき女の子を紹介してくれる。
同じ大学の学生だろうか。見覚えはない。
この同僚君、人当たりは良さそうで、
「競馬サークルですか?」と話しかけてきた。
「どう? 君達も」
「うーん、土日は全部バイトで詰まってますし」
まんざらでもない笑顔を見せつつも、そんな気はないのだろう。
「アイボリーは? ジンが喜ぶと思うけどな。今日だけでも付き合ってあげたら?」
「ええ。でも、バイト中に馬券買うわけにもいかないし」
「いや、バイト終わってから」
くどく聞こえたのか、アイボリーは視線を泳がせた。
聞けば、午後から夜にかけては、場内にあるプチカジノ型遊園地「ポーハーハー・ワイ」で、誘導係のバイトがあるらしい。
後で覗いてくださいね、と手を振るアイボリーを見送った。
と、背後から視線を感じた。
老人。
今時珍しく、壁際に新聞紙を敷いて座り込んでいる。
目が合った。
また、こいつだ。
痩せて皺だらけの男。左目が開いていない。
六十代だろうか、七十を超えているだろうか。
よれよれの作業服姿で、足を引きずるようにとぼとぼ歩く白髪を、何度も目にしている。
なぜか、目が合うこともしばしば。
縁起でもない。
あわてて目をそらした。
馬券購入締め切りまでもう時間がない。急がねば。
背に灰色の右目がまだ追ってきているのを感じた。




