43 いわゆるビギナーズラックってやつ
なぜ外れたのか、あれこれ推察しても意味はない。
競馬解説者でさえ、外した予想の顛末は語らない。
圧倒的に外れた方が多いのだから。
サークルのルールとして、馬券はひとり一日最大三十六枚百円ずつと決めてある。日に五千円も賭けることはご法度。
普段、全員が最大の三千六百円を投入しているし、顧問であっても同様だ。
一レース三百円。
これを減らして、重賞レースのみ五百円という配分はOK。
当てればよいということではなく、あくまで今日一日競馬を楽しむというスタンスは譲れない。
一レース数枚の勝馬投票券で的中を楽しむということになる。
「メイメイ。今日、馬券は買った?」
「はい。馬連を。当たりました」
今日から入部のメイメイにフウカが気遣ってやっている。
実際のところ、フウカよりメイメイの方がかなり年上だと思うが、皆、年齢には無頓着。
しかもメイメイ、時として見せる大人っぽい表情は別にして、控えめで目立たない存在。
今も、小さな低い声で受け答えしている。
「よかったね! 何レースめ?」
「当たったのは第五レースのメイクデビューです。買ったのはそれとメインレースだけ」
「へえ。五レースは配当千円以上あるね。メインレースも当たったの?」
「いいえ。そっちは全然」
「でも、十分な回収率ね。二倍以上」
「ありがとうございます」
「ミーティングでは、購入理由、的中理由をみんなで考察するのよ。じゃ、メイメイ、その馬連が的中した理由、なんだったと思う?」
「ええっ! 私から?」
「誰からでもいいのよ。特に意味はないから」
フウカの進行は流れが良い。
時に無駄話も混じるが、恒例のテーマはさっさと終えてしまうのが彼女の流儀。
「たまたま。いわゆるビギナーズラックってやつ、です」
「それじゃ、考察にならないよ。買った理由が何かあるでしょ。それともコンピューター馬券?」
「あ、そういうことなんですね。そうですねえ……、私、体、小さいでしょ」
牝馬しか買わないと決めていたという。
「一番馬体重の軽い子にしようと」
「なるほど」
「三百キロ台の子が二頭いたから。それだけ。参考になった?」
「なるか!」と、ジンが笑い出す。
「メインレースも同じ理由?」
「まあ、そうです。でも、ダメ」
「それ以外の理由、なにかあった?」
「ないです。パドック見て、なんとなく。オッズは無視。ジョッキーも無視。前走がどうのこうのも無視。当たるはずないです」
「ううん。オッズを無視せず、ジョッキーも考慮して、前走の成績も見たからって、当たるはずもなし」
「重馬場得意とか、右回り得意とか、輸送が有る無しとか、も知っていたからって当たらないですよね」
「あら、メイメイ、案外、詳しいんだ」
「言葉だけ、です。ずっと競馬場でバイトしてるし。耳年増」
「そうかあ、馬体重の最も軽い子。そんな視点もあるかもね」
「増減は意識する人、多いけど」
ミーティングと言えど、所詮は単なる感想や愚痴の言い合い。
「いつも、そのブローチつけてるよね。葉っぱのやつ。それって、なに?」
「これ? お守りみたいなもん」
「幸運の?」
「そんなんじゃないけど」
緑色の服に緑のブローチでは、赤毛の人が赤い帽子を被るようなもので、あまりピンとこないが、メイメイなりのこだわりもあるということ。
ジンらも、突っ込むことなく、雑談はコロコロと転がっていく。
「髪型、ウルフカットっていうの? おしゃれ」
「へへ。ジンの編み込みも。モノトーンの服に編み込み、このギャップがかわいい」
「それ、褒めてる?」
もしかすると、ジンとメイメイ、今日初めて話すのかも。
これでいいのだ。
サークルR&Hは、競馬は楽しむためのもの、というスタンスを貫いている。
競馬は楽しみのための軸であって、枝葉はいくら茂ったっていいのだ。
競馬に対するこの考えが揺らぐことはない。
「今日もルリイア先輩、帰って来なかったね」
ミーティングもそろそろ終わりだ。
ジーオが差し入れてくれたものも、ほぼ胃の中に落とし込まれた。
「メイメイ。サークルのルール」
「パドックを見る。でしょ」
「うん。それはポリシーかな。自由時間に誰かを拘束しない。先輩後輩の区別なし。敬語なし。私は今、部長だけど、だからといって立てる必要なし。いい?」
「はい。わかりました」
「微妙にダメ。その言葉遣い、NG」
「あ、はい。なるほど」
「慣れてね。もちろん、先生や卒業された先輩方は別よ」
さてと、帰るか。
「先生、今日もありがとうございました」
と、立ち上がりかけたジンをフウカが押し留めた。
「ちょっと話があるのよ」
座り直したジンの瞳に期待がキラキラと現れた。
「楽しみ。どんな話?」
フウカは咳払いでもしそうなほど背筋を正し、まっすぐ見つめてきた。
「先生、ノーウェ先輩のことなんですけど」




