269 あまり見せびらかすのも
今度は猫の姿になって現れたラン。
小さな黒猫。
最初からこうしてくれればいいものを。
「どうどう? て、見せびらかすのも、ミリッサの目に悪いかもって」
どうでもいいことを言ってないで、俺の顔をよく見ろ。
作戦はノーだと書いてあるだろ!
「作戦のあらましはこう」
ランよ。なぜ気づかない。
「明朝四時に決行。今から五時間二十分後」
もしや、こいつがやりたいのでは?
猫の尻尾は高く上がり、先がピクピクしている。
目はキラッキラだ。
「それまで、絶対に何もやらかさずに、ここにいてや」
そうか、九尾の狐がやりたいのかも。
「作戦の前に、私はここに来るから安心して」
あるいは、妖怪界にとっても久しぶりの作戦とあって、盛り上がってるとか。
「トイレは済ませておいてよ。一気にお屋敷まで走るから」
やはりな。
まずは妖怪村でお館様とお目通りだ。
「参加要員は私も含め七人衆。強力の者もいるし、麻痺毒を持った者もいる。糸を吐いて人を縛り付ける技者もいる。これ以外に、例の龍と狸とカワウソ他数名。サイバーチーム数名。姿のない妖怪も連絡要員として参加」
そうそうたるメンバーで結構だが、警察署が血の海や毒の海、火の海、ネバネバの海にはならないだろうな。
「それぞれの役割もきっちり決めた。うまくいかなかった場合の迂回作戦も決めた。失敗時の撤収作戦も詰めておいた。万事、抜かりなし」
そうじゃなく!
「総指揮官は私。ここから指令を出す。妖たちには私がどこにいても、私の指示が受け取れるようにしておいた」
それは、安心だ。
しかし、俺の顔をよく見ろ!
いやだと言ってるだろうが!
ラーーーン!!
「あれ、ミリッサ、まだ不安?」
そうじゃない!
「いざとなれば、ビルごと吹っ飛ばしてでも助け出すから」
そうじゃない!
「人は殺さない。かすり傷くらいはするかもしれないけど。そこは大目に見てよ」
だ・か・ら、違うと言ってるだろうが!
「突入隊の各人の動きは、説明しなくてもいいやんね。ミリッサはここでじっと待ってればいいから。予定では突入後、一分以内に到達見込み」
く!
黒猫が消えた。
開始十分前に来る、と声が聞こえた。
つまり午前三時五十分。
えらいことになってきた。
ランめ。
完全に楽しんでいやがる。
その後の俺の人生をどうしてくれる気だ。
悪夢だ。
何もかも。
どうすることもできない。
ただ、流されていくだけ。
妖怪どもの饗宴に。
なにもかもに。
ランが次、来た時に。
警報覚悟で話すか。やめさせるか。
だが、時間の猶予はあるのか。
この部屋の警報が鳴って、何秒後に係員が駆けつけてくるのだろう。
それから作戦は中止できるのか。
できるはずがない。
目の前に勝てる合戦があって、はい、やっぱりそうですよねー、と引き上げるような連中では絶対にない。
むしろ混乱をきたすだけだ。失敗の恐れが強まるだけだ。
それこそ、とんでもないことになる。
悲惨なことになる。
俺は結局ここに留め置かれ、マスコミが殺到だ。
最悪の事態。
ヨウドウ! ハルニナ! フウカ!
ランを押しとどめてくれ!
いや、もう、ここでじたばた考えてみても仕方がないか。
眠れなくとも体は横にして。
トイレをしておけと言ってたな。
尿意も便意もまるでないが。
通路の様子をもう一度見ておくのも悪くないか。
くそ!
なんでこんなことに!




