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4 プロローグ 参 着ぐるみ

 初夏のG1レース倭の国ワールドカップの日。

 蒸し暑さをものともせず、京都競馬場には多くの人が詰めかけていた。


 第4レースが終わって、昼食の時間。

 売店で買っておいた冷めた串カツにかぶりついたその時。


 先生!

 大変!

 先輩が!


 早く!


 エスカレーターを駆け下り、連絡通路を走り抜けて駆けつけると、階段の下に人だかり。

 すでに警戒線が引かれてあるが、なにしろ日曜の京都競馬場。

 第五レース、メイクデビューのパドックがまだ始まらない、昼休み。

 野次馬が群がっていた。


 いわゆるVIPエントランスと呼ばれる、馬主専用エレベーターのある受付ドアの手前、あまり使われることのない階段。

 そのすぐ下。


 インターロッキング敷きの青黒い地面に、大きく派手な着ぐるみが横たわっていた。



 その頭部はすでに外され、女性の顔が覗いていた。

 動かない。

 地面に広がる黒い髪。


 競馬場詰めの警察官と多数の警備員に混じって、医務室の女性看護師ひとり。

 傍らに転がるAED。


 救急車のサイレンはまだ遠い。



「下がってください!」

 その声に逆らって、男は警戒線を超えた。



 着ぐるみ。

 競馬場で毎週のように見かける、傾聴財団マスコット。

 その中に入っているのは、教え子、のはず。


「通してくれ! 知り合いだ!」


 足が震えた。


 ああ……。

 もう……。


 樹脂コーティングされた細いステンレスワイヤーが喰い込んでいた。 

 愛しい教え子の首に。



「先生……」


 次々に学生たちが警戒線を超え、集まってきた。

 抱き合う者。

 涙をこらえる者。

 どこかに連絡を取ろうとしている者……。


「なんで……」

「先輩……」

「どういうこと……」



 横たわった着ぐるみ。

 体長約二メートル。


 戦闘員的なフォルムのコスチューム。

 エレメントとして、女性っぽいアイコンがちりばめてある。リボンや花、蝶やハート形。

 アクロバティックなアクションで、いつもイベント会場を盛り上げているマスコット。

 今、ただの布袋に戻って、息のない女性を力なく包むのみ。



 看護師が周囲に大声で呼びかけていた。

 だれか、脱がせられる人、いませんか!

 心肺蘇生、したいです!

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