275 妖怪たちの雄叫びが、乱雑に並ぶ自転車を転がした
ランは、予定通り、部隊を五つに分けた。
一階正面玄関突入部隊と地下街ホワイティ梅田から突入する部隊。
一階通用口を封鎖する部隊。
彼らが警察署の出入り口を掌握する間に、上部階へ突き進みミリッサを救出する部隊。
そして、ミリッサを下階へ降ろすルートを確保する部隊。
少数精鋭。
妖に大部隊での行動はなじみがない。
しかも、合戦の経験はあるとしても、とうの昔。
規律ある行動をとるためにも、少数でなければならない。
自分は総指揮を執るといっても、ここから先、指令は笛と伝言による。
ミリッサのそばにいて、不測の事態に備えなければいけない。
署の構造はすでに頭に入っているし、各小隊長の頭にも叩き込んである。
ポイントは、一階にいる警察官や職員をいかに早く掌握するかだ。
動きを封じきれていないうちに、上層階へ向かう部隊が突入すれば、その登攀経路を遮断され、困難が増す。
万一、屋上からミリッサを逃がす場合のために、白龍を長とする部隊は屋上に配置。
あいだみちには、撤収用の口を、梅田地下街の排気塔脇に設置するよう依頼済み。
万一の時の脱出用口も警察署ロビーのど真ん中に設けるよう、手配済みだ。
ランは、警察署の裏すぐ近く、曽根崎料飲商工会自転車置き場に集結した面々に、最後の演説をした。
今夜は晴れてよかった。
こういう夜は昔、三条河原や貴船の河原で、奥琵琶湖の湖岸で、富士の樹海で、立山の雪原で、大峰の滝つぼで、皆で集まってよく酒盛りをしたものと聞く。
思えば。
我らは強かった。
私はまだ小娘だけど、知っている。
お館様の治世の元、我らは我らの存続をかけてよく戦い、よく勝利を収め、また、よく遊んだ。
今、人間界との接触を断ち、矛を収め、我らはこうして繁栄を極めている。
いかなる不自由もない。
人間と戦わない。お館様のこのお考えは正しかった。
我ら七人衆がだれ一人欠けることなく、こうして今、集い、共に行動することができるのは、この上ない幸せ。
これ以上の喜びがほかにあろうか。
今宵、我らが呼びなれた合戦という言葉を使ってはいる。
が、先にも説明したように、これは戦ではない。
すなわち、人間と覇を競う戦いではない。
我らの力と知恵を人間に見せ、少しばかり疎遠になり過ぎた人間界との関係に、少々の風を吹かそうというもの。
決して人間を痛めてはならぬ。
それは本末転倒。
よいか。
戦ではない。
これを肝に銘じよ。
武力は最小に。
知恵で勝負しろ。
必要なのは機敏さのみ。
目標はただ一つ。
警察に囚われしミリッサという男。先日、お館様のお白洲でどんな恐れも見せず、お館様と言葉を交わした人間の男を救い出すこと。
彼が、我ら妖と人間界との間の懸け橋になる。
きっとそうなる。
私はこれを信じて疑わぬ!
皆の者!
覚悟はよいか!
これからの妖界にとって、大切な一戦!
妖怪たちの雄叫びが、乱雑に並ぶ自転車を転がした。
いざ!
持ち場につけ!
そこで突入の合図を待て!
合図はこの笛。
聞えたなら、躊躇いなく、進め!




