261 万事休す
驚いた。
こんなところに出るとは。
バーやラウンジの看板がビルから突き出ている。
見覚えがある。
昼間で、閑散としているが、夜には酔客の群れに混じって、着飾った女性たちで溢れかえる。
キタ新地本通り。
俺には縁遠いが、ここはまさしく。
ランの姿はない。
まずいことになった。
これでは、無防備すぎる。
カメラもマイクもいたるところにあるはず。
コアYDはおろかUDにも、戻れない。
GPSに掛かるものを身に着けてはいないが、警察はすぐに察知するのでは。
半時間も経たないうちに、曽根崎警察署の取調室に座らされていた。
生涯に二度もこんな目に合うとは。
刑事が入れ替わり立ち代わり入ってきては、同じような質問を投げつけてくる。
アンジェリナを殺したのはお前だろ。
ノーウェを殺したのもお前だろ。
ルリイアをどこへやった。
まさか殺していないだろうな。
まだ比較的穏やかな口調だが、やがて詰問は激しさを増す。
もちろん、どの問いにも否と答えるのみだが、説得力はまるでない。
その証拠に、刑事たちはこちらの言うことに全く耳を貸そうとしない。
ヘビだのPHだの妖怪だの、持ち出そうものなら、形勢は悪い方へ一気に転がっていくことは目に見えている。
愚弄する気か、ということになる。
「調べはついているんだ。もう観念したらどうだ」
「調べ? それはどういうことだ。俺は何も知らない」
「そうか?」
「知らないと言ってるだろ」
「じゃ、聞くが、アンジェリナさんの死体を発見したと言ったな。あそこに何をしに行ったんだ? 説明してもらおうか」
「それは前に話した。学生のカメラを取りに」
「言っとくが、大学内にも監視カメラはある。お前、透明人間、なんてふざけたことを言うなよ。いつ、どこから、山に入った? 答えろ」
「それは言えない」
「言えないのか? なぜ、言えない」
「これも聞こう。ノーウェさんが階段から転げ落ちた時、最も近くにいたのはお前だ。どうやって、彼女を突き落としたんだ?」
「俺じゃない。知らない」
「ルリイアさんの部屋の鍵、サークルの部長の子に預けていたよな」
「……」
「合鍵、いつでも作れるよな。お前も持っていたんだろ。好きな時に入れるわな。彼女が寝ているときでも自由自在。部屋ん中で待ち伏せしてもいい」
「……」
「あそこでなにをしていた?」
「……」
「ノーウェさんの事故について、調べていたんだろ。嫌とは言えない学生を使って」
「……」
「誰かを犯人に仕立て上げるために。財団にも行ったそうじゃないか。被害者の上司や同僚のパートの女性をつけ回して、動機になりそうなことを穿り出していたんだろ」
「……」
「挙句の果てに、亡くなった被害者の父親にさえ、疑いの目を向けたそうじゃないか」
「……」
「そこまでして、己の罪を隠したいのか。大学の講師ともあろうお方が。えっ、どうなんだ!」




