37 ハイ、ちょっとチクッとしますよ
額に冷たいものを感じた。
ゆっくり目を開けた。
ここは……。
目の前にチャーミングな女性の顔。
白衣を着ている。
クリーム色の天井に白いカーテン。
ぼやけた視界。
「ご気分は?」
目が合った。
「あ……」
言葉が続かない。
朦朧としていた。
「先生」
「大丈夫ですか」
「先生……」
足元の方から聞こえてくる。
ベッドに横たわっていた。
「私、今日からサークルに入りたいです。入れてください」
ん?
この低い声は。
メイメイか?
いるのか……。
「入部希望? このタイミングで言う? 喜んで、って言うけど」
フウカが話している。
ジンやランの姿が視界に入って来た。
「ミリッサ」
ランは心配そうな顔を近づけてきて、手を握ってくれ、胸を擦ってくれる。
フェアリーカラーの髪が顔を撫でた。
「ここ、は?」
自分の声に驚いた。
びっくりするほど弱々しかった。
「医務室」と、看護師は短く応え、邪魔だと言わんばかりにランとの間に割って入ると、鼻にあてがわれた酸素チューブの具合を確かめた。
そして、「点滴しますね」と、腕を取った。
「はい、ちょっとチクッとしますよ」
京都競馬場の医務室。
そうだ。
ルリイアのくれたチケットを持って、パドック脇の馬主席へ向かったのだった。




