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39 あの日 なにがあっただろう

 まどろんだのかもしれない。


 顔を上げると、空は幾分明るさが増しているような気がする。

 雨はやんでいた。


 依然として、高いフェンスの小さなドアの前。

 尻を濡らして座っているという現実は変わらない。


 とりあえず止血を、とは思うがハンカチは一枚しかない。

 草で、と思ってもみるが、素人判断でそこらの草を傷口に当てるのも怖い。

 沢に降りて洗うかとも思うが、もう藪を突破していく気力はない。


 幸い、骨が折れたりはしていないようだ。

 痛みは、傷口の痛み。


 目を瞑った。

 体力温存……。

 二、三時間もすれば、誰かが……。




 それにしても。

 何をやってるんだ、俺は。


 なんで、こんなことに。


 後悔はない。

 なぜか、ランを恨む気持ちもない。


 今頃、どうしているだろう。


 俺を探してまだ走り回っているだろうか。

 蛇や猿を問い詰めているだろうか。

 いや、小さなラン。蛇や猿に敵わないか。 

 それとも、あいだみちとやらに聞いているだろうか。




 フウーーー……。


 俺は……。


 殺されかけた。


 これで二度目。

 人生にこんなことが二度も起きるとは。


 一度目は……。


 あれは、そう、半月ほど前。

 京都競馬場、秋華賞の日。

 競馬サークルR&Hの秋シーズン最初の現地観戦の日。


 あれからだ。

 なんでもない日常が、一変したのは。



 あの日。

 なにがあっただろう。


 いつもの朝の情景。


 第一レースのパドック。


 フェンスにもたれ、背を見せて並んだ部員たち。


 ハルニナがいた。

 ジンがいた。

 ランがいた。


 この三人が一番のり。



 俺は彼女らを少し離れたところで眺めながら、また競馬シーズンが始まったことを喜び、彼女らが楽しそうに話すのを幸せな気分で聞いていた。


 ハルニナが、彼女の口癖、「馬が教えてくれる」と、サークルのモットーを口にし。


 そして。

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