332 当たっても当たらなくてもね
ヨウドウの推挙により、R&Hは最優秀サークルの特別賞を受賞することになった。
恩を売られたのだ。
ヨウドウのごり押しによって、来年から担当する科目を追加され、通学する曜日を増やされてしまった。
あれ以来、妖怪の村にも、コアYDにもUDにも、足を踏み入れていない。
わずかふた月ほど前のことだが、どことなく、遠い過去のことのように感じる。
あの喫茶の妖怪マスターは元気にしているだろうか。
月隠の白君。九尾の狐。
お館様の声。お館様の舞。祝言……。
オロチに脅され逃げまどったあいだみち。
妖怪ネズミが淹れてくれた茶。
素っ裸で現れたラン。
右のおっぱい。
あれにはすっかり嵌められたな。
現実のことだったのだろうかと思うことさえある。
しかし、ランの涙袋の下のほくろが大きくなったり小さくなったりするたびに、あれは本当にあったこと、と思い直すのだった。
藤森神社の境内は押すな押すなの大賑わい。
その波にジリジリと押し流されながら、ハルニナが俺の左腕を、ランが右腕を取ってきた。
ハルニナのもう一方の手をメイメイが。
ランの手をジンが、ジンのベタつく手をアイボリーが。
ランの服の裾をスペーシアが。
「歩きにくいぞ」
「照れやさん」
「はぐれないようにね。迷子、嫌だし」
ハルニナを引き寄せた。
「前に話してくれた件」
「なに?」
「パクチー汁、飲ませてくれないか」
「え」
「俺は今の俺でいたい。余計な経験や知識はいらない。むしろ」
「むしろ、なに?」
「なんでもない」
「オマエたちがいてくれるなら、でしょ」
「ま、そういうことにしておこう」
ジンが拳を突き上げた。
「さ、明日は京都金杯。みんな、行くだろ!」
「ウェーイ!」
「ルリイア先輩から連絡があったんだ。京おせち、ご用意してお待ちしてます、って」
「やたーー!」
「今度こそ、お金払えるようしなくちゃ」
「当たっても当たらなくてもね」
おしまい
最後までお読みくださり、まことにありがとうございました。
続編「緑・黄・紫・赤の玉転がし/競馬関係者連続殺人事件?」(n4609ld)も、どうぞお読みください。
同じくミステリー要素を含んだお話ですが、もう少し、ラブコメ要素を強めた作品です。
ランが大活躍します。




