329 黒猫が何度も頭を顔を、擦りつけていた
でも、その目論見は見事に打ち砕かれました。
三四郎が警察が来ると知らせました。
先生はランに連れられてバルコニーから逃れられました。
警察が入ってきてからは、ジーオ先輩が警察をやり込め、退散させてくれました。
結局、私は、何も、できず……。
あれからどこに隠れておられたのか知りません。あ、きっとここですね。
曽根崎警察署に留め置かれていることが分かってからは、なんとか私の出番が。
とても不謹慎な言い方ですみません。
でも、前のように簡単にはいきません。親の威光を使っても。
面会時間を引き延ばすことが関の山で。
なにしろ……。
やはり、私の出る幕は全くありませんでした。
いざというとき、私は先生を守ることはおろか、先生のためになることは、何も。
自分の都合でいえば、先生に注目してもらえるようなことは、何も。
むしろ、先生を危険に晒しただけ。
苦しい思いをさせてしまっただけ。
いやな思いをさせてしまっただけ。
私は……。
私、いったい、何をしてたんだろ、と思います。
この秋の京都のG1が始まってから。
いいえ、二年もの間。
部長だからって立ててくださってるけど、何ひとつ。
空回りばかり。
最後の最後に大迷惑までかけてしまって。
私……。
ランやジンがうらやましかった……。
ハルニナ先輩やルリイア先輩も……。
私は……、みんなのようには……。
さっき、ハルニナ先輩が私の気持ちを代弁しようとしてくださいましたが……。
先生の方じゃないです、ハルニナ先輩。
先生じゃなく、私の方が何も分かっちゃいなかった。
ちゃんとお話をせず……。
気持ちを表現せず……。
自分勝手で……。
もう私、何を言ったらいいのか、分からなく……。
ごめんなさい。
謝って済む話じゃないことは分かっています。
でも、謝ることしかでき……ません……。
みんな、ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
スペーシア。
あなたがさっき言ってくれたこと。
お館様がおっしゃった、自分の気持ちを言葉にして、正直に。
心に沁みました。
でも、もう、なにも、これ以上……。
話せない……です。
フウカは静かに泣いていた。
再び、さわやかな風が吹き、池には小さなさざ波が立った。
フウカの膝には、どこから舞い降りて来たのか、季節外れのスイフヨウの花がフワリと落ちた。
酔ったかのような濃いピンク色。まだ萎んでいないおおらかな花が。
小さな黒猫がフウカの脛に、何度も頭を顔を、擦りつけていた。




