322 知る必要はあるのか
実は悩んでいた。
知る必要はあるのか。
本当は聞きたくない。
ただ、なぜ、なぜ、と自問してきた。
自分の方に問題があるとすれば、思い当たることはただ一つ。
フウカが二年生だった時のある出来事。
自分の方に問題がないのであれば……。
フウカは自分の罪を誰でもいいから擦り付けたかっただけ。
でも、まさか。
フウカに限って。
どちらも聞きたくはない。
まして、二つの理由を例として挙げて、解説したくはない。
「フウカ、さっきの話の続き、もう話してくれ。俺からは話せないよ」
しかし、フウカは俯いたまま。
と、
「フウカ」
右手から声があがった。
いつの間にか、スペーシアが座っていた。
「おっ、すごい。もう歩けるのか」
スペーシアが見せる初めての七十パーセントの笑み。
「フウカ、聞いて。お館様に教えていただいたこと」
もっと、自分の気持ちを言葉にして、正直に話しなさいって。
目の前のことに素直になりなさいって。
偉そうに聞こえたらごめんなさい。
フウカ、あなたにもその言葉をあげる。
先生、ごめんなさい。
こんな高い席から。
皆のところに行きたかったんだけど、先生のお話を止めてしまったらいけないと思って。
全然、ごめんなさいじゃないさ。
ランに守られるように少し後ろに座るスペーシア。
この同級生を見上げるフウカ。
そして振り返り、ござに座った面々を見た。
一人ひとり、目を合わすように、時間をかけて。
池の水はサワとも動かない。
木々の葉も、そよとも動かない。
相変わらずの青空。
白砂も、美しい水紋を描いたまま。
お館様は、我慢強く待っていてくださっているのだ。
ただ、一枚、木の葉がフウカの膝に舞い落ちた。
ガリが頷いて、フウカを促した。
「私は……」
語り始めるフウカを応援するかように、一陣のさわやかな風が吹いた。
分け隔てなく、全員の顔を撫でていく。
フウカのポニーテールがかすかに揺れた。
ごめんなさい。
先生……。
なんていうのかな……。




