318 いわば、シンプルな話
「いわば、シンプルな話」
口を開いたフウカ。
声はいつもと変わらず、むしろ凛としていた。
その目は俺をしっかりとらえて放さない。
「話はシンプルだけど、私の気持ちはちょっと複雑」
ねえ、先生。
最初、私がなぜ、ノーウェ先輩の死の原因を探ろうと言い出したか。
その時から私の気持ちは揺れに揺れていた。
そう。
私がデジロウに言ったのよ。
アイボリーやルリイア先輩が話しているのを耳にしたから。
イベントの反省会の後。
ノーウェ先輩にケイキちゃんの着ぐるみを着せよう、って。
ふと、なんとなく思った。
事故とかあれば。
例えば、階段から転げ落ちてくれるとか。
怪我してくれるとか。
そうなるよう、デジロウが襲い掛かってくれたらな、って。
いわば愚痴。
思いつき。
本気でそう思ったわけじゃない。
デジロウに指示したわけでもないし、そそのかしたつもりもない。
それに、誰かが一緒にいるはずだし、どこを通ってくるのかも知らないし。
あくまで、そんなことが起きたらなあ、という妄想。
実際、フクロウ型のロボットがそんなこと、できるはずないし。
私がなぜ、そう思ってしまったか。
財団への就職が決まって、ノーウェ先輩の後輩ってことになる。
しかも、同じ部署に配属になるらしい。
自分勝手なんだけど、耐えられないと思っていました。
本当に嫌で嫌で。
常に財団は悪者。
それにノーウェ先輩と同じ部所。
就職先が財団だって、みんなに言い出せなかった。
親が決めた就職先。それが嫌だったのもあります。
知っていたのは、アイボリーだけ、です。就活の時、支社のロビーでばったり会ったから。
つい抱いた妄想。
ノーウェ先輩が怪我をして、イベントに出て来ない部所に、どこでもいいから別の部所に配置換えになればなあ、と。
そんな妄想を、デジロウに愚痴ってしまった。
そしてノーウェ先輩の転落事故が起きた。
まさか、デジロウが私の愚痴をまともに受け取った?
まさかね。
でも……。




