317 君から話す番だ
「フウカ。財団への就職、とうに決まってたんだろ。なぜ、話してくれなかった?」
「特に意味は……」
「そうか? 隠してたようにしか思えないけどな」
「いいえ……」
ゆっくりと部屋が消えていった。
壁も天井も。
外郎の皿も、ビールの空き瓶も。
白砂の庭に座っていた。
大きく広げられた花ござの上に。
縁にはあの日見たように、妖怪の幹部たち。
ランの姿もいつしかそこに。
晴れ渡った空に、今日は数多の鳥が飛んでいる。
渡りの季節にしては少し遅いが、妖怪界では今が最盛期なのかもしれない。
お館様がお出ましされる。
だが、前回のように縁の中央には座らず、階段を下りてこられる。
居並ぶ妖怪たちに動揺が走る。
もちろん、学生達にも。
白砂の中央にはフウカの姿。
縁台に腰かけ、前を見つめている。
その前へ進むお館様。
まさか。
お館様……。
が、違った。
お館様はフウカの前を横切り、庭園の奥へ回っていく。
池の橋を渡り、以前、俺が座った待合にたどり着くと、優雅に腰を落ち着けた。
「皆の者も降りて参れ。妖が人を裁けはせぬ。ワレらはここで見届けようぞ。ランよ、そなただけはそこに残れ。ワレは指図はせぬ」
ランは、大きな恐ろし気な山猫の姿になっていたが、人間の、いつものランに戻り、彼女の定位置であろう場所から、少し前、手すり際に座を移した。
俺はどうすればいいか、知っていた。
白砂を踏んでフウカの前を通り、階段の中ごろに腰かけた。
フウカの正面には自分が。
目の高さを揃え。
もう一人、花ござから立ち上がったハルニナ。
階段を登り、ランが座る正反対の端に座を得た。
もう、躊躇しなかった。
希薄で何の根拠もなく、思い付きの延長のような推理。
しかし、ここはお館様のお白洲。
嘘は許されない。
この張りつめた空気。
さすれば、フウカ自身に語らせることだ。
再び促した。
お館様にも、居並ぶ妖たちにも聞こえるよう、力のある声を意識して。
「さあ、フウカ、君から話す番だ」




