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316 六十個の目も

 実際、俺がフクロウではないかと思い始めたのは、かなり後になってからのこと。

 今は、白いフクロウ、ありていに言えば、フウカのペットロボット、デジロウだと確信している。


 たまにいうことを聞かなくなるロボット。

 制止を振り切り、パドックの上を飛んだフクロウ。

 競馬場の空を、自由気ままに飛んでいたフクロウロボット。

 フクロウらしからぬ昼の日中に。

 つい先日は、ジンのトカゲを襲った。そんな情緒的思考ができる賢いロボット。



 頭を掠めて飛んだ大きなフクロウに驚いたのか、大口を開けている大蛇に驚いたのか、両方なのか、もうわからない。

 しかし、それがノーウェの転落の直接的要因。


 そして、まさしく警察が結論を出したように、落下の衝撃が原因で一つのボルトが抜け、その拍子に一本のワイヤーがしなった。

 それが首に巻き付いた。

 素手なら、ワイヤーを解くことができたかもしれない。

 しかし、首はケイキちゃんの着ぐるみの中。

 手は外。しかもいろいろな操作ボタンがついたケイキちゃんの腕の中。

 なすすべはない。




「では、これで一件落着か。俺はそうは思わない」



 そもそも、いくらロボットの人工知能が暴走することがあるとしてもだ。

 オロチ殿に、さっきのあんな話を持ち掛けたりするか?


 もし、オロチ殿が考えていることを知っていたなら、仇討ちに手を貸すことになる。

 知らなかったとしても、ロボットがそんなよもやま話を妖に向かってするか?


 そんな情緒的な、というか人間的というか、手の込んだ感情を含んだ判断をするか?

 そもそも、妖が見え、妖に話しかけることのできるロボットが世の中にあるのか?


 いったい、どういうことなのか。

 ランから聞いたことがある。あのロボットには強い意志がある。

 本当にそうか?

 フウカのロボットには強い意志が?

 いくら進んだ人工知能を搭載していてもだ。



 妖が住み着いていたんじゃないのか。



「もし、妖がフクロウロボットにとり憑いていて、オロチ殿をそそのかしたのなら、お館様によって罰せらるだろう」



 ランを見た。

 その目は、この話はここまで、と言っていた。


 そう。

 ロボットの人工知能の暴走であろうと、妖怪がとり憑いていたのであろうと、フウカのペットロボットが情緒的思考ができる最新鋭の次世代型ロボットであろうと、推理の根幹にさしたる影響はない。




「では、いよいよこれで一件落着だろうか」



 いつの間にか、部屋の隅という隅に、狐がぎっしり座っていた。

 その数、三十は下らない。

 まさに、獣としての狐。



「フウカ。ここからは君が話すか?」


 フウカの目が俺を見据えていた。

 それでも、何も言わない。


 無言の時が過ぎる。

 誰も身じろぎさえしない。


 無表情な顔。

 微笑んでいるような顔。


 ゆっくり瞬きを繰り返している者。

 口を尖らせている者。


 ランのほくろは針の先ほどに小さい。

 どの目もフウカを凝視している。

 ショウジョウやオロチの目も。

 狐の六十個の目も。

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