314 嘘やごまかしは通用せぬところ
ある日、妙な話が持ち込まれた。
以前から気になっていた、奇妙な奴からだ。
女が着ぐるみを着ることになるらしい、というのだ。
とうとう、その機会が巡ってきたかもしれぬ。
着ぐるみが通るルートは、以前から知っている。
頭を巡らせた。
あそこでなら。
あの通路の上、階段の中ほどで待った。
ここから襲い掛かれば、女は階段下に転げ落ちるだろう。
幸い、ここに人通りはない。
そこでとどめを刺す。
果たして、女が来た。
だが、今日はルリイア殿が同行だ。
見られてしまう。
巻き添えにするわけにもいかぬ。
今回は見逃すしかないか。
いや、もう一度、通るはず。
俺は待った。
上の階から男が声をかけてきた。
緑色の制服を着た男。
ルリイア殿と一緒にいるところを何度も見かけている男だ。
ここで何をして……。
最後まで言わず、振り返ったオレと目が合うやいなや、逃げて行った。
だが、オレにしてみれば、見られているぞ、と警告されたも同然。
やがて女が再びルリイア殿と共に通りかかった。
だが、幸いかな。
階段の前で女は一人になった。
千載一遇とはこのこと!
オレは女に襲い掛かるべく、首を上げ、跳躍しようとした。
が、オレは思いとどまった。
仇討ちは、またの機会だ。
ルリイア殿がいつ戻って来られるやもしれぬ。
さっきの男も気になる。
次回はきっとある。
それでも、女は驚いて足を踏み外し、階段を転げ落ちた。
最初こそ着ぐるみの中でもがいているようだったが、やがて動かなくなった。
オレは直感的に知った。
女は死んだ。
「オロチ殿、なぜ、最後の最後、思いとどまったんだ?」
誰かに見られてはまずい。
そう思ったからだ。
「違うな。本当のことを言え。飛び掛かる態勢をとって力を漲らせ、が、その瞬間、そんな思考が再び巡って、脅すに留めた? ふざけるな!」
ミリッサ殿、なんでもお見通しだな。
だが、それをオレから申すのは、差支えがあってな。
「支障? どんな?」
オレは今、謹慎の身。
そのオレが他人の告げ口はできぬ、ということ。
「掟か?」
ちがう。
ただ、オレの罪をこれ以上、大きくしたくはない。
それだけのこと。
保身だと憐れんでくだされ。
ランが言い放った。
「オロチよ! 七人衆としてお主に命ずる!」
知っていることを今、ここでつまびらかにせい!
ここがどこか、知っておろう!
嘘やごまかしは通用せぬところ!




