312 証人を呼んでいる
「証人を呼んでいる」
幾人かが目を上げた。
「本人から、直接聞いてくれ。そうそう、ここでは妖怪を見れない人も見えるから。みんな、さっきの狐殿も見えていただろ」
サルが襖を開けた。
白銀の毛並みを持つニホンザル。
今日は遠慮してか、あるいは部屋のサイズを考慮してか、普通のニホンザルのサイズ。
ただ、威風堂々、一同を眺め渡す。
「この御仁は、妖怪界の幹部のおひと方。訳あって、俺たちの近くにいつもいた」
サルは部屋に入ってすぐ、ガリの後ろに蹲った。
「俺がアンジェリナの死体を発見したいきさつを話してくれる」
PHのことは話さない。
ハルニナに依頼されて俺を見張っていたというくだりは無用。
事前にそう話してあるが、一応は念のため。
「あいだみちであんたがしたことだけでいい」
「心得た」
「今の声、みんな、聞こえたか?」
ジンが目を輝かせて頷いた。
ラン殿がミリッサ殿をお館様の元へとお連れ申すというのは、ワレにとって少々驚きじゃった。
その意味するところが、その時は分からなかったのでな。
まずいかも。
いらぬことを口走るかも。
「ショウジョウ殿、そこらへんも割愛で頼む」
「かしこまった」
そう応えたものの、サルは幾分、残念そうだ。
ランとの馴れ初めから、曽根崎合戦と祝言の宴、すべてサルは知っているし参加している。
しかも、サイバー隊の隊長であって、留置場のドアを自ら開けたとあっては、その一部始終も話したいだろう。
でも、堪えてくれ。
「ある日、ミリッサ殿がラン殿に連れられてあいだみちをお通りになった」
それでいい。
その調子で頼む。
「ワレはその後を訳あってつけておったのじゃが、ミリッサ殿の背中にはオロチ。いつものことじゃった」
しばらくすると、オロチがミリッサ殿から離れ、話しかけてきおった。
助太刀を頼む、とな。
機会があれば、ミリッサ殿を追い立てる。さすれば、貴殿、紅焔山への道へ誘導してほしいと。
聞く義理はないが、猿と蛇は太古の昔より宿敵。
ここで恩を売るのもいいかもしれぬ、そう思うた。
紅焔山への道はワレもよく知っておる。
何度も、通ったからな。
「オロチの目的、その時、聞いたのか?」
「いや。じゃが、後に聞いた」
オロチはあるもの、これは言っても構わんのかの?
「構わない」
「うむ」
女の死体がある。
紅焔山の滝の近くに。
ミリッサ殿がその白骨死体を発見するよう、仕向けたかった、ということじゃった。
ワレが紅焔山への道まで案内すれば、後はオロチ自身がミリッサ殿を案内するとのことじゃった。
ワレも当然、岩陰に女子の死骸があるのは知っておったが、それをなぜ、オロチが今更。
事情は知らぬ。
「ありがとうございます。過不足ないご説明、痛み入ります」
ということだったんだ。
蛇、つまりオロチとは、俺にとり憑いてたやつのこと。
俺は、かなりビビりまくったんだが、そこは割愛。
オロチに案内されて、というくだりは、事実とは全く違う。
祠の石のぐるぐる飛びで脅されたのだが、ここでサルの言を訂正する必要はない。
もう忘れよう。
「もう一人、証人を呼んでいる」




