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306 おーい こっちは出るぞーーー!

「お前、いつもここで風呂入ってるのか?」

「いや。昨日初めて」


「うらやましい。ランみたいないい子を従えて」

「不穏な言い方、するなよ」

「いや、うらやましい。いいな、お前は。特別だぞ。こんな講師。いい子ばかりがお前の周りに集まる」

「そんなことないだろ」

「いいや、そうだろ。しかし、ありえない。高校の時のお前は」

「やめろ、そんな話」

「風呂入って、昔話して何が悪い」

「そんな気分じゃないだろ」

「そりゃそうだ。じゃ、聞け」



 お前らしくないぞ。

 さっきから見てて、肩に力、入りすぎ。

 どういう結論に持っていこうとしているのか、ハッピーエンドになるはずがないが、俺は楽しみだ。

 でもな、話の持っていきようによって、後に残るものは変わる。



「うむう。なにが言いたい」

「黙って聞け」



 心に残るもの。


 うちの娘のことじゃない。


 皆、ミリッサを慕っている。

 もしかして、好き。

 もしかして、愛してる、尊敬してる。


 そのお前が話すことに、彼女たちは大いに影響される。

 ノーウェにしろアンジェリナにしろ、死の原因がどうであれ、俺は申し訳ないが、本当はもうどうでもいい。


 俺が今、大切にしたいのは、彼女たちだ。

 彼女たちの心の成長だ。

 心に実りを、だ。

 心の傷、じゃない。



 確かに。

 ヨウドウの言う通りだ。

 しかし、だからと言って、どう話せばいいというのか。



 いかん。

 のぼせてきた。


「おーい。こっちは出るぞーーー!」


 さすがヨウドウ。

 屈託がないというか、見せ方がうまいというか。

 かなわないと思った。




 湯上りの飲み物やアイスをそれぞれ選び、それをぶら下げて部屋に戻った。

 風呂上がりの顔、顔、顔。

 皆が、誰もかれもがそれぞれに、とてもかわいいと思った。

 改めてそう思った。



「じゃ、再開していいか」

「おう!」

「ちっ」

 ヨウドウはやはりビールを持ち帰った。

「飲み終わったか?」

「一瓶でやめとく」

「当たり前だ」



 ここから本番だとは言ったが、自信がなくなってきた。


 温泉に浸かり、フルーツ牛乳を飲んで、今にもおなかがグルグルしてきそうだ。気合も抜けようというもの。

 居並ぶ娘たちも、膝を崩し、火照った顔がほころんでいる。

 ランだけ、浴衣姿。

 前を大きくはだけて、どこから持ち出したのか、団扇で風を送っている。


「あ、ランだけ、いいな」

「後で貸したげる。ジンも、浴衣着ればよかったのに」


 おいおい、下着、着てないのかよ。

 ヨウドウの目に毒だぞ。


 殺人事件の推理を展開する、しかも最終段階となれば、聞いて辛いこともある。

 が、とてもそんな雰囲気ではない。


 あ、おい。

 ヨウドウがガリにビールを勧めている。


 あらら、頂くのかい。

 やれやれ。


「やっぱり、もう一本もらおうか」

「いいですね」

「つまみは、ほれ、たんとある」

 帰りのお礼のお菓子を出してくる。


 やれやれ。

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