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304/333

303 そんなのは、計画、とは言わない

 それでだ。


 今度はルリイアと目を交わした。

 ルリイアはすぐに目を落としたが、そこに戸惑いや驚きはない。

 パクチー汁を飲んでPHではなくなったからといって、記憶がなくなるわけではない。


「虐められていたのはアイボリーだけじゃない」


 ルリイアもそう。

 ヨウドウ、ルリイアを覚えてるか?


 ヨウドウは、ルリイアに顔を向け、こくりと頷いた。

「JRA職員」

「そう。京都競馬場勤務。ちょっと、解説しておこう」



 ルリイアが担う仕事の中に、各種イベントの世話係というものが含まれる。

 世話係とはいっても、そもそも競馬場側は場所を貸すだけ。

 ただ、競馬場の備品も一部使うし、設備も使う。いわば、その貸出窓口ってわけだ。

 もちろん、もっと大切な仕事、イベント会社が、時間や場所や、騒音やごみ処理など、契約に沿った内容通りに実施しているかどうか、監視する役目もあるだろう。


 ところが、ノーウェからすれば、アイボリー同様、ルリイアも大学の後輩。

 しかも競馬サークルの後輩でもある。


 まるで、出来の悪い自分の部下のように、命令するわ、叱責するわ、罵倒するわで、イベントのアルバイトからも奇異の目で見られていた。

 それだけじゃない。

 その彼女たちにも、ノーウェはひどい言葉を投げつけていたんだ。



 業を煮やしたその被害者たち。


 アイボリーが嘘の遅刻をして、ノーウェがやむなくケイキちゃんを着るように仕向け、その大変さを思い知らせよう。そんな企画が持ち上がった。

 その内緒の企てを知っていたのは、アイボリーとアルバイト数名、そしてルリイア、その上司アサツリ。


 その画策はまんまと嵌った。

 ノーウェはケイキちゃんの着ぐるみを着ることになったんだ。



 で、あの事故。



 警察は、各方面に事情を聴いた。

 俺も、知ってることを話せと言われた。

 この中にも、事情聴取を経験した人がいるだろう。


 しかし、事故として決着。

 階段を踏み外して落下。

 当たり所悪く、着ぐるみ内部のワイヤーが外れ、首を絞めつけた。

 窒息死。


 警察は着ぐるみを没収し、入念に調べた。

 どこにも故意の痕跡は発見されなかったということだろう。




「この話はいったんここまで。まだ、情報収集の段階が続く」


 並行して俺たちは、ジンが中心になって、事故現場とされるスタッフオンリーのエリアとその周辺の情況を理解しようとした。

 聞き込みと防犯カメラの映像をつぶさに見ることによって。

 当然、そこに何らかのヒントがあるはず、と考えたからだ。


 結果はルリイアの証言と完全に一致する。

 おかしな点は何もない。

 不審な人物も通らない。


 注目すべきことは、なにもない。



 となれば、状況からみて、ルリイアにも、より強いスポットが当たる。

 階段のすぐ横にノーウェを残し、控室に戻り、キーを返しに行き、と数分間、ノーウェを危険な場所に立たせておいた。


 これをどう捉えるか。

 ノーウェが自分一人で行こうとして足を踏み外すことに期待したのか?



 でもな。

 そんなのは、計画、とは言わないよな。

 なにか、違う意図、予定、見込み? があったのでは、と勘繰りたくなるよな。



「ルリイア、なにか、言いたいこと、ある?」

「えっ、特にないですけど」


 授業で当てられた時のように、ルリイアの顔にいくぶん朱が差した。

 依然、下を向いたまま。

 とはいえ、無理に無表情を作っている顔ではない。

 ルリイアにとって、あの時の自分の行動に疑いの目が向けられることは織り込み済み。

 刑事の詰問さえ受けたはずだ。



「ところで」

 ここでまた話題を変えた。

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