295 こう見えても、私、ここの、顔やから
スペーシアは、昨日と同じ、快適なベッドで横になっていた。
風が入ってきている。
カーテンが揺れていた。
看護師が席を外してくれた。
順調ですよ、と微笑んで。
スペーシアは目覚めていた。
こちらの一行を目にすると、途端に泣き出した。
起き上がろうとする。
「そのままそのまま」
「ううん。今日からリハビリだし」
「どう? 具合は」
「大変だったね」
「痛み、ない?」
「眠れてる?」
そんな言葉に涙声で返すスペーシア。
ううん。全然。大丈夫。心配かけてごめん。
俺はスペーシアの額に手を乗せた。
その手の上にスペーシアも手を乗せる。
そして笑った。
いつものように、彫像のような固い、白い笑い。
「先生。ごめんなさい」
「謝ることなんてないぞ」
「ご迷惑をおかけして」
「何を言う」
それぞれが、改めて労いと励ましの言葉を贈る。
その都度、スペーシアは頷いたり、ありがとう、と返す。
見舞いの品を開けたときは、はっきり笑った。
「わ、これ、どこで?」
六十パーセントほどの笑みだろうか。
この子の百パーセントの笑い顔は見たことがない。
大きめのホールケーキ。
中央にチョコレートでコースと競走馬が象ってある。
その上に、的中記念と書かれた文字を棒線で消して、快癒記念と書き直されている。
「へへ。ボクの趣味。ケーキ作り。知らなかった?」
と、ジン。
「へえええ! 知らなかった!」
「自慢するよ。徹夜で作ったんだ。手元に材料がなかったから、超シンプルだけど」
「ううん! おいしそう! すご! すご!」
「一緒に食べよ」
各自持ち寄った見舞いの品を披露する。
「私も」
と、ランが取り出したものも、皆を仰天させた。
オルゴール。
アクリルの箱に収まった手回しのやつ。
ショパンの曲でも流れるのかと思いきや、京都競馬場の返し馬のメロディーとファンファーレ。
「これ、どこで? まさか作ったとか」
「どうしてまさかなん? 作ったん。徹夜で。私じゃないけど、ここの妖に頼んで」
「へえええええ!」
「こう見えても、私、ここの、顔やから」
「ひゃーーーー」




