280 逆恨みだったと思って、忘れてください
「ルリイアさん、さっき言ったことは忘れてもらえないでしょうか」
「なにをです?」
ノーウェの、その、悪口にとられかねない、えー、息子が騙されたんだとか……。
こう見えても、私も人の親。
息子が可愛いわけですよ。
もちろん、その嫁さんもです。
本当のことを言うと、うちの息子にはもったいないくらいに器量のいい娘さんだったと思っているんです。
実は、私にも本当によくしてくれましてね。
誕生日や父の日やら。
ついぞ、してもらったことのないお祝いの会を開いてくれたり。
行ったこともないクラシックのコンサートやミュージカルに誘ってくれたりもしました。
素敵なレストランを見つけたからお父さんも一緒に、とかですね。
息子はああいう商売ですから、出張なんかも多いんです。そのときに誘ってくれるんですね。
こういう時に親孝行しておきたいからって。
うちのやつですか?
一緒に行く時もあるし、行かないときもある。
あれはあれで、意固地なやつでして。
興味のないものには、嫁の誘いであっても断ってしまうようなやつなんです。
孫でもできておれば、また違ったのでしょうが。
というわけで、私は悲しんでいるのです。
息子はさっさと再婚しよりますが、それはそれで息子が決めること。
ノーウェの位牌を永代供養塔に納めると聞いたので、さすがにそれはいかんと言いましたがね。
新しい嫁がどうかとは、まだ言いますまい。
私の中では、ノーウェのことがまだ残っていますから。
さっき、あんなふうに申し上げたのは、親より先に死んでしまった娘への、なんて言いますか、逆恨みだったと思って、忘れてください。




