276 アナザーストーリーは悲しくジョッキー落馬
「そもそもジン」
スペーシアはジンを見ようとせず、そう言った。
「ユーリーの親が家族ぐるみでノーウェ先輩を殺すって、あり得ない。殺すほどの理由がない。ユーリーに愛がなくなったのなら、離婚すればいいだけのこと」
「そうなんだけど……」
「それに、ノーウェ先輩の上司だって、殺すほどの動機? もし、有ったとして、キオウミと共謀する意味ある? かえって危険の方が大きいんじゃない?」
ストレートにシャットアウトされて、ジンは口を尖らせ、せっかくのアナザーストーリーは色褪せると同時に、ミーティングも白けてしまった。
アイボリーもまた下を向いてしまった。
自分の意見は言わない。発案しない。アイデアも出さない。
議論を前進させるという意思がない。
だが、人が出した案には、難癖つける。
自分も考えている、というポーズのために。
しかも、失敗した時の免罪符。だから言ったでしょ。
よくあるパターン。
スペーシアに貼ったそんなレッテルが、二重貼りになった。
じゃ、あなたの案は?
出してよ。
と言わんばかりの目でジンと三四郎がスペーシアを睨むが、スペーシアは自分の意見は言ったつもりか、涼しい顔。
遠慮の塊となってしまった一口ゼリーに手を伸ばしている。
気詰まりな空気を入れ替えてくれたのは、うまいタイミングで戻ってきてくれたルリイアだった。
キオウミとツータックの接点?
ないわね。きっと。
少なくとも仕事の上では。
プライベートなことは知らないけど。
「念のため、あの掃除のおばちゃんに聞いてみてもいい?」
悪あがきだけど、とジンは自分で言って、アナザーストーリーは悲しくジョッキー落馬。
ルリイアのために、話は振り出しに戻っている。
各自が報告の核心部分のみ繰り返している。
あの話はどうなったのだろう。
まだ聞いていない報告。
フウカによる、イベント会社アルバイト陣へのヒアリング。
もうしたのか、まだなのか。
もちろん、ここで話せまい。
アイボリーの同僚へのヒアリング。気持ちを逆撫ですること間違いなし。
ただでさえ、責任を感じ、あるいは不安に感じているアイボリーに聞かせることではない。
取りようによっては、アイボリーの身辺調査にもなりかねないのだから。




