201 それならランなど、終身刑だ
「でも、ミリッサ、急いで食べて。さっさと飲んで。会わせたい人がいるねん」
「なんだ? 今?」
またか。
またとんでもない人に、妖怪に、会わせるというのか。
もう、結構なんだが。
お館様が直々お出ましか?
「オロチ、ミリッサにとり憑いてた蛇。直接、謝りたいって」
「はあああ~」
「会ってあげて」
「へいへい。なんでもオマエの仰せの通り」
「嫌な言い方」
あの日の出来事は夢物語ではなかったし、妖怪猫に幻影を見せられたわけでもなかったということだ。
そして、本当に蛇と会ったのだった。
というより、いつの間にか上から見下ろされていたのだった。
蛇は桜の木の枝に身を横たえ、恭しい声で呼びかけてきた。
ミリッサ殿。
と。
この度は、大変なご迷惑とご不快な思いをさせてしまい、まことに申し訳ござらぬ。
一言、お詫び申し上げるべく、参上仕りました。
ミリッサ殿のお慈悲あるご答弁によって、寛容なお沙汰が下り申した。
改めて、深く御礼申し上げる。
蛇が木から降りてきた。
目と鼻の先の地面に長々と体を横たえている。
見れば見るほど、大きな蛇だ。
あいだみちで襲ってきた時とは比べ物にならないほど、小さいが。
ただ、これはこれで、蛇にとっては無防備な姿勢なのだろう。
許しを請う姿勢なのかもしれない。
以降、貴殿に憑くなど、ご無礼をいたすことはございませぬ。
なにとぞ、お許しくださいますよう、お願い申し上げまする。
つい、はあ、そうですか、と無様な受け答えをしてしまった。
とり憑かれていた実感が全くないのに、そう恐縮されても、というのが実際の気持ち。
ただ、蛇は笑ったように見えた。
では、これにて失礼仕る、と行ってしまおうとする。
「待て。聞きたいことがある」
何のために、ということを聞かされていない。
蛇が動きを止めた。
「なぜ、俺にとり憑いた。恩返しと言ったな」
「それは申せませぬ」
「なぜだ」
「妖の意思など、人間に伝えるべきものではございませぬ」
「伝えたら、どうなる?」
蛇は戸惑ったようだが、いや、答え方を吟味したのかもしれない。
一瞬の間があって、
「罰せられまする」
と、言った。
嘘をつけ。
それならランなど、終身刑だ。
もう蛇は何も言わず、ズルズルッと灌木の茂みに消えた。




