200 ウェーイ! 気付いてたんや!
あの日、お館様、月隠の白君の御殿で別れて以来、今日が初めて。
これほど近くで顔を見るのも話すのも。
部員たちがいる前では話せない。
今が初めて。
「あれから、どうした? 学校も休んでたな」
心配してたんだぞ、などとは言わない。
理由はない。
むしろ、数日が経ち、連れ回された感も強くなっている。
「あれ、心配してくれてなかったんや」
「心配はした。でも、どうせ俺にできることは何もない」
「お守り、持ってる?」
「ああ」
「じゃ、それに聞けばよかったのに。どうすればいいか」
そんなことだろうと思った。
妖怪のくれたお守り。きっと霊験新たかなんだろう。
「で、どうなったんだ。お叱りとか、なかったのか?」
「ないよ。お館様は満足してたみたいやし」
「ふうん」
あれで?
まだ質問はあるようだったが。
あれだけでよかったのか?
あれ以来、ランのお守りは大事に首から下げている。
何が起こるかわからない。
まさしく、守ってくれるような気がして。
せめてもの気休めとは知りつつも。
「それより、蛇のこと、心配してあげへんの?」
「ん? あ、そうか」
「ミリッサって、案外冷たい」
ランの大きな目がじっと見つめている。
そうだ。
フウカが言ってたな。
「ちょっと笑ってみ」
「こう?」
ランは素直に口を開けて大きく笑った。
「イーン、してみ」
「こう?」
確かに。
八重歯はそのままだが、前歯はきれいにぴったりくっついている。
「なに? きれいになったとか?」
「前歯」
「うおっ。ウェイウェーイ! 気付いてたんや! 感激!」
フウカから仕入れた情報とはもはや言えぬ。
「さあ、食うぞ。喋ってたらパドックを見損ねる」
「はーい」
どこまでもかわいく振舞うラン。
こいつ、本当にあの獰猛な猫妖怪か?
こいつがあそこで日本刀を抜いたのか?
現実的なことに意識を戻そう。
二人きりで話せる場面は多くない。
気になり始めたことがある。
アイボリーの祖母、ヨウドウの母。
自殺した彼女の財団の担当者は誰か。
「ラン。知っておきたいと思わないか?」
契約書をアイボリーは手に入れたのだと思う。
それをフウカも見たのではないか。
「えっ、何の話?」
アイボリーの祖母のこと、アイボリーがジンと一緒に傾聴ロボットを取りに行ったこと、フウカと一緒にその契約書を探しに行ったことを話した。
「それで、な」
「ふうん」
それを本人たちに確かめることはしたくない。
ヨウドウに問うこともできぬ相談。
万一、それがノーウェだった時には、アイボリー犯人説に直結する恐れがある。
「関係ないと思うけどなあ。でも、まあ、やってみるけど」
「お、そうか。調べられるのか?」
「サイバーチームにやらせる」
「サイバーチーム? 妖怪の?」
「妖をバカにしてるでしょ」
「ぜんぜん」
「してると思う。それに、その話、的、外してると思うけど。ま、期待しないで待ってて」
もちろん、的は外していると思う。
むしろ、そのためだ。
確認。
単にそのため。




