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2 プロローグ 弐の一 LOVE、ラブ
「これで作ってくれ」
女が言うと、老婆はお守りのような小さな錦の袋をつまみ上げた。そして、問うた。
「何と封する」
女は少し迷ったが、きっぱりと答えた。
「愛」
案の定、目を上げた老婆の顔が引きつったかに見えた。
乱れた白髪が逆立ったかにも見えた。
「なんじゃと」
「愛。LOVE、ラブ」
実際は迷っていたわけではない。
この言葉に決めてはあった。
ただ、やはり照れくささがあった。
「おめえ、これがなにか、わかっておるのか」
「ああ、知っている」
「いいや、知らぬのじゃろう」
「知っているから頼みに来た」
「これらはみな、なにものかを封するためのものぞ」
老婆が、並んだ品々の上に手を泳がせた。
すすけた着物の袖からむき出しになった痩せ細った腕に、青筋が網の目のように浮き上がっていた。
村を貫く通りから外れ、細く曲がりくねった小径の突き当り。
雑草が生い茂る。
ウンカが次々に顔に当たる。
この先はもううっそうとした暗い杜。
巨大な椋木の枝が、板葺きの屋根を覆うように伸びている。
この木の葉は冬が来ても落ちることはない。
不思議な森に密かに佇むあばら家一軒。
ここに老婆は住んでいる。
呪術師。
平安の時代からここで、この商いをしているという。
とすれば、元は人か。
どうでもよい。




